8・幽霊から事情を聞きました
トイレから戻ってきた私は、ベッドじゃなく、入り口近くの部屋の椅子に腰掛けた。もう夜明けも近そうだし。
幽霊も近づいてきて、私の対面にきた。
「いろいろ聞いてあげたいけど、私も忙しいのよね。それにもうすぐ夜明けだから、あんた消えちゃうんじゃない?」
「そんなあ、ようやく話せる人に会えたのに。まだ何にも言ってないわ」
それもそうね。うーん、なんとか出来るかしら。
「しょうがないわね。やってみますか」
「え?」
「メルヘン」
私を中心に光りのサークルが生まれる。今は室内程度の大きさをイメージした。部屋の中、テーブルを挟んで、私と幽霊が輪に入るイメージで。
「何これ?」
「私の固有スキルのメルヘンよ」
「おう、ファンタジー」
日本人は対応力ぱねえな。
「これなら幽霊でもなんか変化するかなって思ったんだけど、どうかしら」
サークル内に入った幽霊の姿が、変化していた。
先ほどは半透明ビニール袋程度の薄さだったが、今はしっかり姿を現している。
緑がかった黒髪、緑の瞳。少し吊り目の一見きつそうなイメージの細身の女性。年齢は20代前半かな。
「不思議ね。なんだか自我が落ち着いている感じ。今までって、感情に全て支配されているようなものだったから」
「幽霊だもんね」
「そーね」
クスリと笑って、幽霊こと、リナリアは語り始めた。
*****
私の名前はリナリア・スヘルデン辺境伯の娘。
私は殺されたの。
私の家族は両親と兄と弟。家族仲も良くって、領地も安泰。時々魔物は出るけど、頼りになる騎士も多くいるし、農地も豊作。みんな幸せだったわ。
私が12歳の時に、婚約者が決まったの。隣国の侯爵領。友好関係を深めるという名目でね。
お相手の第一印象は優しいお方。でも、義務感アリアリだったわね。本当は私との婚約は嫌だったのよ。でも、政略結婚なんてそんなものよね。貴族なら尚のこと。
私は諦めていたわ。家のため、国のため。そう思っていたの。
でも、気づく人はいるのよね。
ある時、私に聞いてきた人がいたの。
この婚約を受け入れているのですか。本当に幸せになれるのですかと。
私は答えたわ。これが貴族として生まれた者の使命ですと。
そうしたら、納得できないって、攫われたの。
「え、駆け落ち?」
「違う違う、好きでもない普通の人よ」
「つまり誘拐?」
「そうなるわよねえ」
それで、そのまま勝手に妻にされそうになって。しかも私のため、嫌な縁談から救うため、という大義名分で。
「抵抗するに決まっているわよね。私は辺境伯の娘よ」
で、抵抗したら、相手が逆上したってわけ。
「抵抗するあなたがいけないんだって言ってたわね」
「何それ。自己満足男じゃない」
「でしょ?その上、私のことを埋めて、証拠隠滅よ」
「ど最低ー」
幽霊が、うんうん頷く。
「そりゃあ、成仏しきれないわねえ」
「しかも、前世を思い出したのが、殺される瞬間だったのよ」
「え、それ、ひどくない?」
「もっと早く思い出していたら無双できたのにって思ったら、余計成仏できなくて」
「「辛いわー」」
死にかけると前世を思い出すのって、テンプレかしら。
「んじゃ、犯人はまだ捕まっていないのかしら」
「わからないわ。私はここから動けないし」
「そっか。んでなんでここから動けないの?」
「そりゃここが犯行現場だし」
嫌な予感が。
「まさかあのベッド」
「あ・た・り」
いやああああああああ。
「二度寝しようと思っていたのにぃ〜」
「諦めてちょうだい」
私に全て語った彼女は、スッキリしたようだ。口元に笑みを浮かべている。
「で、これからどうする?」
「そうなのよね。成仏したいけど、やり方知らないし。そもそも成仏するより、せっかくなら異世界見物したいし」
「でしょうね」
ふと、私達を包む光りのサークルを見る。このスキルならなんとかならないかな。
「実はこのスキルに目覚めたのって昨日なのよね。だから使い方もよく分かってなくって」
「面白いスキルよね」
「これを発動すると、木が擬人化したり、狼が3頭身キャラになったり」
「幽霊は朝でも活動できているし」
「で、これであんたを助けられないかなって思って」
「どうするの?」
「まずはここから動けるようにしたいわよね。んで、お家に連れて行ってあげる」
幽霊が目を見開く。
「連れてってくれるの?」
「そうよ、友達でしょ」
1日一緒にいただけだが、こんな子ほおっておけないわ。
「うん、ありがと」
「ただし、やり方知らんけどねー」
「そりゃそうね」
2人で声を出して笑った。
朝日が、閉じたままの窓や扉の隙間から入ってくる。だが、幽霊は綺麗なままだった。




