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エンデヴァー・プロジェクト  作者: 国見 紀行
第五章 小さな大宇宙
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第24話 侵略者の足音

「……? ステラ、なんや今の音は?」

「『え、音?』」

『情報の爆発的拡張を受信。危険――』


 八雲ねーちゃんステラのやり取り混ざってミストルが警告を発する。その瞬間、「次元繋ぎ」が埋まっていた場所からものすごい膨らみ(・・・)が空間を埋め尽くした。


「う、わぁぁあ!???」

「なん、だっ!?」


 謎の膨張に流されるまま俺達は天間さんの体から追い出された。直後、落下による怪我を避けるために「ミクロ化」を解除すると、天間さんの頭が元の頭に重なるよう二重写しのように膨らみ、中から見覚えのある顔が映し出された。


「……ゼラレイド!」

『感謝するよ君たち。実はそのHDCが故障してしまってアクセスできなくなっていたんだ。おかげで』


 俺は思わずニンジャソードを振り下ろす。しかし膨らんだ天間さんの頭だけがむなしく破裂し『ようやく見つけたよ』と声が響いた。


 直後、甲高いアラームととともに部屋の照明が赤く染まる。


「な、何だ!? 今の声といい何が起こってる!?」

「ジョーさん、今のがゼラレイドです!」

「ちょ、テロリストのボスやないか!」


 思考が止まる。

 どうしていいか分からない。ただ、何かがこの船に起こっているのは間違いない。それなのに自分に何ができて、どう動けば問題が解決するのか、全く浮かばない。


『深宙、聞こえる!?』

「あ、えっと艦長さん?」


 ARM(ミストル)経由で通信が入る。


『ちょっとヤバいことになってるみたいなんだけど、何か知ってる?』

「えっと、天間さんの中にいたHDCを駆除したんですけど、その時にゼラレイドが現れて……」

『なるほど、ちょっと今すぐステラのところまで来てくれないかな?』

「分かりました!」


 俺は部屋を出ると一目散に彼女の部屋へと向かった。通路は相変わらずサイレンと赤い照明が点滅して、緊急事態であることを示している。


「ミストル、プリセットをフィジカルブーストが使えるやつに変えて!」

『了解』


 プリセットに含まれている「壁ジャンプ(すりぬけ)」があちこちの壁に反応して隙間が表示される。俺はその一つにそっと指を添えて距離の短縮を試みた。


「よし、こっちだ!」


 網膜に張り付いた船内マップを見ながら現在位置を探る。部屋を二つ分超えた先で突然銃声が耳に飛び込んできた。


「なっ、どうして一般人がここに!?」

「早く逃げろ! 降りてくる隔壁に気を付けろ!」

「わっ、え、何が起こってるんですか!?」

「船内に突然HDCが出現した! 対処が間に合わん!」


 白い迷彩服を着た数人の軍人らしき人たちが銃を手に戦っている。銃口の向こうにいるのはHDC-087、四本の腕にそれぞれ鋭い爪を持つ大型のクリーチャーだ。下半身はライオンの胴体に似た四つ足を持ち、頭部には大きな顎に長い触角がこちらを伺っている。

 それが三体。完全に通路を塞いでいる。


「……すいません!」


 俺は「壁ジャンプ(すりぬけ)」を駆使して通路を飛ばし、目的の部屋へと移動する。アラームの正体は間違いなくアレだろう。


「ステラ…… 無事か?」


 何度も船内マップを確認するが、それ以外の情報がオンラインにならない。船のメインサーバでエラーが起こっているのか、接続状況すら表示されない。

 しかし、ステラの部屋に近づくにつれ戦闘音も遠くなっていく。誘導がうまいのか違うのかは計りかねるが、好都合だ。


「ステラ!」

「『みそら!』」


 部屋に到着すると、ウェド艦長とステラが並んで立っていた。俺を待っていたようでステラは俺を見つけると抱き着いてきた。


「待っていたよ深宙」

「ウェド艦長、何が起こってるんですか?」

「どうやら一杯食わされたらしい。船のメインサーバも軒並み食われて被害が拡大してる。君たちだけでも――」


 真っ赤に光っていた非常灯がガクンと落ちる。僅かな間を置いて再び灯ると、見たことのない巨大なHDCが姿を現した。真っ黒の体にケンタウロスのような歪な骨格。口からはガスのような紫の煙が立ち上り、岩のような両腕をハンマーのように振りかぶっては壁を殴って自身の強さを確認している。


「……逃げろ! 個別区画に入れば船から分離信号を飛ばして隔離できる! 君たちだけでも!」


 艦長の手から銀色に輝く剣が創出される。背を向けて敵HDCに向かって走り出す。


「『艦長さん!!』」

「……行こう!」


 俺はステラの手を取る。マップを再確認して個別区画を探すが、あちこちで敵対HDCが道を塞いでいてそもそもまともに逃げられない。


「いったんこっちに!」

「『うん!』」


 空いた通路やエスカレータを見つけてはどんどんと奥へ進む。非常灯の明かりすら頼りなく感じるほど奥に潜っていくと、どこか見覚えのある通路に出くわした。


「……ここ、もしかして」


 しかし地図上では個別区画ではない。まだ奥に行かなければならない。


「『ここ、私たちが初めて会った場所?』」

「多分ね。けどここは目的地じゃないみたい」


 見覚えのある通路。見覚えのある水槽。

 ――もしかして。


「『あっ、ここ』」


 俺が学校からやってきた場所。そして学校へ戻れる場所。

 つまり「舟継島」へ行ける場所。


「『島に行くの?』」

「あそこは独立区画だから、一か八か」


 戦闘音が近くなってくる。まごまごしてはいられない。


「頼む、外に――」


 俺はステラを抱きかかえ、「壁ジャンプ(すりぬけ)」を起動した。

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