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エンデヴァー・プロジェクト  作者: 国見 紀行
第八章 空想を力に変えて
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第36話 君の声に

 気が付くと、そこはディープ・アドバンスの医務室だった。


「おはようございます、巡里くん」

「おは…… 本当に天間さん、なの?」


 ベッドの横にはあの天間さんが、あの時のままにこやかに座っていた。

 ディープ・アドバンスを脱出する騒ぎの直前に、頭部は吹き飛んでしまったのを思い出す。あれで助かったとは思えない。


「エアル・ヴェノスの技術の一つだよ。君たち地球人の技術も応用してある」

「あ、ウェド艦長…… 技術、ですか?」

「もともと君たちが提供するはずだったクローン技術、あれを応用してね。彼女の脳データは事前にバックアップがとられていたんだ。君たちの治療(攻略)がうまくいくかは賭けだったからね」


 申し訳なさそうに艦長は話す。俺はそんなこと気にしないが、彼女が本当の意味で死なない限りは倫理的な問題で表に出せなかったのだろう。


「幸いにも脳の移植だけで済んだから、回復も早かったらしいですわ」

「その辺はエアル・ヴェノスの技術力だね。こちらとしてもいい経験になったよ」

「そうか…… よかった。――ぐっ!?」


 彼女の顔をよく見ようと体を起こそうと力を込めると、背中からお腹にかけて鋭い痛みに襲われた。


「まだ無理はしないでくださいな。あなたの怪我は自然治癒に任せるしかないのですから。それに、向こう側はいま表立った動きもないようですし」

「そ、そうなんだ…… でも、天間さんとまた話せてうれしいよ。……俺が死なせたかもしれないんだし」

「御冗談を。最後の最後で機転を利かせて助けてくださったと伺ってますわ」


 にこやかに笑う天間さんに一瞬心を奪われそうになるが、その顔で俺はステラの事を思いだした。


「そう言えば、あいつらは?」

リブレーン(ゼラレイド一味)のことかな?」


 俺は深く頷く。

 それを見た艦長は、しばし空を見上げてため息をついた。


「彼女も少し触れたが、いまゼラレイドは中央サーバルームで王女(ステラ)と物理的リンクを構築している。だけど周りが配下の監視が強くて必要以上に近づくとすぐに殺される。ギリギリ得られた情報では、精神同調(メンタルハック)がうまくいかないらしく、そこで時間を食ってるようなんだ」

「そう言えば、あの施設に入ってからステラの様子がおかしかった……」


 ふらふらというか、ぼんやりというか、心ここにあらず―― そんな感じだった。


「エアル・ヴェノスに到着する前から少しずつハッキングを行っていたんだろうが、彼らが独自に地球人の肉体(STELLA)の研究を行っていたために、脳解析に時間がかかっているんじゃないか、と我らは予測している」

「……あ、確かにゼラレイドとステラの外観はかなり別物ですよね」

「君たちは女王フィレイン(ステラの母親)の要望と地球人の人体構造のいいところを余すと来なく組み込んだ高性能のクローン体(ハードウェア)を用意してくれたことが今回幸いしたようだ」


「お、みそっち起きたか!? よかったぁ!」

「あ、八雲ねーちゃん…… ジョーさんまで」

「無事で何よりだ」


 話し込んでいると二人が医務室に入ってきた。


「二人だけで半年近くよう生きとったなぁ! ウチ心配で心配で…… 子供でもできとるんちゃうかって」

「ははは…… 生きるので必死だったから」

「ちょっと雨衣さん! デリカシーなさすぎですよ!」

「天間っち! みそっちが無事やったんやし喜ばんと!」

「それとこれとは話が!」


 その会話でふと妙な違和感を覚えてた。


「あれ? 半年?」

「せやでぇ。あのディープ・アドバンス襲撃から半年は軽く経っとる。むしろあと40年ほどはかかる言われてたエアル・ヴェノスにこんだけ早く到着したんも、あの襲撃があったからこそやけどな」

「俺の体感じゃ、まだ2カ月もたってないんだど」

「それや。まさに」


 八雲ねーちゃんがベッドに腰かける。その位置を嫌がったのか、天間さんがより俺の枕元へ椅子ごと移動して近づいてきた。


「どうもエアル・ヴェノスの用いる技術である電子記録現実化(メモリアライズ)は、ウチらでも簡単なモンなら実行できることが分かったんや。というより、ウチらは実際もう使っとる」

「地球人の柔軟な思考は驚くばかりだ」


 そうして、ウェド艦長は一組のアクセサリを俺に差し出す。

 ピアス状の小さなイヤーカフス。


「これ、もしかしてARMですか?」

「ああ。とあるハイブリッド研究者に手伝ってもらったよ」

「とある? 誰ですそれ」

「つければわかるかもしれないよ」


 釈然としない中、俺はARMを耳にセットする。ピアス穴はないが、内側から挟み込む特殊な形状でつけていても違和感のない重さとサイズだ。


『……ウェイクアップ。初期設定をしてください』


 聞き慣れたミストルの声。しかし、どこかおかしい。

 おかしいというか、おかしさを感じない。まるで、本当の人の声のような……


「よし、終わり。」

『――お疲れ様! コレで会話するのは、始めてかな? みそら!』

「――ステラ?」

「彼女がディープ・アドバンスにいた時に彼女のAIバックアップを使ってARMのOSをリビルドしたんだ。今なら本土(メインサーバ)もあるから、性能が落ちることはない」


 それからウェド艦長がいくつか機能について説明したが、何故か頭に入って来なかった。

 代わりに、俺はずっと胸が苦しくてただただ泣いていた。

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