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エンデヴァー・プロジェクト  作者: 国見 紀行
第四章 真空の大海原
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第18話 ガラスの檻

 俺も思わず手を振り返すも、彼女がいる空間を目の当たりにして一瞬顔が引きつった。


「安心して。あれはゼラレイド達から彼女を守るために必要な施設なの」


 ぐるりとガラス張りになった部屋の中の部屋、まるで動物園の動物になったかのような檻の中にステラはいた。


「『大丈夫。情報的にも遮断された場所だから、一番安全なんだって』」

「そ、そうか…… でも」

「『みそらの顔が見れてうれしい』」


 胸がぎゅっとなる。

 こちらに来てから着替えたのか、上着はクリーム色をした厚手の簡易軍服に下のふわっとした短めのスカートは、軽快な彼女の性格にもよく似合っていた。


「俺も嬉しい。無事が分かってホッとしてる」


 そもそも俺はただの一般人で、ステラは異星人お姫様。

 俺達が相手にしているのは、星と星の友好を断とうとしてるテロリスト集団だ。

 本来俺は弾かれこそすれ、こういう場にいること自体がおかしいのだ。

 だから俺はその疑問をストレートにぶつけた。


「あの、どうして俺がここに?」


 ピア副艦長さんはニヤリと笑う。これは作り笑いではない。


「もうしばらく待ちなさい」

「あ、はあ……」


 だが、扉の開く音でその空気を察した。その場にいた全員の靴が鳴り、明らかな敬礼をとる。俺も背筋を伸ばして入ってきた人物を凝視する。


「ああ、楽にしていいわ」


 濃緑の長い髪。端正な顔立ち。俺の目線にある巨大な二つの膨らみは歩くたびに存在感を見せつける。白いカッターシャツの裾から見える肌は真っ白で、白樺の小枝と見間違うほどだ。


「あなたが、深宙(ミソラ)ね? それとも、ッ『こっちで話したほうがいいかしら?』」

「!! 宇宙語!?」


 瞬時に翻訳したミストルの性能にも驚いたが、やはり地球人ではないらしい。


「……艦長」

「『わあワイフ!』」

「皆の前では副艦長と」

「『そういう硬いところもスキ! まあ、硬いのはこっちだけどね』」


 艦長さんは突然ピア副艦長さんに抱きつく。濃厚な密着を見せられてどうしていいか分からずにいると、艦長さんは俺に気付いたふりをして軽く会釈した。


「失礼。私はウェドラード・ノーラ。彼女の夫だ」


 そう言うとウェド艦長は軽く敬礼して再び妻の手を取る。


「艦長! プライベート情報の公開までしなくていいんです!」

「何を言うの! あなたのような美しい女性が他の男の目に晒されているだけで気が狂いそうになる!」

「え? え? あの…… 艦長さんは女性では?」


 俺の質問が気に障ったのか、艦長さんは重い笑顔を俺に向ける。


「……君は情報管理生体端末『STELLA(ステラ)』の事は知ってるかな?」

「ステラ? っと、確か宇宙人の皆さんの体の元っていうか」

「『そうそう。その三次元生体端末は、ある程度性別の操作も可能なわけ。でないと、情報登録(インストール)される人格と合わなくなるから』」


 ああ、ということは艦長さんは中身が男性ってことなのかな?


「だから、私は『両方』ついてるんだ」

「ははあ…… え??」

「ヴェド! 未成年に変な癖を植え付けるな!!」


 ピア副艦長さんの鉄拳が飛び出すも、すんでのところで宙を舞う。周りにいる他の人たちは笑いをこらえているあたり、いつものお約束のようだ。


「……ま! 君は姫に夢中のようだから大丈夫だとは思うけどね」

「夢中、って」

「君を呼んだ理由もそれだ」


 突然話題の真ん中が俺にすり替わって、背中から汗が吹き出しそうになる。


「ここは完全に周囲の情報から遮断された空間だ。舟継島にそんな場所を作ることもできなくて急きょこちらに来てもらったわけだが、姫の環境が突然コロコロ変わると色々困ることがあってね」

「困ること、ですか?」


 見る限りはステラに変わった様子はない。元気そうだしニコニコしてるし。


「君がここに来るまでは俯いたままほとんど動かなかったんだよ」

「え、そうなんですか」

「そもそも、生体端末に入ってすぐは五感の調整や感情の起伏に調整が必要だからいきなり姫のように活動することはかなり難しいんだ」

「あ、それは――」


 思い当たることがある。

 地下から助け出したときは言葉も舌ったらずだったし、動きもぎこちなくて走るなんて無理だった。

 けど、ここに来るまでの数日で流暢に喋ったり、歩いたり走ったり…… まあ、色々できることが増えてきたなとは思ってた。


「察しが良くて助かるよ」

「ちょ、俺何も言ってないですよ!?」

「顔に出てるよ。今の彼女には、君が必要なんだ。――私がピアを必要としているようにね」


 顔が熱くなる。俺が思ってるようなことじゃないかもしれないけど、それは俺にとってかなり恥ずかしい。

 ちらりと視線をステラに向ける。……かなり機嫌が悪そうな顔をしている。


「本土で活動してもらうのはテロリストたちの動向がある程度抑え込めるまで。ある程度落ち着いたら、またあちらに戻ってもらうから」


 そう言うとウェド艦長さんは、奥さんを連れて部屋を出ていった。

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