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「おい、悠月。終わったぞ」
「あら。惜しいわね、これからがいいところだったのに」
どうやら千歳相手に勇者の話でもしていたらしい。どこか名残惜しげだ。
「あ、しーくん! 綾音ちゃんってすごいんだよ~。伝説の剣に選ばれたブレードマスターで、108の異名を持つ大魔導師でもあって、なんとその名は魔界にも知れ渡るほどで、それからそれから……」
「たった数分の間にころっと洗脳されないでくれるか、先輩……」
綾音の脳内設定話を真に受けているらしかった。もしかしたら彼女を綾音と二人きりにするのは色んな意味で危険かもしれない。
「悠月。天ヶ崎が入部するそうだ」
「……よろしくお願いします、綾音さん」
ちっともよろしくする気がなさそうな様子でわずかに礼をする瑠璃。綾音は挨拶もせず、彼女の全身を見回した。
「……なんですか」
「あんたの〈シンボル〉はそのダサいぬいぐるみ?」
「志乃さん、今ココで極大魔法をぶちかましても許されますよね」
「許されません。……悠月、お前も失礼だぞ」
「ふん。いいです。〈剣士〉なんていう脳みそが筋肉でできてるような〈ロール〉にこの子の価値が理解できるとは思ってないですから」
「な……!」
綾音もどうやらカチンと来たようだ。掴みかからんばかりの勢いで迫ろうとするが、その前に瑠璃が腰に提げた本を見せつけた。
「似非勇者さんは、これが何かわかりますか?」
「は? 何よこの汚い本」
「……〈賢者の書〉ですよ。そんなことも知らずに勇者だなんて笑わせますね」
瑠璃はふんと鼻で笑う。綾音は爆発させかけた怒りを驚きに塗り替えた。
「〈賢者の書〉……ってことはあんた、〈賢者〉なの?」
「やっとわかりましたか。なんなら〈アナライザー〉で見てもいいですよ?」
言われるままに〈アナライザー〉を瑠璃に向ける綾音。その画面に映る情報から、彼女の言うことが真実であると知る。
「しかもレベル53って、千歳より上じゃない……」
「ふふ。頭が高いですよ、似非勇者さん」
瑠璃は胸を張って綾音を見下す……事は身長的にできないが、気分だけでも見下した。
〈フォースター〉。五段階あるレアリティ中、二番目の位。最上級にあたる〈ファイブスター〉の〈ロール〉は理論上のみの存在とされているため、現状では実質最高評価のレアリティと言える。〈賢者〉はそのレアリティに定められた数少ないロールの一つ。〈魔術師系〉の至高ともいえる存在だった。
「わかったら今すぐわたしとこの子に謝ってください。土下座で結構ですよ」
ふんと鼻を鳴らす。……しかし綾音はそんなことお構いなしといった様子で。
「ふふ、あっははは! いいじゃない、勇者の仲間としてはかなり有用だわ!」
「……はあ?」
綾音の不遜な態度に瑠璃がジトッと半眼になる。
「中途半端に優秀なほど、真に優秀な者の良い引き立て役になるのよ! ふふん、あんたがあたしとの間にあるどうしようもない格の違いに絶望して崩れ落ちるのを想像すると今から楽しみだわ」
「……志乃さん。この話はやっぱり無かったことに」
「耐えろ天ヶ崎。どうせ明日からは顔も合わせないで済むんだ」
今にもブチ切れて魔法で図書館ごと綾音を消し飛ばしそうな瑠璃を何とかなだめる。志乃とて気持ちはわからないでもない。
「さあ、勇者の威光の下に、ついに仲間が集まったわ!」
「いや、集めたのほとんど俺だったよな」
「よし! 後は顧問をとっ捕まえて部活認定させるだけね! 行くわよ!」
「相変わらず聞いちゃいねえ……」




