第46話 イツワリの王
@ダークシャドウ>『八雲ねーちゃん、なにがあったの?』
ボイスチャットが届かないのか、俺もメッセージを打ち込んで投げかける。
ブランダ>『なんか急にHDCが増えたからみんなが逃げの一手で走り回っとったら、急にフレームスキップし始めたんや』
>『え?? カクカクしてるってこと? でも現実の世界でもそんなこと起こる?』
『……処理限界だ』
ミステラがぽつりとつぶやく。
『この部屋で処理しきれない情報操作が行われたから、ゼラレイドが外のHDCまでコントロールが届かなくなってるんだ』
「あ、俺の塵作戦が!?」
@ダークシャドウ>『俺かも、原因』
@ロウフォーク>『なんですの、なにか思い当たることが?』
@ダークシャドウ>『メインサーバでF5アタックかけたっぽい』
@ジョー>『……巡里氏こそ、ここを現実と思ってない可能性が微レ存?』
そうかも。
いやそうじゃない!
「……なるほど、塵は塵でも『存在情報の塵』というわけか、舐められたものだ」
空気中の塵が一瞬で消える。
ネタがバレたらしい。
「だが、もう遅い。マスター変更解除のプロダクトキーがようやく見つかったよ」
「!! 平行作業してやがったのか!」
むしろ脳内検索しながらずっと黒い俺をコントロールしてたのか?
どんだけ脳みそあるんだアイツ。
「ふん、これでマザーブレインの全ての機能を十全に使えるわけだ。さて……」
ちょっと待て、うそだろ?
外のHDCのコントロールもゼラレイド一人で??
「改めて名乗ろうか。私こそこのエアル・ヴェノスの新たなマザーブレインの一つ、かつ、このエアル・ヴェノスを……」
ごぼ、とゼラレイドの脳みそから体液がにじみ出る。
「なんだあれ……」
その体液は、地面に落ちると同時にサラサラと砕けて散った。
「しは、い…… ごぶっ」
目から涙があふれる。しかしその落涙も服にしみこむことなく砂となり、地面に零れる。
「あ、あ、あ……」
体の皺から砂が溢れて、皮膚がどんどんと砂になる。それらがすべて砕け散ると、筋肉などの内臓組織が露わになり、また同時に砂へと変わる。細かな砂の山ができる頃には骨が見え始め、カルシウムがみるみる別のものへと変わっていく。
「あ、お…… んぁあぁぁ……」
頭蓋骨に当たる部分がその山の上にぽすん、と落ちる。くぼんだ穴の中に残っていた眼球が、水風船の割れるような音と共に割れ、そこへ完全に分離したステラの身体が倒れ込んだ。
「ステラ!!」
しかし次の瞬間、ステラの肉体は謎の力で浮き上がり、体が真っ二つに割れる。
『は、え?!?』
ミステラが悲鳴を上げる。その声に俺はステラの体に駆け寄るが、足元にたどり着いた時には体から脳が完全に切り離され、マザーブレインのいる培養槽の中に取り込まれてしまった。
【かいじょキーのにんしょう せいこう】
「あ、まさか!!」
最悪の事態だ。
『待ってお母さん!』
「マザーブレイン、待ってください!!」
【げんざい しょり じっこうちゅう】
「ステラ、ステラ! ステラぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーー!!!」
不意に、周囲の空気が冷たくなる。
ブランダ>『みそっち、そっち何か動きあったんか?』
>『すてらがとりこまれる!』
ブランダ>『待っとき!』
マザーブレインが淡々と処理を行う中、いくつかの足音が近づいてきた。
だけど、俺はその主を見る気にならない。
「ミステラ、どうすればいい?」
『……』
「ミステラ! ねえって!」
「巡里くん!?」
ボロボロの鎧姿をした天間さんが駆け寄る。
一瞬砂の山に埋もれた俺を見て躊躇するも、構わずその中に入ってくる。
「何があったんですの? ステラさんは?」
「それにゼラレイドは? それにこの部屋、すごく寒いぞ」
「最初来た時にも思たけど、やっぱコレ気分悪ぅなるな、って……」
そんな話をしながら入ってきたみんなは、真っ二つに裂けたステラを見て言葉を失った。
「……ステラ氏?」
「う、そや、これ、ど、どない、なって……」
天間さんはステラの体を一瞬だけ見て、すぐ俺を黙って抱きしめる。
「……ステラ」
ぴんと張りつめた空気が辺りを支配する中、突然『パリッ』と電気が走る。
「な、なん…… なんだ、あれは」
ジョーさんがあらぬ方向に声をかける。俺も視界の端っこに先ほどまでなかったものが映ったのが見えたので、視線だけそちらに向ける。
【みそら ていあんが あります】
そこには、膝を抱えるステラの姿を映しだすディスプレイモニタが空中に展開されていた。
【かいじょキーを きどうしたばあい マザーブレインに つながるのは きょうせいです】
【ですが むすめは じしんのじんかくじょうほうを あっしゅく・かくのうして れんけつができないじょうたいに しています】
【あなたが きめてください】
「あなたが、って、どういう、こと?」
俺は顔を上げる。その顔は鼻水とヨダレと涙でどろどろだ。
【あなたは ぷろぐらむをこえて むすめに あえます】
【そのまま ふたたびSTELLAをよういできれば われわれのいちぶに ならずにすみます】
『……だめ。おかあさん。それはとても可能性の低い話』
「ミステラ!?」
俺がARMの呼びかけると、網膜にフレームワークが組み上がり、一人の女性を表示された。
「……ステラ、か?」
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