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83/90

83・パトリシアという人

 

 ようやく、犯人がわかった。

 

「パトリシア・アッコンチ嬢か」

「それって」

「そう、私の元婚約者。今は義弟の婚約者になったって聞いているけど」

「変更できて、よかったな」

 

 デレクの慰めに、苦笑いする。

 婚約者だった頃のことを思い出そうとしたけど、あまりないわねえ。まあ、ほとんど接点もなかったし。付き合いとして、季節の便りを何通か交わした程度だものね。直接会っても、気まずい空気しか記憶にない。

 

「ねえ、人を操るって言ったわよね。つまり自分の思うように相手を操るだけってこと?」

「どういう意味だ?」

 

 ルカスが尋ねる。

 

「操るだけでもすごいけど、どうやって操った相手と情報交換していたのかしら」

「そうだな、遠距離であれば、そいつがどのような状態かわからないものだろうし」

「ねえ、金魚さん、そこら辺も聞いてくれる」

「がってん」

 

 出目金の片目が光って、ドジョウ(仮)を照らした。

 

「カツ丼食うか?」

「いやそれ聞いたし」

「おら、吐け、吐けよー!さっさと話して楽になりな」

「……」

「判明しました」

 

 赤い金魚さんがこっちに寄ってきた。

 

「演出必要?」

「それがないと、出目金の出番がないので」

「不憫だ」

 

 デレクが涙を拭いていた。

 

「こいつとスキルの主はつながっているので、こっちの情報は筒抜けだそうです」

「筒抜け?」

「それじゃあ、今も?」

「いえ、この水槽は、電波遮断タイプですから」

「よかったあ」

「でも、その前の情報はダメですね」

「まじか」

 

 それなら今までのやりとりすべて、ばれているということ?

 

「つまり、私が生きていることもばれたと」

「カツ丼食うか?」

 

 出目金さんに、慰められた。

 

 

*****

 

 

(パトリシア視点)

 

「まあ」

 

 思わず声が出てしまったわ。まあ、まわりの使用人はすべて私の支配下にあるから、私が何をしても何も言わない。昔からそうだもの。すべて私の言いなり。

 でも、一人だけ、彼だけはダメだった。

 

 エミール。ガーデン伯爵家の跡取りで、私の婚約者だった人。彼にあの子をつけようとしたけど、なぜかあの子が逃げた。役に立たないのならいらないし、川に捨ててもらった。

 

 普通のおとなしそうな人。でも、彼は生きていて、スヘルデン辺境伯領にいるのね。

 彼の近くにいたのは、

 

「メインデルト王子でしたわね」

 

 彼らは知り合いなのかしら。とても親しそうでしたわね。

 

「それなら生かしておいたのに。弟よりもずっと役にたったのね」

 

 まあ、もう終わったことだから、無理ね。お兄様に報告しなくては。

 

 それにしても、なぜかしら。

 

「生きていてくれて、うれしいなんて。不思議ね。あら?」

 

 エミールが生きている。なぜか涙が一粒零れた。

 

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