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ロールプレイン・ディス・ワールド  作者: たる。
第三章 無人の町と狼
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page19

 翠晶学園には〈ゴーレム〉を設置した訓練場がある。屋内にある空間で、グラウンドほどの広さはないものの設備はしっかり整っている。〈アルターストーン〉のすぐそばで〈アルターフェーズ〉に関する大きな研究機関があることもあり、翠晶学園は〈ロールプレイ〉のための施設に関しては徹底していた。

 旧式の〈ゴーレム〉は倉庫に格納されていた。その数は十体ほどだ。

「これは骨が折れそうだな……」

「わたし、肉体労働は専門外ですので。あとは脳みそ筋肉の志乃さんにお任せします」

「勝手に人を脳筋認定するな。お前の魔法使ったほうが絶対楽だろ」

「相変わらず志乃さんにはプライドの欠片もないんですね」

「意地張った所で〈ノーロール〉にはこの岩の塊を動かす力は無いんだよ……」

「惨めですね、〈ノーロール(役立たず)〉は」

「うるさい! ……さっさと全部運ぶぞ。裏にリヤカー置いてあるからそこまで運んでくれ。後は俺がやるから」

 瑠璃のロール〈賢者〉の特性は言ってみれば「極めて優秀な魔法使い」だが、さすがに物体を瞬間移動させることは出来ないらしい。結局は人力で運ぶしか無いのだ。

「仕方ありませんね。それでは……」

 瑠璃は片手でぬいぐるみのグンジョウを抱きかかえると、もう片方の手で腰のホルダーに収めている〈賢者の書〉を手にする。

「……〈重力解除(グラビティアウト)〉」

 瑠璃が魔法を唱えると、その声に反応するように本のページがひとりでにめくられていく。そして〈ゴーレム〉の足元にうっすらと魔法陣が出現して、……消えた。

「……はい。あとはよろしくお願いします」

 役目は終わりだとばかりにパタンと本を閉じる。

「よろしくって……。浮遊とかさせられないのか?」

「そんなの疲れます。魔法だって体に負担はかかるんですよ」

「だからって……」

 〈ゴーレム〉は見た目には何も変わっていない。志乃は試しに腰のあたりに手を回して持ち上げようとしてみた。

「うぐっ……」

 〈ゴーレム〉は確かに持ち上がったが、重い。少し軽くなってはいるようだが、志乃の力でギリギリ持ち上がるという程度のレベルだ。運べないということはないが……。

「じゃ、わたしはここで待つので」

「いや、もうちょっとくらい手伝ってくれよ」

「誰のせいでこんなことになっていると?」

 それを言われると言い返せない。

「……わかったよ、しょうがないな」

 瑠璃は元々自分を監視するだけの仕事で済んでいたはずだ。彼女がこうして手伝いに加わらせられているのも、半ば自分が騙したようなもの。瑠璃相手にはあまり強くは出られなかった。

「……けどこれ、やっぱり、重……」

 えっちらおっちらと裏手のリヤカーまで運び、そして廃棄場まで運んでいく。そうしてやっとの思いで一体を運び終え、訓練場に戻ってきた。

「はあ……。おい天ヶ崎、戻ったぞ。次だ。」

 呼びかけてみるが、返事がない。

「まさか帰ったんじゃないだろうな……。おい、天ヶ崎!」

 再度呼びかけながら倉庫を覗きこむ。

「……何やってるんだ?」

「話しかけないでください。気が散ります」

 瑠璃は残った〈ゴーレム〉の中の一体に対し、何やら魔法を発動させていた。〈ゴーレム〉を囲むように帯状の魔法陣が幾重にも展開され、瑠璃の手元には画面のような物が浮かんでいる。さながら何かの検査機器のようだ。瑠璃はそれらの画面に手で触れて操作しており、〈賢者の書〉は瑠璃の目の前で浮遊している。グンジョウはどういう仕組なのか大人しく彼女の背中にぶら下がっていた。

 ……志乃のために使ったものよりも明らかに大きな魔法だ。

「おい、天ヶ崎」

「うるさいですね」

 瑠璃は不快そうに目を細めつつ、魔法を閉じた。

「何してたんだよ。そんなことしてるくらいなら手伝ってくれ」

「"そんなこと"じゃ済まないかもしれません。では、わたしは少し研究センターに行ってくるので」

「は……? って、おい待てよ、まだ全然終わってないぞ!」

「後はお任せします」

「情けないことだが一人じゃどうにもならん! せめて事情を話してくれよ」

「……他言無用ですよ?」

 瑠璃は渋々立ち止まると、真剣な顔つきで振り向いた。

「お、おう……?」

 その様子に気圧されつつ頷くと、瑠璃は改めて先ほどの魔法を展開する。

「……この〈ゴーレム〉、不正な魔法命令を受けた形跡があります」

「不正な……なんだって?」

「〈ゴーレム〉は半自律機動ですが、基本行動は権限を持つ術者が魔法で命令します。その命令を権限のないもの不正に行った……言わばクラッキングのようなものです」

「そんなことがあるのか?」

「ええ。まだ悪意のあるものと決まったわけではありませんが……昨日、あの廃棄予定の〈ゴーレム〉が暴走して志乃さんを襲ったそうですね」

「あ……」

 昨日のことを思い出す。明らかに様子のおかしかった壊れたはずの〈ゴーレム〉。あれは、誰かに不正に動かされていたということか。

「でもお前、あれは壊れて動かないって……」

「動力関連は専門外でしたが、命令系統は少しばかり理解があったので、そこだけ調べたんです。命令は受け付けず、そもそも動いていないように見えました。……おそらく、あれが唯一制御に成功したものだったのでしょう。一目にはわからない形だったために気づけず……迂闊でした」

「じゃあまさか、こいつらも……!?」

 倉庫の中に並ぶ〈ゴーレム〉を見て冷や汗が背を伝う。しかし瑠璃は首を振った。

「どうやらあれ以外は乗っ取りに失敗したようです。形跡こそありますが、今まさに何らかの影響を受けている様子はありません。……というわけで、わたしはこのことを報告しに研究センターへ行きます」

「研究センター……。お前の居たところか」

「ええ」

 翠晶島中央研究センター。〈アルターフェーズ〉に関する研究を行う機関の施設だ。

 瑠璃は元々その施設の研究員の一人だったらしい。この学園へは研究の一環として去年転入してきたと、会って間もない頃に話されたのだった。

 当時の瑠璃は今にもまして冷たく閉鎖的だったが、研究センターの話をする時は随分と楽しそうにしていたことを思い出す。

「……この学園だってセンターの上にある組織の管轄です。これ以上何かあろうものなら……研究センターの名にも泥を塗る事になってしまいます」

「本当にお前、あの場所が大切なんだな」

「当然です。……あそこはわたしの大切な場所です」

 瑠璃の目は真剣で、それでいて普段見せないような穏やかで優しい色をしているようにも見えた。その表情に、志乃はこれ以上止めないことにする。

 彼女は今まで長い時間を研究センターで過ごしてきたという。瑠璃にとってあの場所はもう一つの家のようなものなのだろう。

「……わかったよ。んじゃせめてこいつら全部に〈重力解除〉かけていってくれ」

「仕方ありませんね。……あ、そうです。後であの似非勇者に伝えてください」

「悠月か。何をだ?」

「あの〈ゴーレム〉に干渉してきた魔法、見たこと無い形式で……いえ、そもそも根本的な理が異なるような……とにかく異質なものを感じました」

「はあ……?」

「ですから、あの人がマモノとやらを見かけた地域には絶対に近づかないように言ってください」

「は? お前、それとこれと何の関係が……」

 志乃が話についていけないでいると、瑠璃はいつもの呆れたような半眼で、しかし真剣に説明した。

「〈アルターストーン〉によりこの世界に広がる理とは異なるモノに基づく力。……いるかもしれないんです。……異世界から来た、マモノとでも呼ぶべき存在が」

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