92・4匹の子犬と辺境伯親子
先日、辺境伯様に呼ばれて、契約した。
「君の手芸の技術を、辺境伯領の発展に使っても構わないだろうか」
「もちろんです。私自身、辺境伯領の皆様には大変お世話になっておりますから」
「このまま永住してもらっても構わないから」
「ありがとうございます」
お辞儀してから辺境伯様を見たら、なんだか微妙な顔していたわね。なんか変なこと言ったかしら。
今私達は応接室で、辺境伯様、ご子息のエヴラール様、ルカス、デレク、テオ、私と契約について話し合っているところ。
とりあえず、洗濯室で始めたパッチワークの特許を、辺境伯領の担当者さんが手続きしてくれるとのこと。私の名義でね。
あと、ゆくゆくは城下町に私の店をつくる方向で、動いてくれるんだって!
神、神がここに!
「エミ、何してる」
「とりあえず拝んでおく」
柏手打って両手を合わせていたら、デレクにつっこまれた。
「まあ、店のことは魔王の問題が解決してからになると思うが」
「そうですね。仕方ないです」
最近魔物の数が増えてきたとの報告も聞いている。まずは安全が第一だもの。早く解決するといいわね。
「それと、テオ」
「はい」
私の隣で緊張を隠せないテオが、背筋を伸ばす。
「こちらで店を用意する。もちろんエミールの店とは別にだ」
「ええっ、ありがとうございます!」
「できれば魔道具の店にしてほしい」
「おお、神がここにいる!」
私と同じ考えね。二人で柏手打って、両手を合わせた。
「二人とも、やめてあげて」
ルカスのツッコミに前を見たら、辺境伯様が微妙な顔で我々を見ていた。すんません、つい。
「本当にお前らは、価値を理解していない」
辺境伯様のご子息のエヴラール様が、頬杖をついた状態で溜息をついた。なんか目がやさぐれてない?
「エミールの手芸は、ここの冬仕事になる。新しい技術だ。発展することは間違いないだろう」
「ありがとうございます!」
うれしくてつい、大きな声で応えてしまった。
「あと、テオのマジックバッグだが」
「はい」
辺境伯様の歯切れが悪いわね。どうかしたのかしら。
「はあ。あれは、発売禁止だから」
「ええっ!」
「なぜですか?」
辺境伯様とエヴラール様が、ルカスをジト目で見ている。ルカスが片手を上げて、ふうと息を吐いた。
「我々も昨日叔父上に言われて気が付いたんだけどさ、テオのマジックバッグが優秀すぎるんだよ」
「まあ、天才だから?」
「こいつ、わかってねえわ」
辺境伯親子とデレクが、うんうん頷いている。私もわからない。
「あのな、マジックバッグは元々あるが、テオのマジックバッグのような、身に付けることが出来るくらい小さいものは聞いたことがない。そりゃ、冒険者や運送の仕事をしているものからしたら、喉から手が飛び出るほど欲しいシロモノだ。だが、そのくらい小さいと言うことは、暗殺に使えるだろ?」
「あっ!」
「そうか、そういうこと……」
そうだわ。実用性ばかり考えて、安全性なんて考慮していなかった。
「そこまで考えてなかった……」
「こっちは見てすぐに怖くなったわ。それなのに、全く呑気すぎて」
「「すんません」」
苦笑いしながらテオと謝った。
「メインデルト、デレク。お前らもだ」
「「申し訳ありません」」
二人も頭を下げる。
「冒険者の頃から普通に使っていたから、意識していなかったわよね」
「そうなんだよな」
「お前ら、やっとテオ様の天才ぶりに気がついたか」
はっはっはと、胸を張ってテオが笑った。私達は苦笑いするしかない。
「お前らの冒険者グループ名はなんだったっけ」
「『4匹の子犬』です……」
代表してルカスが答える。
「命名した奴は、すごいな」
「こいつらのこと、よくわかってる」
辺境伯様とエヴラール様のツッコミに、我々ちっとも反論出来ない。
ああ、そう言えば大事なことを言い忘れていたわ。
「そうだ、この際なんで、言い忘れていたことがありまして」
そう言いながら、私は自分のピアスに手を当てて中身を出した。
「なんだこれは」
「綺麗だな」
「花か?」
用意したのは、最近作った手芸品。
「これ、前世でもよく作っていたの。パッチワークの材料でも作れることを思い出してね。なかなかイケてるわよね」
それは、つまみ細工といわれるもの。
伝統工芸品ってやつね。作るものにもよるけど、だいたい約3センチ四方の布を三角に折りたたんで、台紙に円状に糊付けしていく感じね。花を作るの。
「髪飾りとか、ご婦人のドレスに飾るのもいいわよね……ん?」
見上げると全員が俯いている。代表してルカスが尋ねてきた。
「これ、もう洗濯室で作っているのか?」
「まだよ。あ、でも、フランソワ様にはあげたけど。早速身につけるわって喜んでくれてて……」
「「「はあ〜っ」」」
あれ、何かやらかした?
「エヴラール、急いで特許の追加だ」
「はい、父上」




