表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エンデヴァー・プロジェクト  作者: 国見 紀行
最終章 適応者
PR
48/50

第48話 思い出の残り香

 最初に出会った時の事を思い出した。

 あの時も、ステラはガラス管の中でたゆたい、目を瞑ったまま動かなかった。


「……冷たい」


 彼女を包む外殻(ケース)は氷のような見た目だが、氷ほど冷たくはない。どちらかというと「熱を奪う材質で包まれている」ように感じた。だからといって、触れても解ける様子はない。


「ステラ! 帰ろう!」


 返事はない。


「ステラ!!」


 外殻に触れる。こする。たたく。しかしびくともしない。


「くそっ、目の前にいるのに!」


 思いが募る。

 最初に会った時よりも愛おしく、あの時のような不安もない。


 ……あの時?


「そういえば、今俺が見ているのはあくまでも『STELLA』をまとったステラだった。データ(多次元構造だった頃)の、本当の意味でのステラを知らない――」


 だというのに、目の前にいる彼女は俺が三次元世界で出会った時と同じで、緑の髪にふっくらした体、目は閉じているがきっと赤く美しい瞳があるはず。

 でもそれらの肉体(ハードウェア)の情報は、どこで?


【あなたと であってから です】

「わぁあ!? マザー??」

【むすめの さんじげんのすがたは せっていされていません ここにあるすがたも そとのせかいでつくられたものを けいしきとしてもちこんでいるにすぎません】

「じゃあ、ステラがあの肉体に入る前は、多次元世界で暮らしてた時は、こんな姿すらしていなかった、と」

【だから、このすがたをするひつようは ないはずなのです よほど きにいったのでしょうね】


 涙があふれる。

 彼女が人として過ごした時間は、彼女にとってきっと忘れられないものだと思ったから。

 必要のない思い出なら、持ち込むことはないはずだから。


【エラー。エラー。登録キー保存済みの|主記憶媒体《protein cell drive》に致命的なエラーを検出】

「え!? なに? 何が起こってる!?」


 唐突に鳴り響くエラーが音と光を持って襲い掛かる。

 注意深くあたりを見回すと、不意に中空へステラの姿が浮かび上がる。それは、このエアル・ヴェノスに到着して、ゼラレイドに捕まる直前の姿だ。


【Delete】

「えっ!? ちょっ!!」


 その姿が光の粒子となって失われていく。完全に消える頃、その像の横に今度はディープ・アドバンスから独立し、単独航行した舟継島で暮らしていたころのステラが映し出される。


【Delete】

「ふざけんな!!!」


 その姿も同様、徐々に光の粒になっていく。俺はその像に近づいて光を集めようと抗うが、まるで立体映像だったかのように手をすり抜けていく。そうして次々とステラがステラとして過ごしていた記憶の姿が映し出され、それらがなすすべなく消えていく。


【Delete】

「待ってくれよ、消さないでくれ!!」


 あれは本土でたくさん話をしたステラ。【Delete】島から避難するときに一緒にいた【Delete】初めてメモリアライズを見せてもらっ【Delete】ジョーさんに見つかった時【Delete】家で初めてBATTLE-ARMが起動した【Delete】


「やめろ、やめてくれ! ステラの、俺とステラの思い出を、消さないでくれよ! 必要だろ! これがなくなったら、ステラはステラじゃなくなっちゃうだろ!!!!」


 映像に手を伸ばす。

 しかししょせんデータであるその映像は、例え触れることができてもあっけなく消える。


「くそっ…… ちくしょう!!!!!!」


 涙がこぼれる。三次元設定のないデータだけのこの空間では、ただ目の中に水が溜まるだけ。歪む視界をむりやりぬぐい、消えゆく映像にすがるがそれもまた消失する。


 そして最後の映像。

 彼女が俺の家にくる前。初めてあのガラス管から飛び出して俺が名前を読んだ時の……


<「君は…… ステラ?」>


 俺の声が聞こえた。たぶん、初めて彼女を名前で呼んだ時のものだ。

 あの時はステラという名前がクローン体の型式番号だとは知らなかった。

 ただ、彼女の名前だったらいいなと思って呟いた。


【Delet……】


 そこで容赦なく続いていたシステムメッセージが、突然止まる。


「す、てら……?」


 俺は思わず本体に近づく。


「ステラ、ステラ!!!!」


 外殻を叩く。力の限り。痛みなんか感じない。壊れないとか関係ない。

 そこに大切な人がいて、二度と会えなくなるかもしれない。


 いやだ。いやだ、いやだ。いやだ!

 彼女が彼女でなくなるのもいやだ。会えなくなるのもいやだ。

 彼女を失う、それだけは――


【エラー。基礎領域をフォーマットできません。強制終了・再起動します】


 がくん! と何かの音が響いた。

 そして目の前が真っ暗になり、俺にはもう何も認識する(すべ)がなくなってしまった。


「ステラあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーー!!!!!」


 右手に力を込める。

 深淵に突き刺すように、俺はそのまま拳を振り下ろした。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

↓にある☆☆☆☆☆で評価、感想、いいねなどで応援いただけると励みになります。

ぜひよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ