第4話 島の大人たち
さて、困った。
実際バレるまでは想定していて、そこからどう動くかのアイデアをもらうつもりでいた。
父は本土で働く職員でもあるので、校舎のバグなども何らかの情報がもらえればと思っていただけに、当てが外れた。
「仕方ない、ステラ」
「?」
「その…… お風呂、行くぞ」
俺は上着だけの彼女の手を取る。しかしベッドから立ち上がろうとしない。ぐいと引っ張るも上半身がぐらぐらするだけで、全く力が入らない。
「もしかして立てない、のか」
「??」
俺の質問に笑顔で返す彼女に、俺はステラが置かれていた状況を思い出した。もしもあのガラス管に捕まっていたのが年単位だったなら筋力の衰えもあるだろう。
「仕方ない、背負うか……」
背中に当たる感触をなるべく気にしないように彼女を浴室まで連れていく。普段は一人で入る風呂も、もう一人増えるだけで結構手狭な気がしたが、何とかステラの入浴を完了させる。
ほとんど俺が洗ってあげたから言うまでもなく緊張しまくったけど。
「んー、このままこの子をうちに匿うだけだとどうしようもないな…… 仕方ない」
ステラは悩む俺の顔を見て目一杯微笑んだ。
◇
この島は週末になると少し賑やかになる。本土で働いてる人たちが交代で帰ってくるからだ。
本当なら俺の両親も今週は戻るシフトにはずだったんだけど…… と思っていたら、今日はやけに静かなことに気がついた。
「おかしいな、船が来る時間はとうに過ぎたはずだけど」
せっかくなので歩いて五分の船着き場に行ってみると、いつもあるはずの巨大な船が来ていない。
「おん、巡里んとこの深宙じゃねえか?」
「おはようございます」
船着き場の管理人さんが俺を見つけて声をかけてきた。いつもは笑顔で話しかけてくる管理人さんは、何故か今日に限って曇り顔だ。
だけど生まれてからずっと島にいるせいか、近しい大人の人たちは大体なにかしらこうして世話を焼いてくれる。
「船、今日は着てないですね」
「なんだ、深宙はニュース見てないのか?」
「テレビはあまり見ないですね」
「ネットニュースも見とけ。……本土との運航は当分中止だ。特に人の出入りは厳格に制限されるってよ」
「え!?」
「本土の方で事件があったらしい。住民のためのライフラインは残して他のやり取りは滅多なことじゃあ再開されないとよ。ったく、何が起こってやがる」
そう言えば先日の父は態度が変だった。それと関係しているのかもしれない。
「となると、頼れる大人は…… あの人くらいか」
家から歩いて五分の所にある駄菓子屋「あまいや」は、俺が小さい時から子供のたまり場になっている。
「……八雲ねーちゃん、いるかな」
三人くらいの小学生が熱心にお菓子を漁る中、俺は奥のカウンターに向かう。
「いらっしゃ…… なんや、『みそっち』やんか」
「あ、八雲ねーちゃん」
雨衣八雲ねーちゃん。俺がこの店に通うようになってからずっといる自称二十歳のお姉さん。だけど、俺が小学一年の頃から二十歳だから少なくともアラサーのはず。
「珍しいやん。最近はメッセージのやり取りばっかで顔見んくなって寂しかってん」
プリン頭のロングヘアに、大きな胸を強調するようなタンクトップを着てるくせにやってることは駄菓子屋の店番であることに、俺はギャップ萌えを狙ってるんだと思ってる。
まあそれは八雲ねーちゃんにとって「表の顔」だ。
「ねーちゃんてさ、この島の事に詳しい?」
「あん? 『舟継島』についてか? 他の大人らとそう変わらんで?」
「えーと、何から話そうかな…… 例えば、BATTLE-ARMのPMが実際の世界でも影響するって言ったら信じる?」
八雲ねーちゃんの口角がぐいっと上がる。
「なんやなんや? BATTLE-ARMで遊びすぎて現実と混ざっとんのか?」
「違うって…… 話すと長くなるんだけどさ」
俺は先日起きたことを八雲ねーちゃんに話してみた。
クラスの友達は全く信じなかった話も、何故かねーちゃんは黙って聞いてくれた。
「ふーん、なんや創作にしてはオチもないし、興味あるとこもあるやん」
ねーちゃんはふいっと店内を見回し、客がいないのを確認すると入り口の扉を閉めて施錠する。
「ちょっと待っとって。その子そのままやと着る服ないやろ。ウチの持ってったるわ」
「あ! 確かに! ありがとう!」
ちょっと大きめの鞄にいくつか衣類を突っ込んで、俺はねーちゃんを連れて家に帰った。
「ステラ、お客さんだよ」
「??」
「ほーん、これが言うてた……」
俺の部屋に八雲ねーちゃんを通すと、ステラを見た瞬間ねーちゃんが固まってしまった。
……やっぱりマズかったか?
「な、なんやこの生物…… 可愛すぎんか?」
やっぱりマズかったかもしれない。
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