第21話 ミクロダイバー
数日後、ピア副艦長さんが医療スタッフ数名を連れてステラの部屋を訪れた。一人は金髪でもう一人がくすんだ緑色の髪をしている。恐らく異星人だろう。体の細さからは性別を読み取ることはできないが、服装や所作からして女性だと思われる。
「『姫様、折り入ってお願いがございます』」
スタッフの一人が恭しく頭を下げる。一応ARMを通して俺も聞いてはいるが、仕草が重すぎて会話に参加できる空気ではない。
「『何かあったのですか?』」
「『島より回収した患者の脳疾患、原因が分かりました』」
えっ、天間さんのことじゃないか?
聞き流すつもりだったが、あまりに気になる内容が飛び出したのでARMの集音感度を高くする。
「『分かったということは、あの方の治療法がわかったんですか?』」
「『はい。ただ、どうも病巣が情報的に封鎖されているようで……』」
「最初はただ、脳に中継点を作るために細胞を破壊し、再構築したと考えていたんです。けれど、どうやら存在空間そのものを拡張して、直接バックドアを作っていたみたいなんです。今はもうアクセスできなくしてありますが」
ヴン、と二人の間に画像ウインドウが展開される。視界共有で小さく映る画像には脳の細胞が赤黒く焼けた中に、つまようじの先っぽのサイズで幾何学模様の書かれたチップがねじ込まれている。これがバックドア、なんだろうか。ていうかバックドアってなに?
「またここにアクセスが帰ってこないとも限らない。今のうちにバックドアを破壊して、この領域を正常に戻せなければこれ以上回復は逆に彼らの助けになってしまう」
「『でも、医療行為は私の手に余る……』」
ふと目が合う。
そしてステラがニコッと笑う。
とてつもなく嫌な予感がしてきた。
◇
テストゲームスペースに、俺と八雲ねーちゃん、ジョーさん、そしてさっきステラと話していたエアル・ヴェノス出身の医療スタッフであるメスディーナさんが、それぞれARMからBATTLE-ARMを起動した状態でステラの指示を待っている。
部屋の中央には、機械に繋がった天間さんが寝かされていた。
「あのー、オレまだ仕事が残ってるんだけど」
「まあまあ。ステラがなんやウチらにしか出来ひんみたいなこと言ってましたし」
「『私も詳細は伺ってなくて…… 申し訳ありません』」
「あー、参加自体に異を唱えてるわけじゃないんですがね、別に俺よりランクが上のプレイヤーは他にも」
ジョーさんは大あくびをしながら抗議する。あれは相当寝てない顔だ。
「『すみません皆さん。今からスキャンデータを送ります』」
ポロン、と警告ウインドウが起動する。新マップ追加の案内だがどこか妙な表記だ。[はい]を選択するとジョーさんが唸りだした。
「あん? マップの追加なんか聞いてないぞ」
「『はい、私が作りました。今』」
「は!!?? ちょ、ちょっと待て! しかも警告ウインドウの文面的に正規のデータじゃないな!?」
インストール状況を示すバーがぐんぐんと伸びてあっという間にインストールが終わる。
「『先日取った天間さんの脳データを流用して、今回のフィールドを作成しました』」
「……まさか、こないだみたいな実在するフィールドにウチらを送る、ってことかいな?」
「『流石です。医療技術や手法は同行するスタッフメスディーナさんに直接聞いてくだされば』」
「『……なるほど。だから自分も参加なのですね』」
「ああもう! わかったよ!」
半ば強引に更新をさせたプレイヤーは、アップデートが終わると同時に手が止まった。何事かと思って俺もパーティ編成画面見てみるが、特に変なところはない。フィールドが「天間の脳内」であること以外は。
「……なんやこの、赤いスロットは」
「オレだけじゃないのか。じゃあバグとかじゃあなさそうだな」
「ステラ、もしかして俺のと同じ仕様にした?」
「『うん。スロット追加ができるのは島で私と会ったことある人だけだから』」
二人はひっきりなしにスロット画面を弄くる。しかし八雲ねーちゃんのニコニコ顔に比べてジョーさんは真っ青になりながら触っている。
「『それで、このPMをセットしてください』」
プレゼントボックスに着信が入る。開いてみると「特殊環境適応:ミクロ」のPMが入っていた。俺とメスディーナさん、八雲ねーちゃんは何かを察したがジョーさんだけ大声で反応する。
「おい、何だこの非公式PMは! 通常は1スロットしか許可範囲ないんだぞ! それが…… 4スロット使うだとぉ!? ありえねぇ!」
「ははあ、そういう事やな」
八雲ねーちゃんは黙って追加スロットまで伸びた非公式PMをセットする。俺もメスディーナさんもそれに倣ってセットすると、網膜モニタに新しいボタン「ミクロ化」が表示された。
「『患部までのナビは私がします。システムはBATTLE-ARMのものを流用するので、不自由は少ないと思いますけど、相手が相手なので突発的なアクシデントにはアドリブでお願いしますね』」
「おい! オレがまだセットできてないって! 待ってくれって!」
俺たちは迷いなくボタンを押す。直後、俺たちの身体は針の先よりも小さくなって天間さんの耳から内部へと侵入した。
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