第26話 救われたネヴァル
カルゼンに教えられた道は、本当に近道だった。
「……ここ、つながってたのか」
レイグは崩れかけた石段を上がりながら、何度目か分からない驚きを口にした。
地下水路から外れた細い通路は途中で二度大きく曲がり、最後には王城地下に近い場所へ出た。壁の一部は崩れ、足元にも石片が散っているものの、少なくとも今は魔物に塞がれていない。
少し前までグールに包囲されていたことを考えれば、拍子抜けするほど静かな道だった。
「教えられなきゃ分からねえな、これ」
ダルクが大盾を背負い直した。
盾には、カルゼンたちと包囲を抜けた戦いでついた新しい傷が増えている。フィエラの矢も減り、レイグ自身にも、排水口から敵の背後へ回り、退路を確かめ続けた疲れが残っていた。朝と同じ余力が残っているわけではない。
「ほんとに使える道を教えるなんて、カルゼンも律儀だね」
フィエラが前方を警戒しながら言った。
「次に会ったら敵だって言ってたけど」
「貸し借りなしっつったんだから、これで終わりだろ」
ダルクは腰のウォーハンマーに触れた。
「だったら遠慮なく使う。教えてもらった道を使わずに遠回りする方が馬鹿だ」
「そういうところだけ迷わないよね」
「こういうところは迷う必要ねえんだよ」
レイグは二人の会話を聞きながら先へ進んだ。
身体は軽くない。腕にも脚にもさっきの戦闘の疲れが残り、握っているスチールロングソードも朝より重く感じる。
それでも、いつもよりずっと早くここまで来ており、王城の地下へ続く区域はもう近い。
「これなら……」
思わず声が漏れた。
ダルクがすぐ反応する。
「何だ」
「今日なら、前より余裕を残して礼拝堂まで行けるかもしれない」
ダルクの眉が寄った。
「近道だからって、疲れまで消えたわけじゃねえぞ」
「疲れは残ってる。二人より前には出ない」
「その返事、何回聞いても信用できねえんだよな」
「じゃあ何て言えばいいんだ」
「先に走らないって言え」
「走らない」
「今、歩く速度上がってるけど?」
フィエラに指摘され、レイグは自分がいつの間にか二人より半歩ほど前へ出ていることに気づいた。
「……少しだけだろ」
「ほらね」
「うるさいな」
仕方なく歩調を落とすと、フィエラが小さく笑った。
三人はそのまま通路を進んだ。
やがて崩れた天井から灰色の光が差し込む場所へ出る。空は朝から変わらず曇っていたが、雨の気配はない。
レイグは奥へ続く道を見た。
この先を抜ければ、王城地下へ大きく近づける。
王城地下の古い礼拝堂には、一度入った記憶がある。同じ朝が繰り返されていると知るより、ずっと前から覚えていた場所だ。その最深部には、何のために作られたのか分からない祭壇が残っている。
前に見た時は、ただ古びた石に意味の分からない紋様が刻まれているだけで、何もなかった。
それでも今は、調べられる場所を一つずつ調べたかった。
卓に金を置いた時、母は目を丸くし、ネリナは繕った靴を見下ろした。けれど次の朝、二人はその金を知らなかった。
今ほしいのは、一日きりの報酬ではない。
あの祭壇に、朝の先へ続く道があるのか。それを確かめたかった。
死ぬ直前と今朝に現れた、白い翼の者の正体も分からないままだ。
どこかで一つでもつながれば――。
「待って」
フィエラの声で、レイグは足を止めた。
フィエラは右手の指を二本立てて会話を止め、顔を右の壁へ向けていた。弓を取るより先に、石を伝ってくる音の間隔を拾っている。
「聞こえる」
ダルクが背中の大盾を外し、左腕へ通す。
レイグもスチールロングソードの柄を握った。
耳を澄ますと、遠くで金属同士が激しくぶつかる音がした。少し間を置いてもう一度響き、今度は人の怒鳴り声まで混じる。
「向こう」
フィエラが示したのは右手の分岐だった。
王城地下へ続く道とは反対方向だ。
三人は通路の角まで近づき、身を隠しながら先を覗いた。
レイグの目が細くなる。
「……ネヴァル」
そこにいた。
最初の一日には、瓦礫の下に左脚を挟まれていた男。
今は両脚で立っている。
だが、安全とは程遠かった。
ネヴァルの仲間たちが奥へ退こうとしている。そのうち一人は肩を押さえ、別の男に身体を支えられていた。
最後尾にネヴァルがいる。
剣を両手で握り、迫る二体のスケルトン兵を必死に押し返していた。一体は剣持ち。もう一体は槍を構えている。
「先に行け!」
ネヴァルが叫んだ。
「こいつら抜けたら追いつく」
「無理だ! お前も来い!」
「怪我人抱えて全員ここで止まる方が無理だろ」
強がってはいるが、最後の声は少し裏返った。
スケルトン兵の剣が振り下ろされるたび、ネヴァルの足は少しずつ後ろへ下がっている。呼吸は荒く、握った剣先も揺れていた。
死ぬ覚悟などできていない。
怖いのだ。
それでも仲間より先には逃げなかった。
槍持ちが間合いを詰める。
ネヴァルが剣で穂先を弾いたが、その直後に剣持ちの斬撃を左肩へ受けた。
「ぐっ」
「ネヴァル」
先へ逃げていた仲間が戻ろうとする。
「来るな!」
ネヴァルが怒鳴った。
さらに暗い通路の奥で、青白い光が二つ揺れた。
まだ来る。
「まずいね」
フィエラが低く言った。
レイグは答えなかった。
左を見る。
王城地下へ続く道は開いている。
ここまで来るのに、いつもよりずっと短い時間で済んだ。
カルゼンたちを助けたことで知った道だ。このまま進めば、今までより余力を残したまま礼拝堂まで行けるかもしれない。
ネヴァルを助ければ時間を失うだけではない。矢も減り、魔力も使う。誰かが傷つけば薬まで必要になる。
王家の求める遺物へ近づけるかもしれない、今日初めて手に入れた好機だった。
「どうする」
ダルクが聞いた。
答えを押しつける声ではなかった。
レイグはネヴァルを見る。
左肩から血を流しながら、それでも仲間の前へ立っている。
最初の一日。
自分も似たことをした。
ネヴァルをダルクたちに押しつけ、一人で残った。
あの時、自分は正しいと思っていた。
今でも、他に方法があったとは思えない。
それでも、置いていかれる側がどんな顔をするのかは、その後で知った。
「……助けたい」
レイグは言った。
ダルクがすぐこちらを見る。
「今度は勝手に走るなよ」
「ああ」
フィエラはすでに矢筒へ手を伸ばしていた。
「私は行く。まだ間に合う」
ダルクが舌打ちする。
「二対一じゃねえか」
「嫌ならここで待つ?」
「一人で待てるか」
大盾を身体の前へ出した。
「行くなら三人だ!」
レイグはスチールロングソードを抜く。
「行くぞ!」
三人が角から飛び出した。
「ネヴァル! 伏せろ!」
レイグの声に、ネヴァルが驚いて振り向く。
「お前――」
フィエラの矢が、その顔の横を抜けた。
槍持ちのスケルトンの肩へ突き刺さり、突き出そうとしていた穂先が大きく外れる。
「何で助けに来た」
「俺も前に似たようなこと言われた」
「何の話だよ」
「あとでいい」
ダルクがネヴァルの前へ滑り込み、大盾で剣持ちの斬撃を受けた。
激しい金属音が通路へ響く。
「下がれ!」
「でも――」
「助けに来た奴の邪魔すんな」
「言い方」
フィエラが叫びながら次の矢をつがえる。
レイグは槍持ちへ向かった。
外れた穂先がすぐに戻ってくる。
バックラーを斜めに差し出すと、槍が金属板の縁を擦った。止めるのではなく外へ流し、そのまま懐へ踏み込む。
スチールロングソードを下から斜めに振った。
刃が肋骨を砕き、スケルトンの身体が大きく傾く。
それでも止まらず、槍の柄を横薙ぎに振ってきた。
「レイグ」
ダルクの大盾が横から割り込む。
木の柄が金属板へ叩きつけられた。
「一体に時間かけんな」
「首を落とせばいいんだろ」
レイグは露出した首へ剣を叩き込んだ。
骨が割れ、頭蓋が石床を転がる。
「後ろ!」
今度はネヴァルの声だった。
レイグが振り返る。
ダルクと押し合っていた剣持ちが、大盾の横から無理やり刃を差し込もうとしている。
ネヴァルが先に動いた。
「おらっ」
剣を横へ振り抜き、スケルトンの腕の骨を断つ。
「やるじゃねえか」
「俺だって戦える」
「なら最初から死ぬみてえな顔すんな」
「誰がしてた」
「してたよ」
フィエラが即座に言った。
「顔真っ青」
「今言うな」
言い返したネヴァルの顎が上がり、青ざめていた頬にも血の色が少し戻る。
その隙にレイグが首を斬り落とした。
だが息をつく暇はなかった。
「来る!」
フィエラの声。
さっき暗がりに見えた二体が近づいてくる。どちらも剣と小盾を持ち、狭い通路を塞ぐように横へ並ぼうとしていた。このまま形を作らせれば、怪我人を連れた一行は通れない。
「全部倒しに行くな。道一本でいい!」
レイグが叫ぶと、ダルクは正面ではなく壁際へ寄った。
「だったら、こっちを空ける!」
一体目の小盾へ大盾の角をぶつけ、壁との間へ押し込む。盾同士が噛み合い、白骨は剣を振れるが、横へは動けなくなった。
「フィエラ、今は撃つな。レイグ、脚だ!」
役割を決めたのはダルクだった。
レイグは低く入り、剣の切っ先で膝裏を払う。骨が砕けて身体が沈んだ瞬間、ダルクは大盾を引き、射線から頭だけを外した。
待っていたフィエラの矢が肩口へ刺さり、小盾を持つ腕をさらに下げる。
「もう一本」
倒れた敵が剣を振り回すため、ダルクは大盾で床へ押さえつけた。フィエラは位置を変えず、次の矢を目のくぼみへ通す。
青白い火が消え、壁際に人一人が通れる幅が開いた。
残った一体はネヴァルへ剣を向けた。
ネヴァルは、開いた道を仲間へ示してから構え直した。だが傷ついた左肩が痛むのか、剣先が下がった。
「くそ……」
スケルトンが踏み込む。
レイグはネヴァルへ駆け寄る代わりに、通路の中央で足を止めた。走ったまま撃てば、すぐ後ろを抜けようとしている仲間たちまで巻き込む。
疲労のせいで炎が形を取るまでが遅い。敵の胸だけを狙える大きさへ押さえ込み、意識を絞る。
「ファイアボール」
火球が飛び、スケルトンの胸元へぶつかった。
炎と熱風が弾ける。
鎧を焼き切るほどではないが、白骨の身体が大きくよろめいた。
「ネヴァル」
「右腕なら振れる」
ネヴァルが踏み込んだ。
傷ついた左肩を庇い、右腕と身体の重みで剣を振り下ろす。一撃、さらに二撃目を頭蓋へ叩き込む。
亀裂が走った。
三撃目で白骨が石床へ崩れた。
「……はっ、はっ……」
ネヴァルは剣を下ろした。
膝が震えている。
奥の暗がりで、また青白い光が動いた。
一つではない。
「まだいる!」
フィエラが弓を向ける。
「もういい」
レイグはネヴァルの腕を掴んだ。
「道は開いた! 退くぞ!」
「でも――」
「全部倒す必要はない」
ダルクも大盾を敵へ向けたまま後退する。
「怪我人連れて離れるぞ! フィエラ、追ってきた奴だけ止めろ!」
「了解」
フィエラは後ろ向きに下がりながら弓を構えた。
通路を一つ曲がる直前、追手の先頭へ矢を放つ。膝を砕かれたスケルトンが狭い通路へ倒れ、後続の足を一時的に塞いだ。
三人はその隙にネヴァルを仲間のところまで連れていく。さらに角を一つ曲がる頃には、倒れた一体を乗り越えようと骨同士がぶつかる音も遠ざかっていた。
それでもダルクはすぐには盾を下ろさなかった。
「待て」
全員を止めた。フィエラは弓を構えたまま通ってきた道を見つめ、レイグも呼吸を整えながら耳を澄ます。
骨の擦れる音が近づいてこないことを確かめ、ようやくダルクが大盾を下げた。
「……ここなら少し見られる」
敵が来ないことを確かめてから、ネヴァルの傷を調べた。
*
左肩の傷は深かったが、骨や関節までは届いていない。
レイグが水で傷口の汚れを流すと、ネヴァルが顔を歪めて身体を引いた。
「痛っ……」
「動くな」
ダルクが言う。
「動いてねえよ」
「肩が逃げてる」
「痛いんだから仕方ないだろ」
「じゃあ黙って痛がれ」
「無茶言うな」
フィエラが包帯を広げながら笑った。
「それだけ怒鳴れるなら、さっきよりは元気そうだね」
「どこがだよ」
文句を言う声にも、戦っていた時ほどの切迫感はない。
血を洗い、布を当てて圧迫する。
出血が落ち着いてから包帯を巻き、残っていたヒールポーションも治療に使った。
もちろん傷が消えるわけではなく、血が止まりやすくなり、身体を動かした時の痛みが少し和らぐ程度だ。
「これで走るのはやめた方がいい」
レイグが言った。
「走らない。今は立つだけでも肩に響く」
ネヴァルの仲間が傷のない側へ回り、肩を貸した。
「戻ろう。今日はもう十分だ」
「……ああ」
ネヴァルは素直に頷いた。
「今日はもう十分だ」という仲間の声に、初めて会った日のネヴァルの言葉が重なった。
死んだら何も持って帰れないと、あの日、ネヴァルは話していた。
今も同じで、自分の命などどうでもいいと思っている男ではない。
それでもネヴァルは、青ざめたまま仲間の前に残った。礼を言う今でさえ、自分の傷より先に仲間の顔を見ている。
「ありがとう」
ネヴァルが言った。
「本当に死ぬかと思った」
レイグの耳に、最初の一日に瓦礫の下で聞いた「死にたくない」という声が蘇った。今のネヴァルは両脚で立ち、自分の口で礼を言っている。
「……そうだよな」
「何だ?」
「いや。何でもない」
ネヴァルは怪訝そうにしたが、それ以上は聞かず、仲間とともに歩き出した。
レイグは、その背中が通路の向こうへ消えるまで見送った。
「薬も減ったな」
横からダルクの声がした。
レイグが振り向くと、ダルクは盾についた新しい傷を指で確かめていた。
「フィエラの矢も減った。俺の盾もこれだし、お前も魔法使った」
「……悪い」
「助けたことじゃねえよ」
ダルクが顔を上げる。
「次に同じことがあっても、勝手に走るなって話だ」
「今回は走ってないだろ」
「走る顔してた」
「どんな顔だよ」
「私には分かるよ」
フィエラが残った矢を一本ずつ確かめながら言った。
「レイグ、迷ったあと急に足へ力入るから」
「そんなところ見てるのか」
「見てるよ。長い付き合いだし」
矢じりの根元に傷が入った矢を一本抜き、荷袋へ移す。
「助けたのは三人で決めた。そこは後悔してない。でも今日はもう、さっきまでみたいな余裕はないからね」
「ああ」
レイグは頷いた。
「無茶はしない」
ダルクは盾の新しい傷を指で叩いた。
「なら、これを忘れんな」
「……分かったよ」
フィエラが小さく笑った。
「元気だね、二人とも」
「誰のせいだ」
いつもの調子で怒鳴ったダルクだったが、すぐに真顔に戻った。
「で、どうする」
レイグは王城地下へ続く方角を見た。
時間は失った。
物資も減った。
身体にも、さっきまでなかった疲労が加わっている。
それでもカルゼンが教えてくれた道のおかげで、完全に機会を失ったわけではない。
「礼拝堂まで行きたい」
今度は二人の顔を見て言った。
「ただし、危ないと思ったら戻る」
ダルクが少しだけ眉を上げた。
「今度はちゃんと聞いたな」
「うるさい」
フィエラも少し考えてから頷く。
「私も行ける。矢は減ったけど、まだ戦える」
「じゃあ行こう」
三人は再び王城地下へ向かった。
*
地下へ深く入るほど、周囲の音が遠ざかっていった。
崩れた通路を抜け、古い石段を降りる。
外から差し込んでいた灰色の光は次第に弱まり、石壁には湿気が染みついていた。時折どこかで水滴が落ち、その音だけが長い廊下に反響していく。
「こっちだ」
分岐でレイグが先を示した。
「知ってるの?」
フィエラが聞く。
「ああ。ここからは前にも来た」
「便利だな、記憶」
ダルクが言う。
「今日の敵まで覚えてるとか言い出すなよ」
「言わない」
「成長した」
「お前に言われると腹立つな」
レイグは通路の先へ目を向けた。
以前来た時と同じ石壁。
同じ階段。
だが、その時に誰とすれ違ったか、どこに魔物がいたかまで今日も同じだとは思わない。
フィエラに周囲を確認してもらいながら進むと、やがて半分崩れた大きな扉が現れた。
その向こうに古い礼拝堂がある。
長椅子の多くは朽ち、床には砕けた石と木片が散っていた。壁に彫られた人の像も顔や腕を失い、誰を表していたのか分からない。
三人は周囲を警戒しながら、覚えのある場所の奥へ進んだ。
以前来た時も、何か重要な場所なのではないかと思ったが、いくら調べても持ち帰れる物は見つからなかった。
礼拝堂の最深部には、数段高くなった場所に古びた石の祭壇がある。
「これ?」
フィエラが聞いた。
「ああ」
ダルクが周囲を見る。
「王家が探してるような遺物が置いてある場所には見えねえな」
「前も何もなかった」
レイグは祭壇へ近づいた。
石の表面には複雑な紋様が刻まれている。いくつもの円と細い線が重なり合い、ところどころで途切れながら祭壇全体へ広がっていた。
意味は分からないが、これも以前に見たものなので、最初はもう一度確認するだけのつもりだった。
レイグの足が止まる。
「……待て」
「何?」
フィエラが振り向いた。
レイグは答えず、祭壇へもう一歩近づく。
古びた石に刻まれた溝の一部を、細い銀色の光がゆっくりとなぞっていた。
ほんのわずかな光だった。
上から差し込む弱い明かりを反射しているだけにも見える。
だが違う。
石の表面が光っているのではない。
刻まれた紋様そのものに、淡い銀色が宿っている。
「……何だ、これ」
ダルクも近づいた。
「光ってる?」
フィエラが祭壇を覗き込む。
レイグは目を離せなかった。
ここには前にも来ている。
祭壇も見た。
この紋様も調べた。
その時には、何もなかった。
少なくとも、こんな銀色の光はなかった。
「レイグ?」
フィエラが呼ぶ。
レイグは銀色の線を見つめたまま、ゆっくり息を吸った。
「……前に来た時は、こんなのなかった」




