9・幽霊が仲間になりました
少し疲れたので、一旦メルヘン魔法を止めることになった。幽霊は基本、朝になれば活動しにくくなると言うので、一度解散することに。
「回復したら呼ぶわ。あと、対策方法考えるし」
「お願いね」
「そうそう、ここにいても大丈夫かしら、誰も来ないといいけど」
「来ないわよう、心霊スポットよ」
「そうだったわ」
あっはっは。
んじゃ、かいさーん。メルヘン魔法を止めた。このスキル、あんまり魔力を消費しないから助かるわ。
幽霊の姿が消えたことを確認して、立ち上がり、窓を開けた。鳥の声が遠くに響いた。
「鳥も近くに来ないんかい」
結構ヤバめな心霊スポットだったりして。
「なあんて、いやいやいや」
考えるのはよそう。
とりあえず、顔を洗ったり、非常食を食べてから、いろいろ考えてみた。
「調べてみますか。ステータス、オープン」
『エミール(元 エミール・ガーデン)
冒険者ギルド登録名:エミ
18歳 男性
魔法:生活魔法(火・水・風・土)
スキル:メルヘン』
メルヘンのところを指で押してみた。
『メルヘン:イメージによる創造が可能になる。
メルヘンというものに対する本人のイメージが作る魔法。
なお、制限はある。
履歴:魚・木・狼・妖精・幽霊』
「え、これだけ?」
あとは何も書いてなかった。履歴がなんか泣ける。
「そういえば、ヘルプマークがあったわよね」
狼に襲われたときに光っていたヘルプマークを探した。だが、今は見つけることができなかった。
「もしかして、本当に大変なときにしか出ないから、ヘルプのマークってこと?」
ある意味今も大変なんだけどな。
履歴って、メルヘン魔法で出会ったものってことよね。
「そういえば、木は、動いたわよね」
あいつ、ついてきていたわね。
「まさかねえ」
私はそっとドアを開けて外に出た。
「メルヘン」
光りのサークルが私を包む。
「昨日会った、木って、ここにいるのかしら。いないわよねえ」
ぼそっと呟く。
ずんちゃずんちゃ。
音楽が聞こえてくる。まさか。
「呼ばれて来ました、木ーっ!」
「やっぱ来たんかい」
私は膝から崩れ落ちた。
「木のストーカーなの?私、木に気に入られ…ま、いーか」
ダジャレになりそうなのを無理矢理止めて、すくっと立ち上がって木に向かう。
「もしかして、私のこと追いかけてきた?」
「もちろんだぜ、ハニー。君は僕の恩人さ~♫」
「恩人?」
「そう、おいらを自由に解き放ってくれたんだからねー!」
ラーラーラー
「自由、それは歩けることー。木なのに、自由に動けるのさー♫」
「なんで」
「それは、君が、僕にメルヘン魔法をかけてくれたおかげさああああ♪」
くるるるるる、からのターン。
決まった。
「つまり、メルヘン魔法を使うと、周りが巻き込まれる。そいつは、自由になるってこと?」
「そうだぜ、ハニー。あとは望んでくれるだけさ〜♫」
「え、何を?」
嫌な予感がするわ。
「それは、それは〜♩」
きらりん。
「ずっとそばにいて〜って」
「はい、却下」
ぐるりんと後ろを向いて、小屋に戻った。うん、速攻、秒で。
「待って、お願い、見捨てちゃいやんぬ♫」
って声が聞こえるけど、聞こえない。聞こえないうん。
「ってことは、私が望めば、誰でも連れて行けるってこと?」
まだよくわからないけど、そういうことよね。
「メルヘン」
光のサークルが生まれる。
「リナリア、いらっしゃい」
サークル内に、リナリアが現れた。
「あれ、もういいの?」
「うん、というか試してみたいことがあってね」
私はリナリアをみた。メルヘンサークル内(今、命名してみた)の彼女は、普通の人間に見える。
それなら、メルヘンサークルがなくても、人間として誰にでも見れるように変化させてみればいいのでは。だって、メルヘンだし。
「メルヘン魔法よ。彼女をこの場から解放して。そして、人間の姿に変えて」
…言ってみたけど、変化はなかった。
「ダメかあ、あ、あら?」
視界右手に点滅が見えた。これって、あれよね。
「メルヘン魔法のヘルプマークよね」
指でポチッと押してみた。画面が目の前に現れた。
「やあ、お困りだね、ハニー。仲間を作りたいのかい?」
「そんなことが出来るの?」
「旅には仲間が必需品じゃないか。メルヘンにも友達は必須だっぜー」
「素敵ね」
「さあ、仲間を作る呪文を授けよう〜」
「嫌な予感が」
「一緒に歌うのさあ〜」
「あまりにもベタなお約束」
はあと、ため息がでる。嫌な汗もでる。だけど、仕方がないわ〜♫あら、勝手に歌が。
私は幽霊の方を見た。
「いくわよ」
「ええ、お願い」
「幽霊さーん、あなたを私の旅の仲間に〜♫」
「え、いきなりミュージカル?」
「お願い、自分でも恥ずかしいのよ。合わせてね」
「あ、はい、すんません〜♩」
「ノリがいいのね〜♪」
「日本人ですから〜♫」
そうね、ノリって大事ね。
「幽霊さーん、あなたを私の旅の仲間にしたいの〜♫」
「いいわね〜、一緒に行きますわ〜♪」
「ここから、旅にでるの〜あなたはここから、解き放たれるのよお〜〜♩♪」
その瞬間、彼女が光った。つま先から頭部に向かって光の輪が彼女を通過して、やがて光が消えた。
メルヘン魔法のサークルも消えたが、彼女はいた。だが、
「え、私、見えてる?」
「うん、見えるよ、魔法がなくても」
ただねえ。
「メルヘン魔法恐るべし」
「そうね、3頭身だわ」
彼女はメルヘン魔法独特の変化を遂げていた。木や狼と同じだ。3頭身チェンジである。
「子供に戻ったみたいね」
「可愛いからいいんじゃね?」
手を差し出し、彼女の手を握った。
「触れるね」
「うん、うん、私も掴める」
彼女も私の手を掴む。自然に互いにハグをした。彼女の泣き声が聞こえる。
「よかった。…けどさ」
「何?」
ハグを解いて向き合う。
「これで小屋から出れなかったら、ウケるわ〜」
「やめい」
小屋の扉を開けて、私が先に出る。振り向いて手を差し伸べた。
「さあ、出て」
軽く頷いて、彼女がゆっくり動いてくる。数歩ではあるが、ゆっくりゆっくり進んで、扉の前で一度立ち止まる。
「行くわよ」
一気に飛び出してきた。外の光の中に、その姿を表した。
「これが、シャバ」
「やめい」
冗談よおって言いながら涙を流している。
この日、ぼっちだった幽霊が、日の光の中に立っていた。




