第13話 相手の首に届いた刃
「え、ステラ……??」
頭の中が真っ暗になる。
自分は一時も目を離さなかったはずだ。何より、抱き上げた時の感触がARMを通じてしっかりと感じ取れていた。
『大丈夫! ここにいるよ!!』
四つ目の赤いPMが点滅する。
「え? え!?? 俺のスロットの中にいるって事か!?」
『攻撃判定、急接近』
ARMの警告音声が早口で耳に届く。視界の端っこに細い当たり判定が近づいてきたので、思わず「壁ジャンプ」を起動する。やはりHDC-150の時と同じように、判定の隙間に滑り込んだキャラ座標が移動座標の置き換え処理を挟んで、ロウフォークの反対側へと再設置される。
『何ッ!?』
「っぶねぇ!」
ちょうど背中に回り込んだことに成功したので、そのまま忍者刀を振り下ろす。
「っっりゃぁぁぁあああっっ!!」
鮮やかな鎧はまるで粘土のようにスッと切れるが、生身の肩に差し掛かると途端に刃が食い込んで切れ味が落ちる。力任せに振り切ると、肉の弾力に負けて刀が流れ抜け、その勢いのまま後ずさる。
『う、っぐ!』
「はあ、はあ…… あんた、宇宙人だったのか」
心臓が高鳴る。PVPは初めてではないが、どうも手にくる感触が普段のそれと大きく異なる。まるで本当に人を斬ったような感触が腕に残っている。鎧を切断した時の方がまだ非現実的だった。
『エアル・ヴェノスに変革は必要ない。彼女が生きている限り、また悲しい殺し合いが始まるのだ!』
「は、え? ……殺し合い?」
ロウフォークはなおも体を起こし、再び構える。しかし同じ動作で油断さえしなければもう当たることはない。だが、逆に彼自身もこちらの奥の手を見た後なので中途半端に止まることなく一気に駆け抜け、距離を取る。
なぜあのダメージで走れるんだ……?
『……そのPMに関するデータがサーバにない。姫の力か』
「違ぇよ、元から俺のだよ」
心臓がバクバクしている。下手にダメージを追えばステラにも危険が及ぶし、絶体絶命であることは間違いないはずなのに、この状況を楽しんでいる自分がいる。
『危険だな』
「あんたがな」
俺は忍者刀装備時限定の固有技「首断ち」の構えを取る。成功率は低いが命中すればどんなHDCも一撃で葬れるチート技だ。その代わり動いてる敵にはまず当たらない。
だが、今の俺にはゆっくり見える目がある。
『……』
「……」
ごくわずかに向こうが先に動く。
視界を前方90度ほどに狭め、動体視力を極限まで高める。
ほぼ半周遅らせた上半身をばねの要領で前方に素早く突き出すロウフォークの槍裁きを一度、二度、三度避ける。さらなる突きを繰り出すための予備動作で俺が彼の体に追い付き、そっと刃を顎の下へ真横に差し込む。
「ふっん!」
そのまま自身は彼の背中にまわり、片手で刀の先を掴む。しかしロウフォークは速度を緩めることなく前進し……
ゴリッ、と重い音が刃から手に響くと同時に跳ね上がる頭部。自身がすべてをゆっくり認識してるからか、空気の切れかかった風船がふわりと宙を舞うような速度で、ロウフォークの兜頭が宙を三回転ほどして地面に転がり落ちた。
「や、った!?」
忍者刀を使うようになって滅多に成功したことのない技をこのタイミングで成功させた俺は、しかしなぜか喜びよりも気持ち悪さが先に来た。
『……ダークシャドウ、だったな』
「あ、ああ」
『なぜ我々の邪魔をする?』
「そ、それは……」
『われ、わ…… は……』
ゲームの仕様というべきか、ロウフォークは語るべき言葉を語る前に真っ黒に染まってマップから消えていった。
◇
『大丈夫やったか、みそっち!』
「あ、ああうん。なんとか」
『あのエリアには誰もいなくてどうなったか分からなかったが…… 倒したのか?』
「ええ。忍者刀のスキルが珍しく成功して」
ステラの力があったことはなんとなく教えづらい。
それよりもロウフォークさんの事が気になる。
「あの。ジョーさん。ロウフォークさんのこともっと調べられないですか?」
『ああ。気にはなっている。こちらに来る前に君たち同様、現実世界に出現したHDC接触者は洗ったハズなんだが……』
詳細は分からない、とのことだった。
その後、俺は公民館にステラを置いて着替えを取りに家へと向かった。
「わ、もう夜か」
空の様子はいつもきれいな星空で、雲もほとんどかからない。時々瞬く美しさに見とれていると、うちの家の方から別の星がやってきた。
「あれ、天間さん?」
「巡里くん、家どうしたの?」
「あ、ああ。ちょっとね」
俺は慌てて家に入る。着替えを鞄にいくつか詰めてふと、なぜこんな時間に、しかも外で天間さんに遭遇した?
それに気が付くと、背中にいやな汗が溢れてくる。妙な推測が頭の中を駆け巡る。
意を決して外に出ると、彼女が不自然な立ち姿で家の門の前に立っていた。
「……天間さんがロウフォークか」
一か八か。
彼女がBATTLE-ARMをやっているという話は聞いたことがない。けれど、この島の住人でステラの事を知りえる人間は限られてくる。何故なら、俺が彼女の話をしたのはまだステラが宇宙人かどうかも分からない頃に学校で聞いて回ってた時しかないからだ。
「これは警告だ。姫をこちらに渡してもらいたい」
その声はゲーム中で聞いた、這いずるような低い声だった。
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