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エンデヴァー・プロジェクト  作者: 国見 紀行
第九章 エアル・ヴェノスを守るモノ
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44/50

第44話 光からうまれるもの

 ゼラレイドはゆっくりと手を掲げる。


「せっかくだ、生まれ変わるエアル・ヴェノスを一番最初に体験してもらおうじゃないか」


 ぴし、と空気の質が変わる。

 妙な胸騒ぎが肌を掠め、敵から視線を外すことなく網膜から情報を探る。

 最初に異変を感じたのは耳―― 外から聞こえる喧騒がより強くなった。そして、僅かな時間を置いてメッセージウインドウが目まぐるしくスクロールするのに気が付いた。


@>『うおおおお?』

@>『ngr』

@>『やばいなにこれ』

@>『あ、m』

@>……

@>……

@>……

@>……

@>……



 グローバルメッセージウインドウに次々と悲痛な内容が流れ込む。


「ミステラ、外の様子見れない?」

『待って、繋いでみる』


 BATTLE-ARMには本来そんな機能がないことは知っているが、ゼラレイドのセリフの後にこんなメッセージが流れてきては、気にならないほうがおかしい。


『あった、ライド・バーニング(他の移民艦)が状況を撮影してる!』

「流して見せて!」


 網膜の右側、ステータスウインドウの真上に手のひら大のモニタが映る。そこに表示されているのは、無数のウォーロック(ラスボス)に蹂躙される地球人(野良プレイヤー)の姿だった。


「な、なんだよこれ」

『待って、世界中の構造も書き換わってる!』


 小惑星群としてあちこちに存在していたカケラたちが、次々に「三次元的な」繋がりを得ていく。あれらのいくつかには、高次元的な意味でエアル・ヴェノスの住人がいたはずだ。


「先代たちが放置していた世界構造の見直しと、外敵の排除を目的としたウォーロックの改良版HDCを実装した。何やら外では頑張ってるプレイヤーがいるようだが、その内終わるだろう」


 そう言うとゼラレイドは空を仰ぐ手を足元に向ける。

 手のひらが何度かまばゆい光をまとうと、そこから小さな子供のようなHDCがフレームワークを介して実体化し、いつの間にか俺と同じくらいの……


『……あれ、みそら?』

「なんだありゃ? まるで、俺みたい」


 俺そっくりの、真っ黒なHDCがそこに現れた。背格好はもちろん、武器もほぼ同じ。ゲームでよく見るコピーボスと言える存在に、俺はどこか


「くっくっく…… 生身(ハード)に残っていた情報から君専用の抹消者(スレイヤー)を作ったつもりだが、これはなかなか、愛があるじゃないか」


 卑下た笑いが部屋にこだまする。しかし、俺の分身なら怖くはない…… はず。


『あっ、そうか!』

「え?」


 ミステラは何かに気が付いたが、俺には一切わからない。


『気を付けて! あいつがみそらの基本能力を持っててマザーからメモリをもらってるなら、PM(プログラムモジュール)は』


 そこまでミステラが告げた瞬間、黒い俺はもう刀が交わるところまで接近していた。


「うぉあ!?」


 キィン! と火花が散る。


『全部並列使用できるから!』

「嘘だろ!?」


 あの瞬間移動は恐らくフリーグラビティのノンブレーキ加速だ。それに腕も痺れてる。フィジカルブースト(身体強化)も併用してるはずだ。


『危ない!』

「くそっ!!」


 返す刀で切り上がる刀を転がりながら避ける。そのまま勢いをつけて起き上がり、相手の距離を測りつつゼラレイドへ突進する。


「ふん、相手を間違えてるぞ」


 まるで瞬間移動のように黒い俺が間に割って入り、空気を切る勢いの横振り攻撃が先ほどまで俺がいた場所を分断する。


「くそが!」


 クソゲーをやらされている気分だ。

 もっとひどいのはこれがクソゲーだからとリセットも電源オフもできないことだ。

 俺はこの状況をひっくり返して、解決して、生きて帰らなきゃいけない。


「……まあ、最悪ひっくり返せたら御の字だけどな」

『みそら!』

「分かってるよ!」


 目の前に助けたい人がいる。

 生きてるか死んでるか、今の今は大きな問題じゃない。


「とにかく、相手をよく見ないと……」


 ベースとなってるのは所詮俺だ。多少PMの補正がかかっているとはいえ、そこが同じならまだチャンスはある。


「だけど、どうして俺なんだ」

『なにが?』

「他にもさ、もっと電子記録現実化(メモリアライズ)するならいいのがいるだろ? ドラゴンとか異形の怪物とか」

『なにそれ』


 ……え?


「ほら、ウォーロックだってヒトっぽいけどヒトと同じ姿をしてないだろ? あのゼラレイドだって、イカに脳みそくっつけた形だし」

『うん、それは分かるけどドラゴンって何?』


 マジか、マジで言ってるのか??


「ほら、トカゲが大きくなって、羽が生えてて、火を吹いたりする怪物!」

『……そういえば地球人ってそういう妄想よくするけど、それってなんでなの?』


 能力強化系のPMを多めにセットされたスロットセットに変えて色々考えながら逃げ回っていると、ミステラがそんなことを言い出す。


「ほら、ファンタジーでよくあるだろ? エアル・ヴェノスの人たちにはそういう架空の物語とか見ないのか?」

『私のメモリには、そういう娯楽を楽しむ感覚はないよ』

「だって、他のHDCは――」


 もしかしたら。

 彼らはできないのではないか?


 凶悪なHDCの『想像』が。

 人の想像の領域を超えた生き物の『創造』が。

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