第30話 囚われの深宙
『さて、そろそろかな』
「え?」
ふっ、と人工太陽の電源が落ちる。次いで周囲の環境電源が落ち、辺りは完全に闇の中へと沈んでしまった。
『残念だよ。素直に従ってくれれば君だけでも助かる道はあっただろうに』
空に浮かぶ画像もブロックパターンを経て闇に溶ける。後に残ったのは空のウインドウの向こう側に浮かぶ、本物の星の瞬きだけだ。
「……ステラ?」
「『ごめん、島のメインシステムが侵入破壊された』」
体全体が鉛のように重くなった気がした。それに追い打ちをかけるようにミストルが網膜に『メインサーバとの接続が切断されました』とメッセージを送る。
『巡里くん。既に君の船の周りには我々の配下が乗った船を配備している。大人しくしてれば、今すぐ命を奪うことはしないと約束しよう』
手遅れだ。
ずずん、と地面が揺れる。重力が揺らぐのを感じ、立っていられなくなる。俺は自分の足に力が入らなくなっていくことに気が付いた。
「……」
ヴン、と重い音と共に、周りを黒い人型のHDCに包囲される。
ゲームでも見たことのないタイプだ。恐らく、ゼラレイドたちのオリジナルプログラムだろう。
『ついて来てもらおう。我らの艦へ』
◇
真っ暗で、何もない空間。
広さは俺の家の倍くらい。しかし、壁と天井、そして床以外は何もない。
光もほとんどない。ぼんやりと緑か青か分からない程度の環境光がちらりと見える程度だ。
「……何もないね。せめて服くらいは欲しかったな」
「君がメモリアライズできないという保証はないのでね。光触媒も落とさせてもらっている」
「!?」
舟継島の中央にあった出入り口から直接彼らの艦に乗せられ、目隠しをされたままこの部屋へ連れてこられた。終始無言だった彼らの向こう側から声が聞こえた事にかなり驚いた。
「ひかり、しょくばい?」
「とぼけなくていい。光エネルギーを用いて三次元空間に物体を創造するPMだよ。君が大好きなプリンセスが使う実体化能力だ」
「へえ、光エネルギーが触媒なんだ。だから、ステラがメモリアライズを走らせると一瞬周りが暗くなるんだ」
人型HDCの向こう側から現れたのは、ステラとは似ても似つかぬ容姿をした、真っ黒な脳みそが浮かぶ巨大なイカの生き物だった。
「……くっくっく。やはりこの姿は君たちにとって奇異に映るようだ」
ブツン、と空気が振動すると、その姿はステラの男版といった見た目に変わる。真っ黒なスーツに緑の髪、大きな耳と赤い瞳。
しかし、鼻から下…… とりわけ口元はマスクのような覆いがされており、顔の全貌まではわからない。
「これで話しやすくなったかな」
「あんっ…… あなたがゼラレイド?」
「巡里、深宙くん。プリンセスのエスコート感謝するよ」
「ステラは!?」
「情報処理が必要ない場所で休んでもらっているよ。君も我が星に来るまでは重要な客人だ。丁重に扱うと約束しよう」
妙に背筋がざわつく。
突然優しくされたからではない。その言葉の端々に、人の血が通っているとは思えない冷たさを感じたからだ。
「……殺そうとした相手に、妙に優しいんですね」
「殺戮を楽しむためにクーデターを起こしたわけじゃない。何万、何十万という同志のために戦いを余儀なくされた、それだけだ」
「ご自身は肉体を手に入れて?」
「はははは。聡いね。なら―― 君が生かされてる理由も分かるだろう」
お互いの間に黒い格子が言葉通り浮び上がる。
格子はその太さを徐々に太らせ、ついにはお互いを隔てる壁になった。
もう話すことはないらしい。
「……俺が、ステラのお荷物、なんだろうな」
生かされてる理由といえば、それくらい。
あとは肉の体を持つことあたりか。でもそれなら冷凍保存するなりするほうがいいはず。
『……情報の遮断を確認しました』
「うぉあ!? ……あれ、ミストル?」
『何かお困りですか?』
「取り上げられなかったのか、お前」
『どうやら普及モデルのARMではないことで彼らの検閲を逃れた可能性があります。今の私は本土の技術で一般的なARMと大きく形状が異なり、より人体に密着したデバイスになっていますので』
もしかしたら、なんとかなるか?
「ミストル、この状況どうすればいいと思う?」
『絶望的です』
「おいおい…… あ、ちなみにバッテリーはどれくらい持つの?」
『PM全開にしないならおよそ10日。サーバ連携できないので負荷を考慮した場合は最大で8時間。スロット連携は2スロットまでとなります』
ミストルの情報に違和感を覚えた俺は、あることを思いついた。
「……PMを起動、できるの?」
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