第8話
―中川家 室内―
親睦会が始まってしばらく経った頃、楓が不満を漏らし始めた。
「やっぱ王様ゲームやりましょうよ〜」
机に突っ伏したまま暇そうにしている楓を横目にババ抜きをする。
「なんで?」
「刺激が足りないっていうか……正直に言ってつまらないんすよ」
「まぁ、言いたいことはわからんでもないが…」
しかし、王様ゲームは一歩間違えればいじめにもなりかねない。
だから茜のためにも避けたいのだが…。
「トラブルになっても困るしなぁ…」
「流石に限度は弁えるから大丈夫っす!
ね!茜ちゃん!」
楓が茜に迫っていく。
「あ…えっと…あぅ…」
緊張からかだいぶ混乱している様子だ。
「困ってるだろ。その辺にしておけ」
それを聞くと、楓はこちらに振り向き、今度は俺に迫ってきた。
「いいじゃないっすか先輩、やりましょうよ〜」
ニヤニヤとした顔でこちらにジリジリと迫ってくる。
というか、距離感が近すぎる。
相手の体温が伝わってくるほどの距離だ。
あと、体の一部が押し付けられている。
柔らかい。
「わかった、やる!やるから!だから離れろ!」
「よし!ありがとうございます、先輩!」
してやったりという顔で満足そうにしている。
嵌められた……!
「それじゃ、用意するので桜庭先輩、手伝ってください」
「わかりました。何をすれば?」
「まず割り箸を用意して…」
―――――――
準備が終わり、全員が順番にくじを引いていく。
「お、あたしだ」
全員引き終わった後、楓が呟いた。
手に持ったくじを見てみると、王様を示す赤い印がついている。
「じゃあ……」
楓でとてもニヤついている。
嫌な予感しかしない。
「1番が3番にキスで」
「「?!」」
やりやがったなコイツ……。
1番が俺で、3番は……。
めっちゃ顔赤いし多分桜庭先輩だろう。
「桜庭先輩、番号は?」
「さ、3番です」
「…よし、覚悟してくださいね」
「あっ、ちょっ…!」
桜庭先輩に近づいていく。
先輩の顔がどんどん赤くなっていく。
「待ってください、まだ心の準備が……」
消え入る様な声で言ってくる。
見てわかるほど息が荒い。
考えないしないようにしていたが、これだけ緊張されるとこっちも緊張してくるな。
「…いきますよ」
「っ…」
桜庭先輩が目をギュッと閉じる。
……俺も覚悟を決めるしかない。
「…」
頬に唇を近づける。
そのまま頬に触れる。
「〜〜〜っ///!!!」
瞬間、桜庭先輩が絶叫にも似た甲高い声を上げる。
顔がどんどん赤く染まっていき、オーバーヒートしたのかそのまま倒れ込んでしまった。
チラリと楓を見てみると、ものすごくニヤニヤとしているのが見えた。
「…これで満足か?」
「はい!」
満面の笑みだ。
相変わらず性格の悪い奴だ。
「じゃあ次やりましょ!次!」
「いや、流石に駄目だろ…」
しかし、もう碌な娯楽がないのは事実だ。
どうしたものかと手をこまねいていると、少し落ち着いた様子の桜庭先輩が提案してきた。
「丁度いい時間ですし、ご飯にいきません?」
「それいいっすね!どこ行きます?」
「しゃぶしゃぶってのはどうだ?」
「いいっすね!」
そんなこんなで、4人で食事に行くことになった。
―――――――
―世田谷区 桜上水―
適当な店に入り、食べながら雑談することとなった。
「……こ、浩一君の出身って、どこ…なんですか?」
「東京都の相模原市ですね。
茜さんは京都でしたっけ?」
「は、はい。左京区…です」
「確か桜庭先輩も京都でしたよね?」
それを聞いて、桜庭先輩は少し複雑そうな顔で答えた。
「えぇ。上京区です」
「上京区というと旧家や公家が多い印象ですが……まさか?」
恐る恐る聞いてみると、桜庭先輩は平然とした顔で答えた。
「まぁ…昔は公家だったらしいです」
「へぇー…。
というか、そういうの聞いても大丈夫なんですね」
てっきり何かしらの地雷を踏むと思っていたが……。
「まぁ、公家の末裔と言っても現在はほとんどの家が力を失って没落していますしね。
今では普通の一般家庭と大差ありません」
「そんなもんですか…」
「一色さんはどんなご家庭にお生まれに?」
「東都電鉄グループの会長っすね」
東都電鉄。
東京の南西部から神奈川県全域の鉄道路線を一手に握る、日本最大の民営の鉄道会社である。
鉄道事業以外にも様々な事業を展開しており、不動産やホテル、デパートなんかも多数経営しているはずだ。
そこの会長の令嬢ということは、結構なお嬢様なわけで…。
「意外、です…」
茜が驚いている。
まあ、普段の行動に全然お嬢様はないし、そりゃそうだ。
「なんだか肩身が狭いですね…」
桜庭先輩がそう漏らす。
「それを言うなら俺の方ですって…」
「ふふっ。それもそうでしたね」
桜庭先輩の口元が少し緩む。
そんな感じで、時間は過ぎていった。




