90・深夜の密会
(ルカス視点)
すでに深夜に近い。
連日話し合うことが多く、今日も遅くなってしまった。スパイのことも、何もかもわからないことだらけだ。
「魔王だけでも大変なのに、この騒ぎに便乗して隣の領地の奴らがが攻めてくる可能性もあるとか。やってらんない……」
一人ぼやいて、ベッドに横になろうとして、ふと気配を感じた。
「誰だ?」
返事はない。沈黙が答えか。
「気のせいか」
「鶴です」
「うわあああああああ!!」
思わず大声が出て、慌てて口元を手で覆うが、
「どうしたっ!何がっ……」
隣室のデレクがドアを蹴破って入ってきて、黙った。私の背後を凝視している。
「鶴です」
「「なぜ今おまえがここに」」
エミの固有スキルである謎の鳥がそこにいた。鳥だとエミは言っていたが、我々からしたら、黒髪の表情の見えない怪しい女にしか見えない。時々頭が鳥に変化するから、やっぱり鳥なんだろうけど。
「エミの使いか?」
「こんな夜更けにどうしたんだ?」
謎の鳥は我々にお辞儀をすると、顔で唯一見える赤い唇をにいっと横に引いた。
「エミさんかいないうちに話しておかないといけないことがありましてね」
「エミに内緒の話か」
「なんの話だ?」
デレクが扉を閉めて、私の横に来た。
「今日のギャラの話です」
「そのことなら明日叔父上に言って特許の手続きを……」
「本当は、エミさんの魔力で、我々は動いています」
「ツケじゃなくて?」
「あ、ツケもあります」
「どっちなんだ」
意味がわからない。
「言葉は難しいですね。それでは一番言いたいことを言います」
「なんだ?」
謎の鳥がすううと息を吸い込んだ。やばい、また大声で叫ぶのか?
「すまんが小声で頼む」
「みんな起きて飛んでくるぞ」
ピタと動きが止まった。よかった。
「それでは普通の声で」
「それで頼む」
謎の鳥が一歩こちらに近づいた。
「エミさん、ものすごくお人よしなんです」
「それは知ってる」
「すっごくわかってる」
「ええ、だからね」
なぞの鳥がすううと息を吸った。
「エミさんを利用するの、やめてもらえませんか?」
「はあっ?それ、どういう」
「デレク、落ち着け」
謎の鳥に手を出しそうな勢いのデレクを止める。
「今日、話していたでしょ?王都のスパイまで捕まえてほしいって」
「そ、それは」
確かに思わず口にしてしまった。エミの都合は一切考えなかった。
「それって国中にエミさんの魔力を広げるって話なんですよ。そんなことしたら命が危険って話です」
「そんなこと、考えもしなかった」
「だからここに来ました。エミさん、あなた達のことが大好きなんです。頼めば何でもしてしまいそうなんです。そうなったらどうなることか。あなた達だけならまだしも、次々いろんなことに首を突っ込んで、もし変な人に見つかりでもしたら、どうなることやら」
「それは確かに」
「天性のお人よしだからな。困っている人を見つけたら、全力で固有スキルを使いそうだ」
謎の鳥の言う通りだ。我々は無意識に、エミを利用していた。それが当たり前になっていた。
「まったく。王族を嫌っているくせに、同じことを無意識にしていたとは」
「返す言葉もない」
「君の言いたいことはわかった。城下と王都のスパイの方は、光魔法部隊に相談してみよう。闇魔法の気配があると言ってたから、その辺りを調べてもらおう」
謎の鳥の口元が緩んだ。わかってもらえただろうか。
「固有スキルは本人の魔力で動きます。それは皆様も固有スキルをお持ちだから、お分かりでしょ?でも、エミさんは特殊です。どうかうちのマスターをお守りください」
謎の鳥が深々と頭を下げた。
と思ったら、
「消えた?」
「早いな」
一瞬で消えてしまった。
「だが、あの鳥の言う通りだ。我々は無意識に友人を利用していた」
「まあ、かなり便利だったからなあ」
「エミのことが王都に知られると厄介だな」
「芝居小屋で木と踊るだけならいいんだが」
「すみません」
「「うわっ!」」
背後から声が聞こえて思わず叫ぶ。振り返るとまた私の背後に。
「背後はやめて?」
「そういう反応するから、やめられません」
鳥め。
「で、何の用だ?」
デレクも目が死んでいる。
「固有スキルは、本人の魔力で動きます。普通はそうです。それでは、あのニョロっとした奴の固有スキルの主人は?」
「あっ」
「確かに限界があるかもしれない」
「エミと一緒でそんなに魔力を使わない可能性もある」
「そんな人、滅多にいませんよ」
鳥が、ボソッと言う。
「恐らくニョロの主人の命は、短いでしょう」




