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エンデヴァー・プロジェクト  作者: 国見 紀行
第三章 世界を変える力
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第11話 メモリアライズ

 BATTLE-ARMとは、ARMにインストールされた多人数参加型のハンティングアクションゲームだ。体感式としても遊べるが、モニタウインドウを表示して遊ぶ方式が一般的だ。


 広大なマップに突然現れる生物兵器「ハイアー・ディメンジョン・クリーチャー」略してHDCを倒し、報酬を得る。

 報酬はゲーム内通貨だったりアイテムだったり様々だ。


 プレイヤーは色んな武器を手に戦う。11種類のメイン武器と25種類のサブ武器から組み合わせ、一人ないし最大五人のチームでハンティングに挑む。その組み合わせは無限に等しい。


 たくさんプレイすると、報酬の他にプレイヤーランキングが腕前によって上昇する。俺は滅多にチームプレイをしないので個人ランキングだけが異様に高い。……とはいえ、7位から20位を行ったり来たりなのでさほど安定した腕前とは言えないが。


 そのゲームシステムに『モジュールスロット』というものがある。各プレイヤーに3つスロットがあてがわれ、そこに使いたいPM(プログラムモジュール)を割り振るのだ。PMは身体強化や特殊技、種類は様々だ。


「例えば、俺が普段使ってる『カモフラ』はスロットをひとつしか使わないけど、のけぞりを無効化する『ショックシールド』は2スロット分使うんだ」


 ジョーさんの提案のもと、俺達はバーチャル空間でステラにBATTLE-ARMを体験してもらっている。ARMのセットが一番の難所だったが、あっという間に彼女はARMを使いこなし、ゲームの起動もあっさりやってのけた。


「BATTLE-ARMの最大の特徴は1スロットのPMに限り、プレイヤーがカスタムプログラムしたPMをセットできる点だな。俺が使ってる『壁ジャンプ(すりぬけ)』も俺が作ったPMなんだぜ」

「ウチに色々聞いてたけどな」

「あっ、しー!!」


 ただ彼女自身は運動するための筋肉が十全に整っていないこともあり、今は島にある小さな公民館のレクレーションルームを借りて遊んでいる。

 ……言葉は悪いが、今後の侵略者対策には彼女の力が必要になるからだ。




   ◇




「めもりあらいず、って何ですの?」


 八雲ねーちゃんが至極真っ当な意見をこぼす。

 俺もステラも頭の上に疑問符が浮かぶ。っていうかステラが浮かべちゃダメだろ。


「我々三次元人は、二次元空間において物質を創成することができる。紙とペンを用いてな」


 ジョーさんは手元の紙にスラスラとコップを描く。数本の線と二つの楕円がくっついただけの簡単な図形は、しかしコップであると認識することに十分な形状を持っている。


「これはコップだ。わかるな?」

「そりゃ、わかりますよ」

「それは何故だ?」

「は、い??」


 誰が見てもそうだろ?

 そう思ってるとジョーさんはニヤリと笑う。


「これは紙と線だ。それ以上の事実はない」

「でも、コップの『絵』が描いてますよ?」

「ああ。コップを示す『情報』は確かに描かれている。でもこれをコップだと理解するにはもう一つ足りない」


 ジョーさんはすぐ隣に少年を描く。彼は描かれたコップを指さし『コップだ』と叫ぶ。


「……少年の『情報』?」

「おお、話が早いな」

「少年がコップを知ってるって意味ですか?」

「おっ!」


 さっきから感嘆詞が多いな。

 けれど八雲ねーちゃんがニヤニヤし始めた。何を意味するのか分かってきたのかも。


「八雲氏は理解したようだな」

「当然ですやん。非正規やけどプログラマですねんで?」

「あ! 基礎情報!」


 俺は「壁ジャンプ(すりぬけ)」をプログラムした時を思い出した。


「コップがコップだとわかるには、観測者がコップの情報を学習し、似たような形状や同様の用途として用いられるものを認識した時、初めてコップと表現できる!」


 パチパチと二方向から拍手が上がる。


「そうだ。だが紙などに書いた下位次元の物質は取り出すことができない。それは分かるな?」

「だって実物じゃないし…… そもそも存在しないじゃないですか」


 するとジョーさんはステラに向かって話しかけた。


「ステラ氏、これをVR(仮想空間)に起こしてもらえるか?」

「『はい!』」


 ステラは気持ちのいい返事と爽やかな笑顔で答える。次の瞬間コップの書かれた紙の上に全く同じガラスのコップが、ARMの描画機能に上書きされる形で出現した。


「ちょ、モデリング()やない?」

「じゃあ次はこれをメモリアライズしてくれ」

「『はい!』」


 ふっと僅かな間だけ目の前が暗くなる。再び明るくなる刺激に目が一瞬クラッとしたと思うと、先ほどまで情報だけだったコップが実体を持って紙の上に出来上がっていた。


「え、……え??」

「なるほどな。上層部が危険視するわけだ」

「ウッソやん…… えぐぅ」


 大人二人は引きつる笑顔浮かべながら、ステラはニコニコしたままだ。俺は今どんな顔をしてるんだろう。


「……まあ彼女の、というか『彼女たち(・・)』はこの力を使ってこの島を攻撃しようとしているわけだ」

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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