第12話 四つ目
「次! 来る!」
「『うん!』」
ライオンの頭にドラゴンの体が生えたHDC-776の繰り出す攻撃を、ステラは見事に捌く。
最初は現実の方すらまともに動けなかった彼女は、ここ数日で現実も仮想空間でもかなり動けるようになってきた。
「上手いじゃん」
「『先生がいいからね!』」
「俺は遊び方を教えてるだけだからな……」
俺の家は、先日のHDC-150による襲来で半壊したため島の公民館に仮住みさせてもらっている。本土との行き来ができない現状、建設資材を送ってもらうことができないからだ。
ステラの能力で修復できないか聞いてみたが、彼女はそもそも家の構造を理解してないし、できたとしても生産エネルギーが足りないらしい。どうも彼女は周囲の光エネルギーを変換して物質を生み出してるらしく、家の質量を作り出すには太陽だけでは足りないんだとか。
……太陽光エネルギーって案外低いんだな。
「よし! 776討伐成功!」
『野良クリーチャーにしては強かったんっちゃう?』
『ああいう希少個体はドロップも美味しいぞ』
普段は個人でやるのが俺のスタイルだが、先日の件からパーティを結成した。もちろんメンバーは俺とステラ、八雲ねーちゃんとジョーさんだ。大人二人はオンライン参加だけど、二人ともアクセスポイントが島中だからラグもほぼない。
「でもさすが二人とも強いです。上位クリーチャーが出現するエリアにいてビクビクしないで狩れるとか結構新鮮ですよ。俺一人じゃ無理だから」
『みそっちはガン攻めちゃうからやな。ウチもジョーさんも戦闘特化やし』
『シャドウ氏はPVPで光るタイプだ。大型HDCに対しても立ち回れるプレイヤーは希少だよ』
そうなのだ、このゲームは一部|PVP《プレイヤーVSプレイヤー》の要素がある。
攻撃できるエリアはサーバによって決まっているが、ドロップアイテムを保管庫に入れるまでの間に他プレイヤーに倒されたり別のクリーチャーに倒されると、所持品を奪われてしまうのだ。
「単に、苦労の結晶を奪われたくないってのが本音ですよ」
『だが、そのための自作PMで結果的にステラ氏が助かってるんだ。これはもはや運命だな』
「……ん?」
776の残骸から素材を取り終えて立ち上がろうとしたとき、妙なプレッシャーを感じた。
フォオウゥゥン……!!
「!!??」
『わ、なんやなんや!?』
突然頭上で風切り音が鳴り、慌てて背後に飛んで避ける。似たような動きで八雲ねーちゃんが回避行動を取ってたが、その視線は俺とは違う場所を見つめていた。
『……あんた、ロウフォーク、か?』
『ロウフォーク氏? 何故ここに』
大人二人の視線を追うと、交わる先にオパール色を放つ重厚な鎧を纏うプレイヤーが立っていた。
『そういや、HDC-025が出現した時、あのプレイヤーも居りましたんよ』
『ああ、わかってはいるんだがあのプレイヤーのアクセス履歴が今一つ開示できなくてね。どこの誰なのかはサッパリ……』
ロウフォークさんの矛先がゆっくりと俺たちをなぞる。大戦斧から大剣、俺の忍者刀、そして…… 小型の機械弓を持つプレイヤーネーム「エアノス」の前でピタリと止まった。
『探しましたよ、姫』
「!? ロウフォークさん!?」
先日の声とは別人のように低く這いずるような声が、お腹の奥から響く。
しかも、ステラを「姫」と呼ぶということは……
『あなたの中にある起動コード。それを渡してはいただけませんか? できればコピーガードごと』
一歩下がるステラを庇うように、俺たちが前に出る。
『あなたのIPアドレスからアクセス元がこの島であることは判明している。僅か数百人程度の島なら、端っこからローラー作戦でもすればすぐにあなたの身元は分かります。馬鹿なことは止したほうがいい』
『だが「誰か」までは分かってないんだろう?』
ロウフォークさんの体が一瞬かがむ。
「来る!」
俺はみんなよりさらに下がってステラの体を掴む。セット済みのPM「ハイジャンプ」を叩いて真上に飛び上がる。
一秒も間を開けず、その空間にオパール色の槍が深々と突き刺さり、矛先には大人二人の腕が舞い踊っていた。
『うぐっ!?』
『痛み、だと!?』
ドサ、という重々しい音が響く。ゲームの世界での出来事なのに、まるで現実のような臨場感。
『なんでや!? 少なくともウチはVRモードにしとらへんのにッ!』
『こんなグロいプログラムは組み込んではないはずだが……』
二人の身体は地に伏し、真っ黒に染まって塵になる。
『……さあ、姫』
なおも前進するロウフォーク。離れられたとはいえさっきは二人が立てとなってくれたからこそ避けられた。次は、ない。
「『みそら』」
「なに」
不意に、画面いっぱいに広がる彼女の顔。そして温かな感触が唇を支配する。再びキスをされたと認識するのに僅かな間隔があいた。
『識別個体を認証。ロック解除します』
『ちっ』
ミストルの冷静な音声とロウフォークの舌打ちが同時に聞こえ、相手が軽く屈むのと矛先が目の前に届くよりも早く――
「……四つ目の、スロット??」
普段は三つしかないスロットに、見覚えのない真っ赤なスロットが追加されるのを目撃した。
そのPMの力か、軽くなった体は神速の勢いで迫ってきたはずのロウフォークの矛先を簡単にいなし、さらに距離を取る。
「おお、こりゃすげぇ! ステラ、大丈夫…… ステラ!?」
しかし背後にいたはずの宇宙人は、跡形もなく消えていた。
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