88・鶴さんとギャラの相談をしました
予想通り、スパイは皆記憶を失っていた。ドジョウ(仮)を仕込んだ犯人のことも。覚えていたのはテオだけ。
「どうしてテオにだけ、記憶が残っていたのかしら」
「そりゃ人徳?」
テオがふんぞり返る。
「今後も憑りつかれる人間が増える可能性もある」
「でもどうやって対策すればいいのか」
「誰かツッコミお願いします」
忙しいから、誰も突っ込まない。
今私達はルカスの部屋で、四人で話し合っていた。テオが来てからもう三日経っている。その間スパイから話を聞いてみたけど、収穫はまったくなかった。
「そうねえ。メルヘン」
メルヘンサークルが私達を包んだ。
「お、これがメルヘンサークルか」
私の固有スキルのことやここまでの経緯、勇者の話もテオには話してある。でもまだまだ時間が足りなくて、話すことは山とある。
「でもまあ、とりあえずやることやりますか。鶴さーん、いろいろ聞きたいことがあるのよーん♪」
「出てきてくれー♩」
「まさかデレクが歌好きとは思わなかったな」
「長年共にいるが、私もびっくり~♩」
「そういうルカスもノリノリだよな」
「私もびっくり~♪」
「鶴です」
「ひいいっ!」
着物の女性バージョンの鶴さんが、テオの背後に立っていた。
「鶴の恩返しって、ホラー要素なかったと思っていたけど」
「趣味です」
「私のスキルのメンバーって、個性強いわよね」
「本人がそれ言わない」
「まいっか。ところで鶴さん、一つお願いしてもいいかしら?」
「なんでしょう?」
デレクのツッコミは放置してと。鶴さんが、私の方にやってきた。ずっとテオの背後でもいいのに。
「例えばよ。今後も例のスキルの監視をお願いしたいのだけど、出来るかしら?」
「それはつまり、我々が常に辺境を見守ると」
「そう。毎日とは言わないけど、定期的に回ってほしいのよ」
「本当は王都も頼みたいところだが」
「そちらの心配はわかるけど、私の固有スキルのことを知っている人がいないとねえ」
「確かにいきなり巨大な鳥が人を襲っていたら、討伐されてしまうだろう」
全員でうんうん頷く。絵面が想像できて、痛い。
「ですが、私たちのギャラの相談もしておりませんし」
「ん?」
ギャラ?
「それって何かしら」
嫌な予感がするわ。そういえば、初めて妖精さんと会ったときに言ってたわね。
『時給制~時給制~♪』
脳内で妖精さんの歌声がこだまする。冷や汗出てきたわ。
「あ、ギャラで思い出した。エミ、お前この前の伝言の費用、俺のツケにしたよな」
「どき」
今それを言う?
忘れてたわ。ついつい欲望に駆られて、テオのツケでって言ったわ。欲しい手芸用品があったからついケチったわ。
「エミールう?お前、そもそも、金、あるのか?」
「……ないです」
「正直でよろしい」
私はソファに座ったまま、テオに頭を下げた。
「テオ、ごめん」
「しょうがない、こっちもツケにしてやる」
「ううう」
三人の生暖かい視線が痛いわ。
「早くお店を開いて借金を返すわ」
「お店?エミ、仕事を始めるつもりなんか?」
そっか、テオにそこは話してなかったわね。
「私、手芸が好きなの。将来は自分で手芸のお店を始めたいと思っているのよ」
「手芸って、布の販売とかか?」
「そういうのもあるけど、前世でやっていた手芸方法を広めたいのよね。最近、洗濯室の仲間とやっているけど」
「何?」
テオの目が光った。
「何かしら?」
「新しい手芸を始めただと?」
テオが鶴さんを押しのけて、私の横に立つ。
「まさかとは思うけど、その手法、特許とか取ってあるのか?」
「ないわね」
「まさかとは思うけど、もう広めまくっていないよな」
「辺境伯領の新しい特産物にしようって言っているわね」
テオが私の胸倉をつかんだ。
「それ、お前の儲け、ゼロだよな」
「まあ、そうねえ。でも楽しいからいいのよ」
辺境伯領にはお世話になっているし。
テオが私の襟をぽんぽんと叩いて直す。先ほどの席に戻って、溜息をついた。
「こいつ、商売無理だわ」
「わかる」
「手芸の店は無理だな」
「え、なんで?」
今度は私以外全員が溜息をついた。鶴さんもである。
「エミさん、その手芸方法、特許をとってからみんなに広めていれば、大儲けでしたよ」
「そりゃわかるけど」
「エミ、お前がやらないと、別の人間が特許を取って悪儲けする可能性もある。辺境伯領に広めるにしても、安全策としても必要な措置なんだ」
「まあ、そういうことなら」
「後で叔父上に話すよ」
ルカスが苦笑いをしていた。
「ルカス、お願い」
「わかったよ。で、特許はエミにしておくよ。それをどう還元するかは、エミ次第だ」
「それではそちらで手を打ちましょう」
「え、鶴さん?」
鶴さんが背後から、私の肩を両手でつかんだ。
「今後の我々メルヘン座のギャラについてです」




