第8話 戦斧のジョー
「まあ座り給え」
おっさんは着席を勧める。言われるまま座るとおっさんのマウントディスプレイが白く光る。
「巡里、深宙。中学2年生。男子。両親は本土で仕事。母は十六夜、父は陽高。小学校4年次からオンラインゲーム『BATTLE-ARM』に登録し、現在個人ランキング最高7位を記録。プレイヤー名は、『ダークシャドウ』。んー、なかなか患ってるねぇ」
恐らく俺の資料と思しきものを読み上げている。父と母の名前もあってるし、ハンドルネームも…… って、なんでそれがバレてんだ??
「これなら先日のHDC-025との立ち回りが見事だったのも頷ける。同接プレイヤーのサポートも中々だが、我々が駆けつける前に退治されて助かったよ」
「そ、それは八雲ねー…… えっと、知り合いが全部」
「ただ――」
俺の話を遮るように、1オクターブ低い声で俺を制する。
「さらにその前、君のGPS反応がわずかな時間この島上になかったタイミングがある」
心臓が一瞬で縮こまる。
まるで両手で握りつぶされるかのような、冷たい感覚。
「しかも二回だ。……正直に言ってほしい。どこにいた?」
……どうする? 正直にいうか?
でも、ステラは『たすけて』と言っていた。このおっさんは俺のことを調べ上げてる。嘘を言っても意味はないかもしれないが、味方かどうかわからないうちに話すのは悪手だ。
「あー、安心してくれ。どちらかと言うと君は我々の手遅れを救ってくれた可能性がある。もしそうなら…… また元の生活に戻れるよう手配すると約束しよう」
手遅れ?
ひょっとして、地下で軍隊が駆け込んできたことと関係があるのか?
「えっと……」
ヴーーーー!! ヴーーーー!! ヴーーーー!!
突然ARMが警告音を発する。
しかもこれは、BATTLE-ARMプレイ中に『予期せぬ来訪者クエスト』が出現した時の警告音だ。
「なんっ!? ……まさか!?」
おっさんは弾かれたように指導室を出る。俺も少し距離を取りつつ追いかけると、校舎の二階に上がって俺の家の方角に向かって視線を向けた。
「ちっ、オレが開けた接続ルートから侵入しやがったな!」
おっさんは奇妙なサインを中空に描く。すると、ボロっちい白衣は真っ黒のボディスーツに変わり、人の背丈ほど巨大な斧が背中に出現した。
しかもその姿は見覚えがある。……ゲーム中で、だけど。
「君もついて来い!」
「えぇえ??」
おっさんはそのまま窓からひらりと飛び降りると、俺の家の方角へ走っていく。
「な、何が起こってるんだ!?」
よくわからないまま俺も外に出る。PM「ハイジャンプ」を起動して外に出るが、ふと思い立って今の自分の姿を確認する。……服装は制服のままだ。
「何が違うんだろ? ……まあいっか」
そのまま平面ジャンプを駆使しながらおっさんを追いかけると、突然金属同士がぶつかる甲高い音が響いた。
「ジョーさん!」
「どうしたダークシャドウ!?」
おっさんはニヤリと笑う。間違いない。
「やっぱり、『戦斧のジョー』さんなんですね?」
「察しが良くて助かるが、こっちの方も察してくれや!」
背中の斧を振りかぶる。すると海から巨大な影が大空めがけて飛び上がった。
「おっらぁぁあああ!!」
飛び出したのは巨大なナマズ体にうちわのようなヒレが無数に生えた高密度情報集合体『HDC-150』だ。
「うまい、斧の軌道に当たった!」
「まだ浅い! 気をつけろ!!」
そのまま水中に逃げようとするHDC-150に、ジョーさんは斧を担いだまま追いかける。
「危なっ!…… え?」
水中に潜ったような挙動だったジョーさんは、まるで豆腐の上を走るような走りでHDC-150に追いつく。そして、背負った斧をぶん回す要領で相手を砂浜向けて叩き上げた。
「おりゃああぁぁぁーー!!」
HDC-150は傷を負いつつも、体をくねらせて地面に潜る。あれは水中での戦いに特化した個体ではあるが、地面にすら水面と同じモーションで潜る厄介な能力も持っている。
「あっ、あの先は!」
「おい! ダークシャドウ、どこに行く!!?」
HDC-150は硬い地面の中をまるで水中のように進んでいく。地面から突き出た背びれが地上のオブジェクトをゲーム画面のようになぎ倒し、進む先は…… 俺の家だ。
「くっそ、ミストル、プリセットを戻せ!」
『了解。元のセットに切り替えます』
敵がガラクタに変えたオブジェクトに「壁ジャンプ」をかける。当たり判定に割り込ませた体がオブジェクトの反対側まで滑り込み、瞬間移動として機能する。
……が、速度が足りない。
「このままじゃ、家が、ステラがっ!」
僅かに足りない。
声を上げようにも、それだけで間に合わない。
祈るような気持ちで足を動かすと、なんと家の庭から見覚えのある人影が飛び出した。
「『みそら!』」
恐らくこの騒ぎに加えて俺の声が聞こえたのだろう、ステラが走って近づいてきたのだ。
「わ、バカ! ステラ! 今は! 危ないから……」
しかしステラはおもむろに俺に向かって走り、飛びかかり、そして……
ちゅっ。
『――識別個体を認証。ロック解除します』
ミストルから聞いたことのない冷たい声が響いた。
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