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エンデヴァー・プロジェクト  作者: 国見 紀行
第五章 小さな大宇宙
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23/50

第23話 施術完了!

 この「次元繋ぎ(メルトホール)」はゲーム中ではめったに見ない「肩書持ち」のクリーチャーだ。シナリオでも重要な役割を担い、世界観に浸らせる重めの中ボスでもある。


「そういえば、こいつの弱点って何だったっけ?」

「爆発音だな。洞窟などの閉鎖空間を住処にしてるから衝撃に弱い」


 ジョーさんがバッグをごそごそと漁る。その視線の先には、俺の指ほどの細い触手に絡め取られて引きずられるメスディーナさんが、何の抵抗もなく本体へと飲み込まれようとしていた。


「『私の肉体(ハード)は替えが効きます。先にこのHDCの駆除を』」

「あんなぁ、冷静に言わんといて! 生身の感覚しかないウチらにとったら、それも十分トラウマなんやからな!」


 八雲ねーちゃんが雲落としを振り上げて触手を剥がしにかかる。しかし周囲の壁や天井は天間さんの内臓器官であるためか、存分に振り下ろすことができない。


「ちっ、流石にバッグまで共用ではないか…… 雨衣氏! 『これ』を叩け!」

「ジョーさん、それメイン武器()やん! PVPはこのゲームに実装されて……」

「これは現実だ! それならお互いの武器が鉱物判定されるかもしれん!」

「あ、なるほどぉ!」


 いつものゲーム設定なら、近くの壁やせり出した岩を殴って音を出すことで相手をひるませることができる。しかし今回は周りがそもそも硬くない。


「いくでぇ!」

「おおう!」


 加えて、本来BATTLE-ARMはプレイヤーキャラ同士に攻撃判定がない。よってプレイヤー同士が殴りあうことができないのだ。

 ゲーム中ならば。


 巨大な剣と斧が、空中で鍔迫り合いを起こす。

 しかしその音は『チャリ』というささやかな音で、次元繋ぎを驚かすほどの音量は出なかった。


「あ、あら?」

「……そうか、質量か。今のオレ達はあまりに小さいから、金属同士でも必要音量が出ないのか!」


 くそ、俺が一番足手まといになってる。

 何かないかと腰をまさぐっていると、サブ武器のスモークグレネードがぽろりと落ちた。


「あ、これは実装されてるのか……」


 広範囲に煙を撒いて視界を遮るアイテムなのだが、破裂音はほぼ無い。せいぜい――


「みんな、何かに捕まって、口をふさいで!」

「どうしたんや、みそっち!?」

「いいから!」


 俺は来た道を少し戻る。湿度が増していき鼻の穴の分岐点まで来ると、勢いよくスモークグレネードを曲げつけた。


「いけーーー!!」


 くるくると回転しながらグレネードは破裂する。それを見届けると再びみんなのところへ戻った。手近な壁に体を預けると


《《へっくしゅん!!》》

「うあああああ!!!」

「きゃああああ!!」


 台風のような空気の塊が鼻の奥から吹き上がる。予想通り、天間さんが煙を吸ってくしゃみを誘発できたのだ。

 直後、床をゴロゴロとこちらに転がってきた何かが起き上がった。


「『助かりました』」


 くしゃみの衝撃がそのまま脳にまで響き、見事にメスディーナさんが次元繋ぎから解放されたようだ。


「やるやんみそっち! お手柄やで!」

「ここからはオレたちの仕事だ!」


 前に出る大人二人。その目の前で鈍色に青く光るHDC『次元繋ぎ』の本体が、ぬるりと壁から捻り出てきた。天井にも届く高さのそれは、ナマコのようなつるんとした胴体にミミズのような触手が十本以上も伸びており、一見するとクラゲにも見えなくはない。しかし、傘に当たる部分は縦に細長く、触手の生えた巨大なキノコにも見えなくはない。


「触手がこっちに来る、気をつけて!」


 叫ぶ声聞こえたのか二人は這い寄る触手を綺麗に躱し、鋭い一撃を入れては距離を取る。相手は足音を頼りに攻撃を仕掛けるが床も壁も柔らかい肉の壁でほとんど音がしない。


「本来『次元繋ぎ』はこんなぶよぶよした場所に住むクリーチャーじゃないんだよな。分が悪い」

「確かに。足音が聞こえないんじゃあターゲットも取れないから、明らかに不利じゃん」

「おかげでウチらが上手取れてるんやからええやん。このまま止めや!」


 弱点である胴体に狙いを定める。俺は決定力のある二人のために触手を何本か切って動きを止める。触手自体はすぐさま再生されるが、全体の半分が切り取られると再生に行動が割かれて回避行動などは後回しになるのだ。


「よし、六割切ったよ!」

「オッケー、離れろ、巡里氏!」

「せぇぇいやああぁぁぁぁーーーーーーー!!」


 動きを止めた「次元繋ぎ」を中心に二人が思いっきり振りかぶる。八雲ねーちゃんの掛け声を合図に、二人の武器がクロスする。


『びじゅるるるううぅぅぅぅーーーー!!』


 胴体と触手の間ほどにある弱点を正確に破壊し、「次元繋ぎ」は断末魔を上げながら地面に転がり落ちる。こうなればもう自力で触手を生やす力はなくなり、じきに干からびてしまうだろう。


「お、わった……?」

「『お疲れ様、みなさん! 無事に彼女から次元繋ぎが駆除されたのを確認しました!』」

「お、そりゃよかった。で、ウチらはどうやって帰るん?」


 ……そう言えば、ゲームでは一瞬で待合広場に戻るからな。


「『えーと…… また耳の方まで向かってもらえますか?』」


 ステラの声に一同がついた嬉しそうなため息に紛れ、何かが軋む音が響いた。

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