91・辺境伯の苦悩
(辺境伯視点)
「という訳でして」
甥のメインデルト第四王子が状況を説明してくれた。
今、私は甥とその護衛であるデルクと、私の息子のエヴラールの四人だけで話を聞いている。内容はスパイの話と、エミール・ガーデンのことだ。
「確かに我々だけでは、あのスパイを見つけることなど不可能であった」
「それはそうです。ですが、だからと言ってすべてを彼に頼むのは、やはりよろしくありません」
「そうですね」
エミールの固有スキルが有能すぎるのだ。我々が頼り切ってしまうほどに。
「まあ、固有スキルの中には、変わった生き物が多くいますが」
確かに。全員が大きく頷いた。
歌って踊る木って、何?
「メインデルトの言い分はわかった。城下町のスパイに関しては、光魔法部隊に頼もう。もちろん我々も同行する」
「お願いします」
「ただ、エミールに頼まなくてはいけないこともある」
「それは」
「娘のことだ」
メインデルトとデレクがはっとする。
「彼女は、私の従姉です。彼女には幸せになってほしい」
基本我々辺境伯領の者は、てめえの腕だけを信用し、何でも自分達でやる。基本他人の力を借りることはしない。だが、
「娘のことだけは、どうしてもあいつの力が必要なんだ」
リナリアの笑顔が脳裏に浮かぶ。まだ、逝ってほしくない。大切な娘なんだ。
「だからこそ、ハッキリ言おう。エミールには、ここに永住してもらう」
「叔父上、ハッキリ言いましたね」
「俺に娘がもう一人いたら、落とせと命じるところなんだが、ジャックじゃなあ」
「既婚者で良かった」
エヴラールがほっとしている。
「エヴラール、お前の娘が生まれたら」
「いやいや、それはいろいろまずいですって」
「だってな」
俺は全員を見回してハッキリ言う。
「あいつ、手芸以外眼中にないだろ?特に女なんて、手芸仲間としか見てねえぞ」
「「「それは、わかる」」」
全員が下を向いて息を吐いた。
そう、あいつに色仕掛けは通用しない。
それ以外だと、やはり手芸か。それしかないか。それをエサに。
「エミールは今、異世界の手芸をこちらに浸透させたいらしいんです。それも、世話になった辺境伯領のために」
「うっ」
なんだそれは。善意の塊だな。
あいつのピュアな瞳が、脳裏でキラキラ光ってる。
「うう、脳内でピュアな目で、こっちを見るな」
「父上、邪な心が現れていますよ」
「「何を計画していたんだ」」
仕方ない、悪さは控えめにしておこう。
「エミールと共同で、新事業を立ち上げる。もちろんあいつの特許申請も行う。固有スキルの支払いはそれでいいだろう?」
「そうですね。あと、こちらから商売に詳しい者をつけます」
「この前来たやつか」
「はい、エミールの幼馴染で、テオと言います。商会の息子で、魔道具師でもあります」
「ほう?どんな魔道具を作るんだ?」
「これです」
デレクが自身のピアスに指を添えて、
『開け』
と魔力を込めて命じると、テーブルの上に手袋が現れた。
「……は?」
「なんだこれは……」
「このピアスが、テオの自信作のマジックバッグです」
「小型化にこだわったって……叔父上?」
こいつらは、こいつらは……アホだ。
「そいつも辺境伯領で囲い込み決定だーっ!」
「「ええっ!」」
息子の大きなため息が聞こえた。




