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エンデヴァー・プロジェクト  作者: 国見 紀行
第八章 空想を力に変えて
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第37話 MISS-STELLA

「ミステラ、プリセットを確認して」

『4スロット中1スロットに壁ジャンプ(すりぬけ)、カモフラ、2スロットにフリーグラビティ。以上』


 俺はARMに改めて名前を付けた。ミストルとステラ、両方であり、両方ではない。そんな名前。ミストルと呼ぶには人格がありすぎるし、ステラと呼ぶには本人(オリジナル)に抵抗がある。


 フリーグラビティは一応公式が配布しているPM(プログラムモジュール)の一つで、重力制御が可能になるプログラムだ。


 現状、エアル・ヴェノスの環境は地球やBATTLE-ARMで遊んでいた空間よりも空気密度や重力に大きな違いがある。それらを考慮すると自分の行動軸が制限される「低重力環境」を克服する必要があるのだ。


「でも、本当にPMが電子記録現実化(メモリアライズ)に強く影響してるの?」

「天間っちの治療の際にも使(つこ)てたやん。それの延長やと(おも)うてればええよ」


 きっかけは、天間さんの頭を吹っ飛ばした「情報爆発」というやつらしい。

 ディープ・アドバンスの中に充満した超高密度情報媒体…… 要するに元エアル・ヴェノスの住人が周囲にいた他の搭乗者(ちきゅうじん)の脳を書き換えたのだ。それが「自分たちが存在できる世界を構築するために脳のリソースを借りる事」だという。


「もちろん一時的なものだよ。地球人の識者からは『地球人の脳は、常にフルで動いてるわけじゃない。8割は仕事しない』って聞いていなかったら絶対に行わないし、今回のも実例がない賭けのようなものだったからね」


 ウェド艦長は自分の頭をツンツン指す。彼の頭は生身だが、そう言われると彼自身は何割活動してるか気になるところだ。


「ウェド艦長の言うとおり、オレたちもその後から脳に住み着いたエアル・ヴェノスの住人たちと交流するうちにメモリアライズを習得して、その力でディープ・アドバンスの修理が可能になった。彼らの技術も相まって、お前たちに追いつくには十分な性能を持たせることも成功したが……」


 ジョーさんが満面の笑顔にしながら楽しそうに説明する。技術者として純粋な興味の対象としてその理由が気になるらしい。


「むしろ、何でみそっち達と時間感覚がちゃうんやろうな?」

「それはきっと、乗ってた船の航行速度も関係あるんじゃないか?」

「そういえば、舟継島の運航に関しては全部任せてたっけ。俺は食べ物の育成で畑に出っ放しだったし…… ってそう言えば」


 俺は植えたジャガイモが通常より早く収穫できたことを伝える。すると、一番驚いたのはウェド艦長だった。


「ありえない。ディープ・アドバンスもそうだけど艦内環境を操作することは不可能だよ。いくら自然環境再現ドームをもつあの区域でも、育成時間の短縮ができるほど豊富な土壌もあるはずがない」


 でも、と続けようとしたところ八雲ねーちゃんが突っかかった。


「ほな、やっぱ時間操作が行われとったんちゃう? 三倍以上の速さで船が動いとったんならみそっちらの『体感』は2、3ヶ月かもしれんけど、実際はその倍以上の時間がかかっとったってゆうならあり得ん話でもないで」

「え、なに? ……ああ、ウラシマ効果か?」

「ウラシーマ効果、とは?」


 ジョーさんが謎の相槌を打つ。しかしその単語は俺も聞き覚えがあった。単語自体は俺たちにしか伝わらないから、ウェド艦長がオウム返しでジョーさんに質問する。


「いえ、相対性理論の一つっていうか。脳の中の人が話しかけてきたんですけど、要するに舟継島の航行速度が限りなく光に近い速度で走るうちに彼らの時間の経過が遅く感じたんじゃないかって話です。周りの速度が速いから、巡里氏たちは体感2、3ヶ月でも、実経過時間はもっとあったんじゃないか、と」


 その発言に八雲ねーちゃんが大きく頷いた。


「それ、めっちゃありえる。というか、それが一番近いんちゃいますか?」

「ううむ、私にはまだピンとこないが」

「なくはない、って思ってもろたらええですよ」


 話が収束に向かったので天間さんは「ヴヴン!」と咳払いで完全に話の筋を戻した。


「……時間のずれについてはいったん置いといて。要するに私たちの脳の中に、ちょっとしたサーバと同じくらい演算処理を肩代わりしてくれるPCが常駐してると思ってください。それらが私たちのARMにインストールされたゲーム『BATTLE-ARM』の実行アプリを元に現実世界へ直接メモリアライズ現象を起こせるようになったんです」


 得意げに天間さんは解説する。こんなにしゃべる人だったっけ?


「あ、でも俺はそんなのないよ?」

「巡里くんは、()()がそうだから」


 そう天間さんが指さすのは、俺のARM。よく見ると、他の皆は俺が直前まで突けていた超小型ARMのほうだ。


「巡里氏のは特別製だ。そのサイズでメインディスク容量が8ペタバイトあるんだが、それでもAI−STELLA-OSが半分以上を占めてる。演算領域はオレたちとトントンだからあまり無理をさせるなよ」


 ステラどんだけ容量あるんだよ……


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