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ロールプレイン・ディス・ワールド  作者: たる。
第二章 勇者パーティーと仲間たち
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 どうやら綾音の帰り道は途中まで志乃と同じ方向らしく、二人で帰路についていた。千歳は別方向なのですでに別れている。

「全く、何よ準備室って……」

「まだ言ってるのかそれ?」

「だって許せないじゃない! あんな狭い粗大ごみ置き場なんかに押し込められるなんて……」

「まあ遊び同然の部だしな。当然の仕打ちだ」

「遊びじゃない! あたしは本気なんだから!」

「……そうかよ」

 綾音は真っ直ぐな目で叫んだ。確かに千歳が言ったように、彼女は彼女なりに真剣であるようにも見える。

「……なあ悠月」

「何よ」

「……お前の『〈勇者〉になる』って、お前の〈ロール〉が、〈勇者〉とかいう存在するかもわからない超強力なやつに変化するって意味で言ってるのか?」

「そうよ。こんな弱い〈ロール〉じゃ世界なんて救えないもの」

「わかんねえな。なんでそこまで〈勇者〉なんてものに固執するんだよ。〈ロール〉が変化するなんて聞いたこと無いし、無いものねだってたってしょうがないだろ?」

「……ほんっとうに夢がないわね、あんたは」

 綾音は呆れたようにそう答え、歩きながら空を見上げた。目の前に続く登り坂の更に向こう、どこか遠くへ思いを馳せるような視線の先には、天をつくような高い〈塔〉がそびえていた。そしてその上には翠色の〈アルターストーン〉が輝いている。

「あんたも、『エルネリシア』の基礎設定くらいは知ってるでしょ」

「は? まあ、一応な……?」

「〈アルターストーン〉って、『神の雫』みたいじゃない?」

「そうだな。『ロストマギナ』的には『魔界珠』だが」

「死になさい」

「そんなに嫌いなのか……」

「ふん。神の雫と魔界珠を一緒にしないでよ」

「はいはい。……で、それがどうかしたのか?」

 本題からズレ始めた話を元に戻すと、綾音は不機嫌そうに頬を膨らませながら続けた。

「……〈アルターストーン〉が神の雫なら、〈勇者〉も居るはずって思ったのよ」

「はあ……?」

「だって『エルネリシア』シリーズの始まりと一緒じゃない。……闇に世界が覆われし時、碧の光が世界を照らす。〈神の雫〉が輝きし時、選ばれし者は勇者となりて闇を斬り裂く剣となる。そして今がその〈時〉だ」

 綾音は「エルネリシア」に登場するセリフをそっくりそらんじた。

「……お前それ、覚えてるのか」

「当たり前よ。我は剣。闇を斬り裂く希望の光り。我は剣。魔王を貫く聖なる閃き。我は剣。世界を繋ぐ栄光の輝き。我は剣。神の御心のままに振るわれることを誓う。……序文と勇者の祝詞くらい暗唱できて当然よ」

「その努力をもっと別の所に向ければいいのに……」

 これが俗に言う中二病とやらだろうか。志乃は頭が痛くなってきた。

「……んじゃつまり、お前はこの世界がまんま『エルネリシア』みたいになったから、自分が勇者に選ばれて世界の希望になるって思ってるのか?」

「そういうこと。だって『エルネリシア』の勇者は決まって今まで何の力も持たなかった人間が神の雫に力を与えられてなるんだし、神の雫があって勇者がいないなんておかしいじゃない」

「ああそうだな。おかしいよ。主にお前の頭が」

「でしょ、そう思うわよね? ……ん? ねえあんた、最後に何て言った?」

 都合の悪い部分だけ綺麗に聞き逃した綾音を見て、志乃はより一層頭が痛くなる。

 想像を絶する痛々しさだ。要するに彼女は現実とゲームの世界を重ねているのである。

(……まあ、実際冗談みたいな世界RPG化が始まってるからなぁ……。勇者ぐらいいてもおかしくないかもしれんが……)

 しかしそれとこれとは話が別だった。どう変じた所でこの世界は現実。「エルネリシア」にはならないのだから。

「はあ……。お前もう、好きにしたらいいんじゃね?」

「は? 何が?」

 お手上げだと、志乃は考えることを放棄した。これ以上は考えるだけ無意味だ。

「まあいいわ。よし、明日から忙しくなるわよ! 放課後はあの魔者を探すんだから!」

「魔者か……」

 やはり未だに信じられないが、仮に居ると考えた所で、志乃の中ではまた別の疑問が浮かび上がってくる。

「……なあ、悠月」

「今度は何よ?」

「お前、俺のこと知ってたって言ったよな」

「そうね」

「んじゃ、なんで俺、この部に入れられたんだ?」

 自分は弱い。不本意ながら、志乃はそのことを認めている。それだけに、魔者などというものが居たとしても自分が役に立つとは思えなかった。〈ゴーレム〉は運良く動力を潰せたが、果たして得体の知れない化け物相手に何ができるのか。

「お前さ、俺のこと何処まで知ってるんだ?」

「どこまでも知ってるわよ? 〈特別認可生〉で、灰色の髪と赤っぽい目のせいでみんなに怖がられてて……」

 とどめとばかりに、綾音はにやりと笑う。

「……〈ノーロール〉。誰もが〈ロール〉を持つこの世界で、何の〈ロール〉も持たない特異な存在」

 そして、志乃のあらゆる"マイナス"の根底にあるものをピシャリと言い当てた。

「……正解。なんだ、知ってるんじゃねえかよ」

 参ったと手を上げる。なるべく言わないようにしているのだが、やはり噂は広まっているらしい。

「あんた、自分で思ってるより有名よ。〈ノーロール〉なんて珍しいもの。すぐに広まるに決まってるじゃない」

「だよな……」

 嘆息する。やはりどうあがいても自分は目立ってしまうらしい。

 誰もが何かを持っているこの世界では、何もないからこそ返って目立ってしまう。たくさんの杭が並ぶ中に高く飛び出ているものがあればそれだけで目立つが、逆に低いものがあれば、それも目立つのは必然だ。

「……んで、勇者サマよ。俺みたいな〈ノーロール(無能)〉がなんでお前の仲間にされてるんだ? 数合わせってんなら、明日からはもう活動に参加しないぞ」

「あら、そんなの決まってるじゃない」

 綾音は指先で志乃の胸を突く。

「この上なく珍しいからよ」

 当然とばかりの言葉に、志乃は唖然とした。

「……はあ?」

「〈ノーロール〉なんて特異体質、いかにも何か隠し持ってそうでしょ? だから今のうちに目をつけておこうと思ったのよ」

「……あのな、俺は『エルネリシア』のキャラじゃないんだ。秘めた力を持ってるとか、そんな都合のいい話があると思うか?」

「いいじゃないのよ。このあたしが拾ってあげたのよ、名誉に思いなさい」

「名誉って……」

 嘆息する。誰も頼んだ覚えはないし、こんなことが名誉に思えるだろうか。

 ……と、思う一方で。

「……まあ、確かにそんな物好きもお前くらいだろうけどな」

「何よ、失礼な言い方ね」

「わかった。けど、この先何もなくても怒るなよ?」

「ふふ、その時はあたしの最大の引き立て役としてそばに置いておいてあげるわ」

「ったく、お前は……」

 もう言い返す気も起きなかった。

(……いや、それどころか……何考えてるんだかな、俺は)

 明らかに「普通」ではなくて、「異常」で、もしもこの世界がゲームなら、自分は〈バグ〉だと思っていた。システム通りに動かない、出来損ないの異常なデータ。

 こんな自分を必要とされたのは、どんな形であれ、これが初めてだった。

 このまま彼女について行くのも悪くないのではないか。そんなことまで考えていた。彼女の痛々しい言動に何か毒されているのだろうか。

「さ、明日からは本気で活動するわよ」

「活動って、魔者探しか?」

「そうよ。そして〈アルターストーン〉にあたしの意志を見せつけて、〈勇者〉に選んでもらうんだから!」

「……こんな頼りないやつに使命を任せるとは思えんがな」

「ちょっと、聞こえてるわよ」

「なんだ、都合の悪いことは全部聞き流す難聴患者じゃなかったのか」

「失礼ね! ていうかあんた今までも何か言ってたわけ!?」

「……言ってない」

「何よ今の"間"は! 言ったのね? あたしの聞こえてない所で何か侮辱してたのね!?」

 綾音をからかいながら家路をたどる。思えば、こうして誰かと下校するのは高等部に入ってからは初めてだったかもしれない。

「ちょっと聞いてるの!? 洗いざらい吐きなさいよこの!」

「うるさいな。あー、そうだな、色々言いすぎて覚えてない」

「覚えてないって……そ、そんなに色々言ってたの!?」

「まあ、うん。あれだ。明日から頑張ろうな」

「ちょっと、はぐらかさないで言いなさい! ゆ、許さないんだからー!」

 綾音が真っ赤になって怒鳴っている。少しばかりうるさいが、こうした賑やかさも志乃にとっては懐かしいものだ。

 ……明日からの日常は、随分と騒がしくなりそうだった。

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