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エンデヴァー・プロジェクト  作者: 国見 紀行
第八章 空想を力に変えて
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第38話 母の思いと民の願い

「最終タイムリミットは明後日の22時あたりだそうだ」


 ジョーさんが大剣「雲落とし」の手入れをする八雲ねーちゃんを尻目に俺たちに告げる。


「やけに時間がかかるんですのね」

「やっこさん、マザーブレインの接続解除キーをステラから抜くのに手間取ってるみたいなんだよ。ライフセキュリティに引っかかってて、時間をかけて同調しないと閲覧ができないんだと」


 ジョーさんが状況を事細かに説明する。

 だが、俺はその説明がいささか細かすぎて逆に違和感を覚えた。


「なんか具体的ですね、理由」

「あっちも一枚岩じゃないってことだよ。なんせ今回のマザーが決めたことに納得している住人もかなり多いんだ」


 ARMに映像が転送される。エアル・ヴェノスのマザーブレインがいかにしてこの世界を保ってきたか、の資料のようだ。


「半分くらいは流用データだが、当の本人たちからの提供データだから信頼性は高い。……まず今回の発端は『マザーが次世代のマザーズブレインの生成を拒否したこと』らしい」


 網膜に映るデータがちょこちょこと動く。

 

「エアル・ヴェノスの住人は現状ほぼ多次元空間にのみ存在するが、それはマザーブレインによる超高速演算によってもたらされる電子記録現実化(メモリアライズ)の延長線上にある架空の存在次元を設けることで実現されている、か」


 要するに、自分たちが住む世界を、マザー一人で構築しているわけだな。


「そして、メインで演算を行うマザーブレインが摩耗してくると、新しい脳を用意する必要がある」


 ここで脳の画像がアップになる。地球人の脳とはちょっと構造や大きさが異なるが、俺たちが見ても「脳」と分かるような外観をしている。


「今までは脳を直接電子記録現実化(メモリアライズ)して生成し、接続解除キーを埋め込んでそのまま吸収接続、って感じだった。だが、今の世代…… ステラの母親は自分の子をそのまま世界の柱として組み込むことに疑問を感じた」


 俺はどきっとした。

 あの部屋で見た光景にステラが組み込まれる状況を想像してしまったのだ。

 大量の脳みそが浮かぶ中に彼女がバラバラになって、さらに脳だけ切り取られて、繋がって…… と、あまりに猟奇的なシーンに自分から想像するのをやめる。


「当初地球にもたらされた情報では、受け皿としての肉体(ハードウェア)の要求だった。マザーブレインが限界に近づいてきているのも嘘ではなかった。ただ、母としての愛が娘を生かしたかったんじゃないか、と思っている」

「なあ、それやと」


 八雲ねーちゃんが手を上げて会話を遮る。


「ほんならゼラレイドは何をしようとしとるん? あいつはそもそもマザーの言ってることがウソや言うてクーデター起こしたんやろ? 今一つやりたいことが見当たらへんよ」

「それについては、これを見てほしい」


 また別の画像が表示される。今度はゼラレイドとステラ、双方から脳を取り出してさらにステラの脳から何かを抜いてゼラレイドの脳に埋め込んでいる。

 ……あ、接続解除キーかな?


「ざっくり言うと、ゼラレイドはマザーが限界なのを知ってて、かつ役割を終えようとしているマザーブレインシステムの中に入ろうと思ってるんじゃないか、と考えられる。彼の目的は『エアル・ヴェノスの救済』だからな」

「あー、せやったね。……って、それってめっちゃラッキーなんちゃうん? なんでマザー側はそれを拒否すんねん」


 確かにそう聞くと、ゼラレイドはエアル・ヴェノスにとってプラスなことしかしてないし、マザーブレイン側もかなり個人的な理由で世界を終わらせようとしているように聞こえる。


「……実はね。エアル・ヴェノスに残ってる住人は、ある程度死を受け入れているんだ」


 ぽつり、とウェド艦長は呟く。


「というか、もう生きてるか死んでるか分からない、ただの『存在コード』だけが延々と存在しているだけの、価値のないエラーコードのようなものさ」

「……寂しい言い方ですわね」


 寂しい、そう天間さんは評価する。俺もその気持ちは分かる。

 世界観というか、倫理観というか、根本的なところで俺たちと彼らは理解し合えない溝みたいなものがあるんだろう。


「彼らは食事を必要としない。子供を作るのにセックスも必要ない。話し合うのに言葉がいらない。嫌いになれば二度と分かり合うことはない。眠った後に起こる目覚めのけだるさを感じない。私はこの身体を手に入れてから、毎日がとても刺激的で楽しいことばかりなんだ」


 声は楽しそうだというのに鬼のような形相で艦長は語る。

 ……初めて会ったステラも笑うまで結構時間がかかったっけ。


「過去のエアル・ヴェノスに何があったかは知らないが、変化を求めるものはもう地球へ旅立ち、こうして外の世界へ出ているものがほとんどなんだ」

「では、残っている方々はこのままエアル・ヴェノスの古き媒体に封じられたまま、歴史の闇に消えることを願っている、と」

「そうなってほしくないから、マザーは助けを求めたんでしょうね」


 天間さんとウェド艦長は、そう結論付けた。


 ……俺は、ちょっと違うけど。

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