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「で、あんた。この際もう一人くらい知り合いいないわけ?」
「当てか……。……先輩は?」
「え? うーん……私のお友達ってみんな部活入ってたりするからなぁ……」
千歳にはあてはないらしい。綾音にも期待できないと考えると、志乃の知り合いの中から探すしかなさそうだ。そうなると必然的にある一人の人物が候補として上がる。
(……いや、あいつが協力してくれるわけ……ん? 待てよ……)
と、そこで志乃の頭にある一つの考えが閃く。上手く行けば彼女が協力してくれて、それにより自分の境遇の改善にも繋がり得る、決定的な一手だ。
綾音の部そのものはどうでもいいが、これは試してみる価値がある。そう確信して、志乃は千歳に尋ねた。
「……なあ、先輩。あいつ、今どこにいるかわかるか?」
*
「お断りします」
瑠璃が本題を切りだす前に即答した。
「いや、まだ本題に入ってもないぞ」
「部活に入る気はないか? なんて訊かれた時点で本題を言ったようなものです。とにかく、お断りしますから」
いつもの半眼で言い切られる。そして取り付く島もなく、瑠璃はそのまま机に開かれている分厚い本を読みに戻ってしまった。いつも腰に提げている物だ。
ちなみにぬいぐるみは膝の上にやはり載っている。
「なあ天ヶ崎、とりあえず話だけでも聞いてくれ」
「お断りします。……ここ、図書館ですよ。静かにしてください、志乃さん」
「う……」
瑠璃の言うとおり、今志乃たちがいるのは学園の中央図書館だ。その自習室では、瑠璃の他にも読書や勉強に励む生徒が数人いる。話し声が耳障りなのか、先程からちらちらと視線を感じていた。
「いや、頼むよ。お前にとっても悪い話じゃない」
「部活なんて無駄なものに入る気はありません。そんな時間、わたしにはないんです」
「……じゃあ、部活に入らずして〈特別認可生支援係〉を辞められるとしたら?」
ぴくりと、瑠璃が反応した。
「……場所を変えましょう」
食いついた。……志乃は内心でガッツポーズを決める。
そんなわけで、一行は図書館の談話スペースへ移動する。志乃は瑠璃と向い合って座り、声を潜めて言った。
「話は単純だ。お前は、今からあいつ、悠月が設立する〈勇者研究部〉に入れ」
「さようなら。良いお年を」
「待て待て待て、勝手に年内はもう会うまいとするな」
どうしてこんなにも嫌われているのかと嘆きそうになるが、そんな場合ではない。今は彼女にこの話の趣旨を伝え無くてはならない。
「いいか、こんなのあいつが好き勝手やりたい遊び場が欲しいだけだ。部活ってほどちゃんとしたものじゃない。看板だけだ」
綾音に聞こえないよう気をつけて小声で囁く。聞かれたらややこしいことになりそうなので、彼女は千歳に惹きつけておいてもらってある。
「つまり、お前は実質部活に入っていないも同然な状態で、形式だけ入部してるって状態になる。そうすりゃ〈支援係〉も降りられるはずだ」
瑠璃が〈特別認可生支援係〉に任命されたのは一年生の頃だ。そして彼女が役割を拒んでいるのにも関わらず、今に至るまで交代させてもらうこともできずに〈支援係〉を任され続けているのは、彼女が「部活に入っていなくて暇だから」という半ば押し付け気味な理由のためである。
つまり、瑠璃が形式上だけでも〈勇者研究部〉に入れば、〈支援係〉の役目を負うことはなくなる。
そしてこの話のどこに志乃にとっての旨味があるのかというと。
「お前が〈支援係〉という名の監視役を降りれば、俺をパシリに使うのに今度はおっさんが直々に監視する必要が出てくる。お前に〈支援係〉を押し付けてたのも他に当てがないからだ。そしてあいつは跡継ぎ探しも監督も面倒臭がって自分でやるタイプじゃない。つまり、俺もパシリを辞められる。お前も放課後は完全に自由になる。……どうだ、旨い話だろ」
「……悪くはありません。けど、本当にそんないい加減な部なんですか?」
「ああ。間違いない」
本人のいない前で陰口を叩くというのも褒められた好意ではないが、こちらには不当労働からの脱却がかかっているのだ。背に腹は代えられない。
「……というわけだ。いいな?」
「……わかりました」
瑠璃は半信半疑といった様子で頷く。交渉成立だ。




