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88/95

88・鶴さんとギャラの相談をしました

 

 予想通り、スパイは皆記憶を失っていた。ドジョウ(仮)を仕込んだ犯人のことも。覚えていたのはテオだけ。

 

「どうしてテオにだけ、記憶が残っていたのかしら」

「そりゃ人徳?」

 

 テオがふんぞり返る。

 

「今後も憑りつかれる人間が増える可能性もある」

「でもどうやって対策すればいいのか」

「誰かツッコミお願いします」

 

 忙しいから、誰も突っ込まない。

 今私達はルカスの部屋で、四人で話し合っていた。テオが来てからもう三日経っている。その間スパイから話を聞いてみたけど、収穫はまったくなかった。

 

「そうねえ。メルヘン」

 

 メルヘンサークルが私達を包んだ。

 

「お、これがメルヘンサークルか」

 

 私の固有スキルのことやここまでの経緯、勇者の話もテオには話してある。でもまだまだ時間が足りなくて、話すことは山とある。

 

「でもまあ、とりあえずやることやりますか。鶴さーん、いろいろ聞きたいことがあるのよーん♪」

「出てきてくれー♩」

「まさかデレクが歌好きとは思わなかったな」

「長年共にいるが、私もびっくり~♩」

「そういうルカスもノリノリだよな」

「私もびっくり~♪」

「鶴です」

「ひいいっ!」

 

 着物の女性バージョンの鶴さんが、テオの背後に立っていた。

 

「鶴の恩返しって、ホラー要素なかったと思っていたけど」

「趣味です」

「私のスキルのメンバーって、個性強いわよね」

「本人がそれ言わない」

「まいっか。ところで鶴さん、一つお願いしてもいいかしら?」

「なんでしょう?」

 

 デレクのツッコミは放置してと。鶴さんが、私の方にやってきた。ずっとテオの背後でもいいのに。

 

「例えばよ。今後も例のスキルの監視をお願いしたいのだけど、出来るかしら?」

「それはつまり、我々が常に辺境を見守ると」

「そう。毎日とは言わないけど、定期的に回ってほしいのよ」

「本当は王都も頼みたいところだが」

「そちらの心配はわかるけど、私の固有スキルのことを知っている人がいないとねえ」

「確かにいきなり巨大な鳥が人を襲っていたら、討伐されてしまうだろう」

 

 全員でうんうん頷く。絵面が想像できて、痛い。

 

「ですが、私たちのギャラの相談もしておりませんし」

「ん?」

 

 ギャラ?

 

「それって何かしら」

 

 嫌な予感がするわ。そういえば、初めて妖精さんと会ったときに言ってたわね。

 

『時給制~時給制~♪』

 

 脳内で妖精さんの歌声がこだまする。冷や汗出てきたわ。

 

「あ、ギャラで思い出した。エミ、お前この前の伝言の費用、俺のツケにしたよな」

「どき」

 

 今それを言う?

 忘れてたわ。ついつい欲望に駆られて、テオのツケでって言ったわ。欲しい手芸用品があったからついケチったわ。

 

「エミールう?お前、そもそも、金、あるのか?」

「……ないです」

「正直でよろしい」

 

 私はソファに座ったまま、テオに頭を下げた。

 

「テオ、ごめん」

「しょうがない、こっちもツケにしてやる」

「ううう」

 

 三人の生暖かい視線が痛いわ。

 

「早くお店を開いて借金を返すわ」

「お店?エミ、仕事を始めるつもりなんか?」

 

 そっか、テオにそこは話してなかったわね。

 

「私、手芸が好きなの。将来は自分で手芸のお店を始めたいと思っているのよ」

「手芸って、布の販売とかか?」

「そういうのもあるけど、前世でやっていた手芸方法を広めたいのよね。最近、洗濯室の仲間とやっているけど」

「何?」

 

 テオの目が光った。

 

「何かしら?」

「新しい手芸を始めただと?」

 

 テオが鶴さんを押しのけて、私の横に立つ。

 

「まさかとは思うけど、その手法、特許とか取ってあるのか?」

「ないわね」

「まさかとは思うけど、もう広めまくっていないよな」

「辺境伯領の新しい特産物にしようって言っているわね」

 

 テオが私の胸倉をつかんだ。

 

「それ、お前の儲け、ゼロだよな」

「まあ、そうねえ。でも楽しいからいいのよ」

 

 辺境伯領にはお世話になっているし。

 テオが私の襟をぽんぽんと叩いて直す。先ほどの席に戻って、溜息をついた。

 

「こいつ、商売無理だわ」

「わかる」

「手芸の店は無理だな」

「え、なんで?」

 

 今度は私以外全員が溜息をついた。鶴さんもである。

 

「エミさん、その手芸方法、特許をとってからみんなに広めていれば、大儲けでしたよ」

「そりゃわかるけど」

「エミ、お前がやらないと、別の人間が特許を取って悪儲けする可能性もある。辺境伯領に広めるにしても、安全策としても必要な措置なんだ」

「まあ、そういうことなら」

「後で叔父上に話すよ」

 

 ルカスが苦笑いをしていた。

 

「ルカス、お願い」

「わかったよ。で、特許はエミにしておくよ。それをどう還元するかは、エミ次第だ」

「それではそちらで手を打ちましょう」

「え、鶴さん?」

 

 鶴さんが背後から、私の肩を両手でつかんだ。

 

「今後の我々メルヘン座のギャラについてです」

 

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