83・パトリシアという人
ようやく、犯人がわかった。
「パトリシア・アッコンチ嬢か」
「それって」
「そう、私の元婚約者。今は義弟の婚約者になったって聞いているけど」
「変更できて、よかったな」
デレクの慰めに、苦笑いする。
婚約者だった頃のことを思い出そうとしたけど、あまりないわねえ。まあ、ほとんど接点もなかったし。付き合いとして、季節の便りを何通か交わした程度だものね。直接会っても、気まずい空気しか記憶にない。
「ねえ、人を操るって言ったわよね。つまり自分の思うように相手を操るだけってこと?」
「どういう意味だ?」
ルカスが尋ねる。
「操るだけでもすごいけど、どうやって操った相手と情報交換していたのかしら」
「そうだな、遠距離であれば、そいつがどのような状態かわからないものだろうし」
「ねえ、金魚さん、そこら辺も聞いてくれる」
「がってん」
出目金の片目が光って、ドジョウ(仮)を照らした。
「カツ丼食うか?」
「いやそれ聞いたし」
「おら、吐け、吐けよー!さっさと話して楽になりな」
「……」
「判明しました」
赤い金魚さんがこっちに寄ってきた。
「演出必要?」
「それがないと、出目金の出番がないので」
「不憫だ」
デレクが涙を拭いていた。
「こいつとスキルの主はつながっているので、こっちの情報は筒抜けだそうです」
「筒抜け?」
「それじゃあ、今も?」
「いえ、この水槽は、電波遮断タイプですから」
「よかったあ」
「でも、その前の情報はダメですね」
「まじか」
それなら今までのやりとりすべて、ばれているということ?
「つまり、私が生きていることもばれたと」
「カツ丼食うか?」
出目金さんに、慰められた。
*****
(パトリシア視点)
「まあ」
思わず声が出てしまったわ。まあ、まわりの使用人はすべて私の支配下にあるから、私が何をしても何も言わない。昔からそうだもの。すべて私の言いなり。
でも、一人だけ、彼だけはダメだった。
エミール。ガーデン伯爵家の跡取りで、私の婚約者だった人。彼にあの子をつけようとしたけど、なぜかあの子が逃げた。役に立たないのならいらないし、川に捨ててもらった。
普通のおとなしそうな人。でも、彼は生きていて、スヘルデン辺境伯領にいるのね。
彼の近くにいたのは、
「メインデルト王子でしたわね」
彼らは知り合いなのかしら。とても親しそうでしたわね。
「それなら生かしておいたのに。弟よりもずっと役にたったのね」
まあ、もう終わったことだから、無理ね。お兄様に報告しなくては。
それにしても、なぜかしら。
「生きていてくれて、うれしいなんて。不思議ね。あら?」
エミールが生きている。なぜか涙が一粒零れた。




