81・客人来たりて
(テオ視点)
「ぼっちゃん、お客さんです」
自室の整理をしていたら、店員が俺を呼びに来た。
「何だよ、これから出かけるんだから、もう旅立ちましたって言ってくれても」
「そうしたいのは山々なんですが、相手がねえ」
客の名前を聞いて、息をのむ。まずいな。
「親父には予定通りにと、伝えてくれ。客の対応をしたら、そのまま出る」
「わかりました。ぼっちゃん、お気を付けて」
「お前らもな」
店員に手を振って、俺は店の上顧客用の個室に向かった。
「失礼します」
部屋に入る。ソファでふんぞり返っていたのは、エミールの義弟のラルフだった。なぜ、ここに?それにどうして俺を指名した?
「遅いぞ」
「申し訳ございません。本日はどのようなご用件で」
こいつとは、何も接点はない。まともに話したことすらない。俺がエミールと友人だったのは、こいつには関係ない話だし。
「お前、どこかに行くのか?」
「え、はい。修行の一環で、よその土地に行商に出かけるところです」
「スヘルデン辺境伯領か?」
ばれてる?なんで?
「それは他国ではありませんか。まだまだ若輩者ですから、近所くらいで」
「そうなのか。それなら仕方ない。スヘルデン辺境伯領に行くのなら買ってきてほしいものがあったんだが」
「申し訳ございません」
軽く頭を下げる。
「代わりのものでよろしければ……」
「いや」
そう言うと、ラルフが立ち上がった。他の店員が出したであろう紅茶が入ったカップを取り、そのまま中身を床にこぼした。
「え、何かございましたか。お気に召さないものが……」
こちらの問いを無視して、ラルフはポケットから出したビンの中身をカップに注いだ。
「これを飲め」
「ええっ?そ、それはちょっと」
思わず後ずさった。だが、いつの間にか背後にいた、ラルフの護衛らしき男に後ろから羽交い絞めにされた。
「やめてください!」
かなり大きな声で叫んだが、誰も助けが来ない。
「飲め」
カップを押し当てられたが、もちろん口を開けない。
「まあいい。飲むものではないからな」
どういう意味だ?そう思った途端、目の前のカップの中身が動いた。液体が細長い生き物のような動きを見せた。それはふわりと飛んで、俺の耳元に……。
「うわあああああああ!!」




