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エンデヴァー・プロジェクト  作者: 国見 紀行
第六章 二人だけの生活
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第27話 それはさつまいもの味

 数日もすれば、俺達二人の生活リズムは形になりある程度の習慣が生まれてきた。

 そしてはっきり思う。ステラは、 ()()()()()()()()()()()()()()


 最初の二週間は知識だけがあった彼女も徐々に羞恥心が芽生えて風呂やトイレに気をつけて生活していたが、見ている対象が俺だけという特殊な環境だからか、あるいは新たな感情の獲得からか。


「ステラ、あのさ」

「『なあに?』」

「俺も、一応男だしさ」

「『ん?』」

「スカートはもうちょっと長いほうがいいと思うんだ」


 それを聞いたステラはニコっと笑う。

 かわいいはかわいい。なんならずっと見ていたい。けれど、俺達は二人しかないない。なにかあったら俺達で対処しなきゃいけない。

 ……いや、他意はない。本当に。


「『でもこれ、八雲さんの家にあったやつだよ』」

「すごいの持ってたんだな八雲ねーちゃん」

「『履いちゃだめ?』」


 いいよ。ぜんぜんいい。


「人前ではあまり良くない」

「『みそらは嫌い?』」

「大好き」

「『なら履く』」


 バカバカ! 俺のバカ! よく言った!


 ……とまあ、徐々に誘惑負けする俺の感情上がり下がりが激しいのだ。

 変にギスギスするよりはいいのだが、このままだと別のマチガイが怒らないか心配だ。


 かといって、四六時中一緒というわけでもない。ここひと月は学校で電子書籍を読みあさって宇宙や科学資料を読むようになったし、ステラは舟継島について詳しく調べているらしい。


「……でも、一人だけだとやっぱり行き詰まるな」


 なんとなく外を見る。

 今でこそ理解できるが、それでも外の人工太陽は眩しくて暖かい。ランダムに雨が降ったりするけど、自然らしさというのを感じないなりに作られたものだというのを実感する。


「『みそら! ご飯食べよう!』」

「お、うん」


 ぼんやりしているうちに夕方になったようで、ステラが迎えに来てくれた。

 二人しかいない世界。

 父さんや母さんがいないことが不安じゃないとは言わないが、幼い頃から積み重なった「一人で何とかしてきた日常」にステラが入り込んできたことに、むしろ心地よさを感じつつある。


「『今日はこれだよ!』」

「これ、って…… さつまいも?」

「『うん。もう十分収穫できる大きさになってたから、ちょっと持ってきたんだ』」


 片手で持てないほどの大きさに育った数本のさつまいもが、ほくほくの湯気を立ててテーブルに並んでいる。色々な勉強をしながらとは言え、自分たちだけで作り上げた作物だ。


「にしては早くできたな。あと半月はかかると思ってた」

「『周囲の環境調整がうまくいったみたい。じゃがいももいくつか取れるくらい育ってたよ』」


 パコッと半分に割ると、さつまいも特有の甘い匂いが鼻をかすめる。すっかり黄金色になった部分に思いっきりかじりつくと、しっかりとした甘みが舌刺激する。労働が報われた瞬間だった。


「……うまい」

「『おいしいね!』」


 満面の笑顔でさつまいもを頬張る彼女に、なぜか俺は目が離せない。


「『……あ、そろそろじゃないかな』」

「え、なにが?」


 パタパタと窓際にいくとカーテンを開け、外に向かって手をかざす。すると、地球上から見える星のスクリーンがすっと消えて、今俺たちから見える天体の輝きが空に映し出された。


「『航路の調整中に見つけたの』」

「……あ!」


 そういって指差す先の星に目を向けると、ひとつ、また一つと大きな天体にそれらが吸い込まれていく。俗に言う「流れ星」だが、空の上から見ると天体が星を食べているようにしか見えない。


「……惑星も食事してるみたいだ」

「『あ! 本当だ。近い星をぱくぱく食べてる!』」


 窓際に移動し、星を見るふりをしながら喜ぶステラの横顔を見る。彼女は俺に目もくれず、できたてのさつまいもを食べながら最高の天体ショーに目を奪われている。


「『綺麗だね』」

「うん、綺麗」


 そっと肩を抱く。嫌がられない。

 身のなくなったさつまいもを置きに行こうとするステラをそのまま抱きかかえた。彼女は何も言わなかったが、ちょっとだけ体重を預けてくれた。


「エアル・ヴェノスの空もこんなに綺麗かな」

「『……わかんない。故郷の環境情報は私のデータベースに保存されてなかったから』」

「そっか」


 身長はちょっとだけステラが高い。けど、今はその差が遠く感じた。


「……ステラ」


 囁くように名前を呼ぶ。


「『なに、みそら』」


 彼女も小さな声で俺を呼ぶ。

 心臓が跳ねる。無邪気に笑う彼女が、俺の背中を一気に押した。


「俺、君が好き」

「『私もだよ』」


 はぐらかすような返しをする彼女に、俺はちょっとムッとして。


「違うよ、そういう意味じゃなくて」

「『え、嫌いなの?』」

「違うったら……」


 ステラの両肩を掴む。いざ掴むとまるで折れそうなほど華奢な体を支えるように自分の方へ引き寄せ、


「こういう意味だよ」


 無理矢理つま先を伸ばしてそっと減らず口を塞ぐ。


「『んっ!?』」


 仄かに広がるさつまいもの甘みが徐々に別の味に変わっても、俺たちは離れることはなかった。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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