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エンデヴァー・プロジェクト  作者: 国見 紀行
第二章 現実の侵食
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第9話 目覚める救世主

 瞬間、視界が弾けた。

 今までも十分な視界があったが、左右合わせて300度近くに広がったような錯覚を覚えた。


「いや…… ARMによって間違いなく広げられているな、これは」


 それと同時に、時間の流れが遅く感じる。今まさに襲ってきているHDC-150がゆっくりと俺に向かって噛みつこうと大きな口を開けようとしているのがわかるほどに。それに伴ってか、世界の見え方が若干青く、重く感じる。スポーツで言う「ゾーン」にでも入ったのかもしれない。


「なんだ、これ?」

「来る!」


 脳内へストレートに流れ込む彼女の声に反応して、俺はHDC-150の体に注目する。ステラを自分の背中に逃がして相手を注視すると、その大きな口に微妙な「ズレ」があることに気が付く。


「……なんだあれ? なんであんなのが見えるんだ?」

『当たり判定と攻撃判定にある「ズレ」は「壁ジャンプ(すりぬけ)」の対象です』

「は? ミストル、何て?」

『対象に「壁ジャンプ(すりぬけ)」を発動しますか?』


 今まで敵に「壁ジャンプ(すりぬけ)」の判定が出たことはない。だけど、ARM(ミストル)が言うことが間違ってたことはない。

 ……リスクがデカイけど、試してみる価値はある。


「衝突ダメージが最小になるあたりまで逃げて、そこで試してみる」

『了解です』


 バックステップで距離を取り、当たり判定を慎重に探る。どんどん近くなる当たり判定があと少しで衝突する直前、ズレが「壁ジャンプ(すりぬけ)」の対象範囲に入った。


「今だ!」


 背中にいるステラごと「壁ジャンプ(すりぬけ)」を起動する。スロットのPM(プログラムモジュール)が発動を示す点滅を放ち、するりと俺たちはHDC-150の背中の上へとすり抜けた。


「すげえ! マジで抜けた!」

「ひゃああ!」


 ステラの驚く声に、ちょっとだけ優越感。

 徐々に時間の経過が元に戻りつつあるのか、青みがかった視界が戻ろうとしている。その前に。


「弱点の尻尾、今なら丸見えだぜ!!」


 ニンジャソードを抜き、潜航行動の要になってる尻尾に刃を向ける。ほぼ真下にある尻尾に全体重をかけながら急降下すると、あっけなく尻尾が切断された。


《キオオオオオオオオオオ!!!!》


 目標を見失い、大事な器官を切断されたHDC-150は、金属が擦りきれるような声で叫びながら地面の上でのたうち回る。


「!? よくわからんがチャンス!!」


 ジョーさんがダッシュでこちらに戻り、慣性逆らって斧を高く振り上げる。そして今度は重力に任せて力いっぱい振り下ろした。


「おんだらぁぁぁぁ!!!」


 ずぢゅっ! という独特な音が響くと、HDC-150は体を構成する器官に亀裂が走り、轟音とともに爆発を巻き起こした。


「う、わ。すげぇ爆発」

「ステラ、大丈夫?」

「『うん。ありがとう』」


 ステラの声は先ほどの奇妙な聞こえ方からARMを通じた翻訳言語に切り替わった。


「ステラ?」

「ああ、ジョーさん。この子実は……」


 外装がなくなって元のヘッドマウントディスプレイに戻ったジョーさんが、ステラを見た途端片膝をついてステラの手を取った。


「ご無事でしたか、姫君!!」




   ◇




「なんや、この歳でまたこの椅子に座ると思てなかったわ」


 学校の指導室で俺と八雲ねーちゃんが揃って机に向かってる姿はいささかシュールだが、同じくステラも隣にいるといよいよ違和感がすごい。


「君たちに集まってもらったのは他でもない」


 ジョーさんが話し始めるが、不意に個別で音声メッセージが飛び込む。


『……なあみそっち、あのイケメン誰?』

『えっ、八雲ねーちゃんああいう(・・・・)のが趣味なの?』

『アホ。あんなイケオジ島に居らへんやろ』

『……俺もジョーさんのことはよく知らないから、本人に聞けば?』


「ジョーさん?」

「ああ。オレは城瀧(しろたき)丈一郎(じょういちろう)。ゲームアプリ『BATTLE-ARM』のメインプログラマの一人だ」

「ふぇっ!? い、いつもお世話になってます! 開発デスク『ホワイトピジョン』の八雲言います!」

「ああ、ホワイトピジョンさんとこの。こちらこそお世話になってます」


 突然態度を正す八雲ねーちゃん。俺も驚いて二人を交互に見るが、ステラはというと首を傾げて眉の間にシワを作る。


「『ほわいとぴじょー?』」

「要するに仕事先の納品先…… ちゅーか、おエライサンや」

「ははは。BATTLE-ARMは世界中で遊ばれてるオンラインゲームだからな。今でも未確認侵略生命体ハンティングアクションとしての完成度は……」

「まあ、それはいいんだけどどうしてステラまで? それに――」


 その先を言おうとした時、ジョーさんは俺の方を見て口に指を当てる。


「まず確認だ。この子を連れ出したのは君なんだな?」

「え!? あ、はい……」


 突然背筋が凍る質問。彼女を連れてこいと言われたときは覚悟していたが、いざ言葉になると緊張感がすごい。

 自分のしたことに震えながらジョーさんを見ていると、俺に近づいて思いっきり肩を叩いた。


「よくやった! 君は救世主だ!」


 ……少しちびったかも。

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