第40話 BATTLE-ARM
エアル・ヴェノスの大地には、大量のHDCがあちこちに湧いていた。さながらARMで遊んでいるBATTLE-ARMのマルチプレイのように。
「これ、どうなってるんだ??」
『ゼラレイドが放ったんやろな。さっきまでとは大違いやで』
『いや、侵入者をトリガーに出現した可能性もある。どっちにしろ、他の艦にいたプレイヤーも参戦してるから数の上ではこちらが上だ』
俺は急いで周りを見渡した。
ジョーさんの言う通り、周囲に停泊していた他の艦から我先にとHDCへ攻撃を開始している。
しかし、俺には一つ疑問があった。
「あの、俺たちだけなんじゃないの? 電子記録現実化が使えるのは」
『そりゃ、こんだけたくさんの艦があったら技術的には可能なんちゃう?』
「そういう問題ではないと思いますわ……」
大兜の下で天間さんもドン引きのようだ。
『ほらほら、ザコは他のプレイヤーが引き受けてくれてるんだから、オレたちは目的の建物に急ぐぞ!』
「あっ、そうか!」
実際のゲームでも大物を仕留めればその分ランクも上がる。得られるアイテムも差がつく。けれど、今の俺たちはそもそも目的が違う。
『頑張れ、ロウフォーク!』
『ジョー! 今日はその斧は飾りか?』
『「雲落とし」が寂しがってませんかブランダさん!?』
あちこちからメッセージが流れ込んでくる。流石は有名ランカーだ。
『ダークシャドウ! 期待してるぜ!』
「え、俺??」
不意に自分のハンドルネームを呟かれて驚く。
「情報が共有されているのなら、今日の主役はダークシャドウですわよ。ほら、何か返してあげてくださいまし」
「え、えっと……」
@everyone>「みんな、後ろは任せた!」
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!』
「ちょっと盛り上がりすぎじゃない?」
『バカ言え、最終決戦だぞ?』
『せやで。ヒーローの一言でこないに盛り上がるのも悪くないやん』
ヒーロー…… 俺が?
「さあ、ヒーローさん。ヒロインを助けに行きましょう」
「……うん」
若干トゲを感じる天間さんの言葉に、とりあえずフリーグラビティを起動する。ふわりと浮かぶ体をPMで制御し、一気にサーバ施設まで跳躍を試みる。
「よし、いけそう」
「行きましょう!」
落下速度の倍以上の加速をかけて、移動を開始する。途中味方の声や銃撃音が掠めていくが、構わず移動する。攻撃は俺も天間さんもそれぞれが持つPMで無効化されているためだ。
だが、それでも無効化できないものもある。
「危ないですわ!」
「へっんぶっ!??」
突然の警告に、慌ててフリーグラビティをオフにする。直後慣性で前方に滑り、不可視の壁に衝突した。
「な、なんだぁ!? 障害物は無効化してるのに」
「……イベントエリアですわ」
天間さんの声に反応したのか、透明な壁が消え去り施設の入り口付近に黒い渦が巻き始める。
「やはり、この地形含めて見たことがあると思ったら、未実装マップ『エデン』とその没イベントと一緒ですわ」
「未実装マップ? なんでそんなこと知ってるの?」
「お父様がゲーム会社の開発に携わってるんですわ。私の特殊PMもその伝なんですの」
「なるほど…… で、その没イベントって?」
天間さんは手持ちのランスを構え直す。チャージ攻撃をするモーションに似ているが、恐らくガード姿勢を取るか悩んでいるのだろう。
「ラスボスのHDC-1023、コードネーム『ウォーロック』との戦闘ですわ」
黒い渦が爆ぜる。
遅れて衝撃音と爆風が俺達を襲う。フリーグラビティのおかげで吹っ飛ぶことはなかったが、その爆音は完全に鼓膜を吹き飛ばし、平衡感覚を失わせた。
「いってぇぇぇ!!」
後頭部がキーンと響く。目を開けると真っ暗な空が飛び込んでくる。そこでようやく体が平常時の角度でないことを知る。
「今のが、ウォーロックの!?」
脳の奥で何かがノックする。代わりに周囲がとても静かなことに気がついた。視界を正常な状態に戻すと、先ほどまであった渦は黒い人のカタチをとっていた。
腕が2対。
頭が2つ。
灰色の肌で全身が覆われ、長く伸びた腹には赤ん坊の足が5対生え、その間から金属に似た光沢を持つ蛇の尻尾をくねらせている。
驚くべきはその体が俺の倍以上あり、かつゆっくりと空中を上下運動していることだ。
「浮いてるのか、もしかして」
「……って! ……ん!」
誰かの声が聞こえた気がして注意しながら辺りを見回すと、天間さんが完全防御体制で相手を警戒していた。まだ鼓膜が戻ってないのかもしれない。
「って、あの影は!」
一旦近場の大岩に体を隠すと、ウォーロックに向かって行く大きな影が地面を走る。視線を上に向けると、巨大な斧が相手を穿つ瞬間を目撃した。ジョーさんの必殺技「脳天爆斧」が見事決まったようだ。
かぁぁぁぁぁぁ……ん!
「……!! ……ぇ!」
斧が衝突した甲高い金属音は、今の俺にもしっかり届いた。だが音からして相手にダメージを与えられたかというと、そんな気配はない。
「……!?」
その反撃か、ウォーロックが体を大きく回転させ、尻尾の衝撃で辺り一面を薙ぎ払う。
「あっ、ぶねぇ!」
「……! ……」
飛び散る破片の攻撃を、間に入った八雲ねーちゃんが払い落とす。
しかし、俺に何か言ってるようで何も聞こえな……
@ブランダ>「シャキッとしぃ!」
@ロウフォーク>「次、来ますわ!」
@ジョー>「気合い入れろぉ! 死にたいか!?」
唐突に表示されたメッセージに、思わず笑みがこぼれた。
「失礼…… しましたぁ!」
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