第6話 オパールの戦士
不安定な屋根を避けてハイジャンプを繰り返しながら最短距離で学校に近づくと、八雲ねーちゃんが真下から自慢の大剣「雲落とし」を振り上げる瞬間を目撃した。
「でやあああああ!!」
身長の倍近くある白銀の刀身は、見事上空に浮かぶHDC-025の本体に届く。蜘蛛と蟹が合わさったような黒い物体は勢いにこそ仰け反ったものの、大したダメージを与えたようには見えなかった。
「ねーちゃん!」
「なんやあれ…… ゲーム中の挙動と違わんか?」
「わかんねぇ…… けど、クエストモードって『シングルプレイ専用』だから、耐久だけ『マルチプレイ』のやつに置き換わってるんじゃない?」
マルチプレイの敵キャラは総じてステータスが低めの設定がされている。けど、今起こってる事象の状況があまりにも現実離れしているのだ。何かしらの想定をして考えないと、動きようがない。
「来るで!」
空中に縫い付けられたHDC-025が地上に堕ちる。
針の先のように鋭い金属製の足が校庭の土に刺さり、耳障りな音を立てる。
《ぎしゃあああああああああああああ!!》
金切り声を上げつつHDC-025は体を大きく反らす。ブランコの要領で体重移動しながら、前足の一つを大きく前方に振りかぶる。
「っぶない!」
八雲ねーちゃんはブーストがかかったままの身のこなしで一気に後方へバックステップする。俺もそれに倣って飛び上がるも、既に効果時間は切れていた。
「やば、距離!」
「みそっち!」
がぎん! と金属が衝突する音。
長い前足が届く前に目をつぶった俺は、自身の身体を丸くたたみ、衝突に備えた。
「……??」
しかしいくら待てどふっとばされる気配がない。恐る恐る目を開けると、オパール鎧に身を包んだ人物が巨大な盾を手に俺の前へ躍り出ていた。
『大丈夫?』
「その声、もしかして『ロウフォーク』さん?」
BATTLE-ARMの一匹狼でたまに出会う、最硬プレイヤーで有名な上位ハンターのひとり。
『なんか君が見えたから来てみたんだけど、面白いことしてるじゃん』
「そんな場合じゃ…… 危ない!!」
時間差で放たれる二足目の攻撃。しかしそれすらロウフォークさんは軽々と腰で受ける。盾すら使わないとか、そんな当たり判定あったっけ?
『なにこれ。リアル連動キャンペーン? 面白いこと考えるじゃん』
「多分現実ですよ!」
『でも、こんなこと現実で起こるはずないじゃん? ARMの仮想実現機能の一つじゃないの?』
それはそうかもしれない。けれど、現実の肉体にPMの効果が乗っかるなんて聞いたことがない。
もしも本当に起こってる事件ならPMの補助がない状態を想像できないし、そんななかで逃げ切るのは不可能だろう。
『まあ、倒しちゃえばいいんじゃない?』
「そのとおりや、ロウフォーク!」
八雲ねーちゃんが別プリセットを取り付けたようで、DPS(効率ダメージ重視)特化型のモーションに切り替わっていた。
「ちょうどええ。そのままHDC-025のタゲ持ち頼むで!」
八雲ねーちゃんが大剣を片手で振り回しながら大ジャンプする。HDC-025の弱点は背中の鎧の隙間なので正しい動きなのだが、いかんせん現実の動きとなると違和感がすごい。
「いっ…… くでぇ!!!」
俺もロウフォークの近くでタゲ取りのサポートにまわる。
『あうっ!?』
「こっちだ、HDC-025!」
『サポートありがと!』
攻撃を何度か裁いていると、背中に立つ八雲ねーちゃんのチャージ完了エフェクトを確認した。
「そっ、りゃああああああああああ!!!!」
くるりと一回転。遠心力と武器の重さ、ねーちゃんの体重すべてが乗っかった一撃が背中に突き刺さる。直後、『ぱぁぁんっ!!』と空気が爆ぜる音が響き、勢いでねーちゃんが振り落とされた。
「八雲ねーちゃん!」
ダッシュで追いかけて何とか地面との直撃は免れたが、激しくお互いの背中を打ち合った。
「阿呆! ……一応、助かったわ」
「へへ、危なかった」
見上げると、小爆発を起こしながらHDC-025は動きを止めた。ゲームの通りであるなら、この直後――
「に、逃げろーーーーーー!!」
小爆発の間隔が短くなり、全体に爆発が行きわたるとHDC-025は盛大な爆発をもって俺たちの視界から消え去った。
「危なぁ…… ゲームは無敵状態になるから忘れとったわ」
『大丈夫ですか?』
「ああ、ロウフォークさんありがとうございます」
『ふふふ。君は「ダークシャドウ」くんだね』
「え、装備でわかったんですか??」
『そちらは雲落としを使っておられる「ブランダ」さんかな?』
「せやで。流石にウチの名前は知られとったか」
『BATTLE-ARMで大剣使いは少ないですからね』
「うぐっ、大剣使いは冷遇されとるからな……」
そんな話をしていると、ロウフォークさんの姿がかすむようなエフェクトがかかる。
『しまった、PMが解除される……! ごめん!』
「あ、ロウフォークさん!?」
しなやかな本体が見えるか見えないか、でロウフォークさんは逃げるように去っていった。
「いっちゃった……」
「あの鎧、ゲームの設定やなくてPMやったんか。どうりでドロップで見ないはずやわ」
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