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女神

来た……


浦野(うらの)さんと池内(いけうち)くんはいつも一緒。

朝も帰りも一緒の二人。

いつか渡そうと思ってる手紙は何度書き直しただろうか。

リュックにずっと入れているから封筒がヨレヨレになってきちゃうし、中身も想いが募るたびに更新したい。

手紙は書いてある、でも本当は自分で伝えたい。勇気ないけど。

だってさすがに恋人と一緒にいるのに割って入るようなことはできない。

そもそも相手にもされないと思う。


それでも好き。

この想いはどうしたらいいのだろうか。


毎日のように門のところできっかけを待ち続けているけど、二人がいつも一緒なのはずっと変わらない。


これは諦めた方がいいのかもしれない。

今日もため息をついて駅に向かう。




「ねえ、立玖(りく)、気づいてる?」

「なにが?」

「毎日、朝と帰りに門のところにいる人のこと」

「ああ、鹿島(かしま)くん?」

「そうそう」

「なんか言われたのか?」

「え?」

「あいつ、ずっとお前のこと見てるよな。不快なら俺が言おうか?」

「……ううん、なにもないよ」

「それならいいけど」





そう、由真(ゆま)の言うとおり。

あいつ、ずっと見てるんだよな、由真のこと。

時々目が合うとすぐ目を逸らすけど、明らかに照れてるのが分かりやすすぎる。

でも諦めろ、由真はダメだ。

お前にはやらないよ。





手紙を書き直した。

決意も新たにした。

もう砕けよう。

この想いは潔く砕けさせた方がいい。

思い出せないくらい粉々にしてしまった方がいい。

そう思って放課後、門に立つ。

しばらくすると、浦野さんが俺の前に現れた。一人だ。

え? なんで?

頭がパニクってどうしたらいいのかわからない。


「C組の鹿島くんだよね?」

「……はい、そうです」

「私、E組の浦野由真と言います。

少し話いいかな?」

「……はい」

ここでは目立ちすぎるからと少し先にあるファミレスの駐車場に移動する。


「中入る?」

「あ、いや、ここでいいです…」

「そうだね、中入っちゃうとわからないしね」

「え?」

「ううん、なんでもない。

早速なんだけど私の勘違いだったらごめんね、もしかして鹿島くんって……」


「由真っ!」

学校方向から大きな声が聞こえる。

え? 池内くん?

「うわ、来ちゃったよ……」

「由真っ!」

池内くんが浦野さんの腕を掴む。


「痛いよ、立玖!」

「うるせえ!」

「大きな声出さないで」

「お前、なにしてんだよ! 沢井(さわい)たちが『由真と鹿島が二人でどこか行ったけどいいの?』って言いに来てくれた」

「もう、余計なことを……」

「余計なこと? 余計なことじゃねえだろっ!」

「だからうるさいって。少し静かにしてよ」


池内くんは浦野さんを背中に隠すと、俺の前にずいっと出た。


怒られる……

身構える。


「こいつになに言われた?

なにかされたか? 大丈夫か?」


え?


「なにもされてない? 大丈夫?」


え? え?


「……大丈夫です」

「良かった……」


心底ホッとした顔を見せる池内くん。



「なにかされたか?ってなによ、失礼ね。

話いいかなって言っただけよね? 鹿島くん」

「はい、そうです」

「由真が鹿島くんになんの話があるんだよ」

「立玖には関係ないでしょ?」


池内くんの顔つきが変わる。

怖い。



「関係ないわけないだろっ!

俺の鹿島くんに手を出すな!」 



え……

なに? どういうこと?


言ってしまってから、その言葉の意味に気づき、しどろもどろになる池内くん。


「いや、あの、深い意味はなくて……

違う、深い意味はあって……違う……

ああっ!」


浦野さんが俺の肩をポンと叩く。


「そういうことなんだって」

「え?」

「多分誤解してると思うから説明すると、立玖と私は幼馴染で同じマンションに住んでるの。

あ、もちろん部屋は違うからね。

で、幼馴染はもう一人いて、青木隼斗(あおきはやと)っていうんだけど他校に通ってんのね、頭良くてさ。その隼斗は私の彼氏」

「ええ!?」

「よく誤解されるんだよね、立玖と私が付き合ってると思われてんの。

全然違うから! 私、彼氏いるから」

「いつも一緒にいるし……」

「だって同じマンションだし、小さい時からずっと一緒だからそれが当たり前になってるし、家族みたいなもんなんだよね。

住んでる所が同じだから朝と帰りが一緒なだけだよ」

戸惑う俺に浦野さんは、ふふっと微笑み、

「強いて言えば、隼斗が心配性で立玖に私のボディガードしてくれって頼んだからこうなってるのはあるかな。変な虫を由真に近づけないでくれって。これ惚気? えへへw」

「じゃあ、池内くんと浦野さんは本当にただの幼馴染?」

「そうです」


ポンポンと俺の肩を叩く。

「ということで、私の話はこれで終わりなんだけど、どうする? 二人で話する? 私は帰るけど」


浦野さんはそう言うと、徐に池内くんの背中を押す。


「鹿島くんに言いたいことあるんでしょ?」

と言いながら俺の前に押し出す。


「あ、いや、でも……」

そして池内くんの背中をパチーンと叩く。

「痛えなっ!」

「図体デカいくせに気がちっちゃいんだよねえ、立玖は。鹿島くんに言いたいことあるなら言いなよ」

「簡単に言うなよ……」


由真が立玖に耳打ちする。


「鹿島くんも同じだよ」

「え?」

由真がニヤッと笑う。

「ほら、決めてこいっ! 私は帰る」

「由真!?」

「今日ね、隼斗が早く帰れるんだって。

だから久しぶりにデートするの、邪魔すんな、じゃあね!」


そう言って浦野さんは帰っていった。


置いて行かれた俺と池内くん。



「あの……由真が訳のわかんないこと言ってたけど気にしないで」

「はい……」

「由真のこと好きだったんだろ?

こんなことになって悪かった」

「池内くんが謝ることじゃないよ」

「でも……」

「それに池内くんはもう一つ誤解してるみたいだから」

「え?」

「聞いてもいいですか? さっき言ってた、『俺の鹿島くんに手を出すな!』ってどういう意味?」

「あ……」


池内くんは、うーとかあーとか散々悶えながら、

「そういうことです……」

と消え入りそうな声で答える。

「どういうこと?」

「……鹿島くんは由真のことが好きなのに、由真には彼氏がいて、彼氏がいる由真のことを好きな鹿島くんを俺が好きで………

「なんかややこしい」

「だからっ! 要するに俺が鹿島くんのことを好きってことです……」


「ごめん、気持ち悪いよな……忘れて」

そう言って帰ろうとする池内くんを引き止める。


「池内くん、これ受け取ってもらえる?」


書き直したけど結局ヨレヨレになってしまった封筒を差し出す。

「え?」

「ずっと渡したくて何度も何度も書き直したんだ。今なら渡せると思うから」

「え……」

「今読んでくれないかな」


戸惑いながら池内くんが封筒を開ける。

たった一枚の便箋を読む。


何度も書き直したんだ、たくさんの言葉を綴ったけど、やっぱり伝えたいことはこれだけだ。


『池内くんが好きです、付き合ってください』


「嘘……」

池内くんのデカい図体がうずくまって小さくなってる。


隣に座る。


「返事聞かせてもらえると嬉しい」

そう言うと池内くんは、

「俺の方が鹿島くんのこと好きだから……」

と照れて顔を隠す。

「……両想いってことでいいのか?」

と聞く池内くんに俺は、

「うん、そうみたい」

と答える。

胸がいっぱいになる。



「連絡先交換してくれる?」

俺が提案すると、池内くんは照れながら、

「いいの?」

とスマホを取り出す。


ピコン!

池内くんのスマホが鳴る。

LINEだ。

浦野さんかららしい。


池内くんはその画面を見て、ふっと笑う。

そしてそれを俺にも見せてくれる。



『私を女神と呼べ! 奢れよ』



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