第24話 侵略者の足音
「……? ステラ、なんや今の音は?」
「『え、音?』」
『情報の爆発的拡張を受信。危険――』
八雲ねーちゃんステラのやり取り混ざってミストルが警告を発する。その瞬間、「次元繋ぎ」が埋まっていた場所からものすごい膨らみが空間を埋め尽くした。
「う、わぁぁあ!???」
「なん、だっ!?」
謎の膨張に流されるまま俺達は天間さんの体から追い出された。直後、落下による怪我を避けるために「ミクロ化」を解除すると、天間さんの頭が元の頭に重なるよう二重写しのように膨らみ、中から見覚えのある顔が映し出された。
「……ゼラレイド!」
『感謝するよ君たち。実はそのHDCが故障してしまってアクセスできなくなっていたんだ。おかげで』
俺は思わずニンジャソードを振り下ろす。しかし膨らんだ天間さんの頭だけがむなしく破裂し『ようやく見つけたよ』と声が響いた。
直後、甲高いアラームととともに部屋の照明が赤く染まる。
「な、何だ!? 今の声といい何が起こってる!?」
「ジョーさん、今のがゼラレイドです!」
「ちょ、テロリストのボスやないか!」
思考が止まる。
どうしていいか分からない。ただ、何かがこの船に起こっているのは間違いない。それなのに自分に何ができて、どう動けば問題が解決するのか、全く浮かばない。
『深宙、聞こえる!?』
「あ、えっと艦長さん?」
ARM経由で通信が入る。
『ちょっとヤバいことになってるみたいなんだけど、何か知ってる?』
「えっと、天間さんの中にいたHDCを駆除したんですけど、その時にゼラレイドが現れて……」
『なるほど、ちょっと今すぐステラのところまで来てくれないかな?』
「分かりました!」
俺は部屋を出ると一目散に彼女の部屋へと向かった。通路は相変わらずサイレンと赤い照明が点滅して、緊急事態であることを示している。
「ミストル、プリセットをフィジカルブーストが使えるやつに変えて!」
『了解』
プリセットに含まれている「壁ジャンプ」があちこちの壁に反応して隙間が表示される。俺はその一つにそっと指を添えて距離の短縮を試みた。
「よし、こっちだ!」
網膜に張り付いた船内マップを見ながら現在位置を探る。部屋を二つ分超えた先で突然銃声が耳に飛び込んできた。
「なっ、どうして一般人がここに!?」
「早く逃げろ! 降りてくる隔壁に気を付けろ!」
「わっ、え、何が起こってるんですか!?」
「船内に突然HDCが出現した! 対処が間に合わん!」
白い迷彩服を着た数人の軍人らしき人たちが銃を手に戦っている。銃口の向こうにいるのはHDC-087、四本の腕にそれぞれ鋭い爪を持つ大型のクリーチャーだ。下半身はライオンの胴体に似た四つ足を持ち、頭部には大きな顎に長い触角がこちらを伺っている。
それが三体。完全に通路を塞いでいる。
「……すいません!」
俺は「壁ジャンプ」を駆使して通路を飛ばし、目的の部屋へと移動する。アラームの正体は間違いなくアレだろう。
「ステラ…… 無事か?」
何度も船内マップを確認するが、それ以外の情報がオンラインにならない。船のメインサーバでエラーが起こっているのか、接続状況すら表示されない。
しかし、ステラの部屋に近づくにつれ戦闘音も遠くなっていく。誘導がうまいのか違うのかは計りかねるが、好都合だ。
「ステラ!」
「『みそら!』」
部屋に到着すると、ウェド艦長とステラが並んで立っていた。俺を待っていたようでステラは俺を見つけると抱き着いてきた。
「待っていたよ深宙」
「ウェド艦長、何が起こってるんですか?」
「どうやら一杯食わされたらしい。船のメインサーバも軒並み食われて被害が拡大してる。君たちだけでも――」
真っ赤に光っていた非常灯がガクンと落ちる。僅かな間を置いて再び灯ると、見たことのない巨大なHDCが姿を現した。真っ黒の体にケンタウロスのような歪な骨格。口からはガスのような紫の煙が立ち上り、岩のような両腕をハンマーのように振りかぶっては壁を殴って自身の強さを確認している。
「……逃げろ! 個別区画に入れば船から分離信号を飛ばして隔離できる! 君たちだけでも!」
艦長の手から銀色に輝く剣が創出される。背を向けて敵HDCに向かって走り出す。
「『艦長さん!!』」
「……行こう!」
俺はステラの手を取る。マップを再確認して個別区画を探すが、あちこちで敵対HDCが道を塞いでいてそもそもまともに逃げられない。
「いったんこっちに!」
「『うん!』」
空いた通路やエスカレータを見つけてはどんどんと奥へ進む。非常灯の明かりすら頼りなく感じるほど奥に潜っていくと、どこか見覚えのある通路に出くわした。
「……ここ、もしかして」
しかし地図上では個別区画ではない。まだ奥に行かなければならない。
「『ここ、私たちが初めて会った場所?』」
「多分ね。けどここは目的地じゃないみたい」
見覚えのある通路。見覚えのある水槽。
――もしかして。
「『あっ、ここ』」
俺が学校からやってきた場所。そして学校へ戻れる場所。
つまり「舟継島」へ行ける場所。
「『島に行くの?』」
「あそこは独立区画だから、一か八か」
戦闘音が近くなってくる。まごまごしてはいられない。
「頼む、外に――」
俺はステラを抱きかかえ、「壁ジャンプ」を起動した。
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