第10話 境界を越えて
「それは、ステラが『モデル:ステラ』であることと関係があったりしますん?」
唐突に八雲ねーちゃんが会話に入る。
「そういえば、この子を助けたときにそんな話が……」
「雨衣さん、だったかな? どこでそれを?」
「『八雲』か『ブランダ』かどっちかでええですよ。ウチもみそっちに言われてからちょいと調べたんですわ。この島の、いやこの星の人間やない存在はやっぱ気になるんで」
八雲ねーちゃんの言葉にジョーさんは至極普通の顔で言った。
「なら話は早い。彼女は宇宙人だ」
「……はい??」
俺は驚きのあまり変な声しか出せなかったが、八雲ねーちゃんは『ふうん』とでも言いそうなくらい普通の顔だった。
「正確には『多次元連続自己認識情報端末』…… 人間としての肉体を持たない、意識だけの存在だ」
ジョーさんはひと息で言ってのけたが、俺にはさっぱりわからない。
「意識だけの、って? 体がないってことですか?」
「二十年ほど前、地球に外部惑星からとある電波を傍受した。それはまだ地球にない技術で送られ、はるか遠くの知的生命体の存在を証明した瞬間だった」
俺はゴクリと唾を飲む。
「彼らは一つの次元に留まらず、また多くの技術を持っていた。しかし彼らは有機質からなる肉体を持ってなかった……いや、正確には必要ではなかったんだが、数が増えるにつれてある問題が出てきた」
ジョーさんはコツコツ自分の頭を叩く。茶色と白のマーブルヘアがゆらりと揺れてもとに戻る。
「情報管理からくる秘匿性? それとも個の判別? ちゅーかそれだけではわかりませんわ」
「いいセンいってますな。お互いを多重次元間接続で意思疎通を行う彼らは、とある理由から個体識別をしたうえで各々を確立させる必要が出てきてね…… つまり別の『体』を探していたらしい」
ああ、何となく理解できた。つまり最初はサーバ上にキャラができて、外に出るための端末がいるってことか。
「他にも知的生命体が生まれた星々はあるが、彼らの情報量をインストールできる情報処理用生体器官を持つのは地球人の体くらいしか参考にできるものがなかったそうだ」
そこまで話すとジョーさんはステラの正面に立ってニコッと微笑む。
「彼女の身体は、彼らの端末情報をインストールすることで地球人と同じように活動できる…… のだが、完成するまで途方もない時間がかかる。そしてつい先日この体が完成する直前に事件が起こった」
ジョーさんがARMを通じてデータを転送する。それは「例の場所の地図」だった。ステラがいた、あの場所の地図だ。
「!」
「これは『モデル:ステラ』を培養育成していた本土の地下施設マップだ。もちろん厳しく管理されている区域でもあるから、知り得る人間はほとんどいない。……ごく一部を除いて」
俺は思わず視線を逃がす。その先にいた八雲ねーちゃんはすかさずジョーさんに質問を投げた。
「ほんなら、なんでここにありますの? ウチらが持っててもしゃーないんやないですか? また行くわけでもないし」
「そのデータの出どころは彼女らの母星である『エアル・ヴェノス』で制作されたと判明した。……ただし、『敵対組織』が、作っていたと情報がセットでな」
「敵対……?」
俺たちの顔が一様に曇る。
ジョーさんも真剣な顔になって続けた。
「ステラの母星でクーデターをもくろむ組織が生まれたらしい。要求は次期女王であるステラの命だ」
思わず彼女を見る。
……ふんわりとした雰囲気に柔和な笑顔。
今まさに厳しい現実を突きつけられた本人とは思えない。
「彼女の個としての存在情報は随分前からこの島にあったが、その時点では彼らが多次元側からアクセスできる状態だったんだ」
「えっ!? じゃあいつでも仕掛けることができたんじゃ……!」
「ああ。だが、幸か不幸か、彼女の情報が『モデル:ステラ』へ内包されて彼らは手が出せなくなった」
もしかして俺が施設に侵入したから?
「とはいえ一大事だ。調査のために施設を封鎖して潜り込むと…… 『モデル:ステラ』は消えていた」
「それ…… 俺です」
ステラがぎゅっと俺の腕を掴む。
「実はあの実行部隊の中に、クーデターに関わる人間がいたことがわかってな。即刻本土に厳戒態勢が敷かれた。同時に島へのアクセスも止められて今は文字通り『孤島』となってるはず…… なんだが」
「そう、それや! ちょっと前にネットが繋がらんくなったと思ったら、また戻ったり…… 何が起こっとるんです!?」
大人二人がしんどそうな顔で見合わせる。けど俺にはさっぱり何が起こってるのかわからない。
「一つ言えるのは、この島と周囲の環境全体がクーデター一味に捕捉されたと考えていい。HDCシリーズを送られてきてるのが何よりの証拠だ」
「あれはゲームのキャラじゃないんですか? それがなんで現実に?」
「それ自体、彼ら|多次元連続自己認識情報端末の能力だよ。彼らは、仮想の存在を現実に呼び出すことができる。そしておそらく――」
ジョーさんはステラのほうを見る。
「BATTLE-ARMシステムをハッキングして電子記録現実化したのは、君だね?」
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