76・サラの決意
(サラ視点)
私はサラ。騎士である。
生まれはスヘルデン辺境伯領。父は騎士で、辺境伯様の幼馴染だった。その縁で私も辺境伯様の長女マージェリー様と、幼馴染となった。
彼女はとても強かった。剣の腕前はもちろん、心も。
私もそれなりの腕前であると自任しているが、彼女は更に上をいく。カリスマ性もあったが、そんな彼女が国王をも魅了してしまうとは、誰も思わなかった。
私は側室になった彼女について王都に行った。彼女を、そして将来生まれてくる彼女の子を守りたいと、心から思った。私がいなくても、マージェリー様なら勝てるとはわかっているけれど。
そしてメインデルト王子が生まれた。
「ねえ、サラ。あなたにメインデルトの剣の師匠になってほしいの」
「私が?あなたの方が適任と思うが」
「私、教えるの、下手なのよ」
それは、否定出来ない。彼女の唯一の欠点は、そこだろう。
「こうやって、あーやって、ダーって切り込んで」
「……私が教えます」
マージェリー様も、一応頑張ったけど、無理だった。
メインデルト王子は、とても飲み込みの早い子だった。勉強も、剣も。
性格も良く、母のような逞しさはないが。いや、なくていいか。
辺境の脳筋を受け継いでいないことを、全員感謝していた。
だって、可愛いのだ。父王に似た金の髪、母から受け継いだ紫の瞳。しかも顔が、いい。脳筋臭もない。こんなの辺境にはいない。辺境から来たお付きの者は全員そう思っていた。王子、最高。
私が教える剣は、実践のものだ。宮廷貴族の華やかなものではない。
だが、それを教えてほしいと、言ったのはマージェリー様だ。王子はメキメキと強くなっていった。
ある時、国王が戯れに息子の剣の練習を見に来た。彼もマージェリー様の剣技に惚れて妻にしたくらいだ。だからこそ、王子の腕前を心から褒めてくれた。
王子も滅多にない父親の言葉に、素直に喜んだ。
だが、それを見ていた者がいた。第二王子のカッスールだ。
それから数日後、王子だけの茶会が催された。帰ってきたメインデルト王子が、私に菓子をくれた。
「美味しかったから、サラにもあげる」
「ありがとうございます」
毒が入っていた。
すぐに気がついて吐き出し、人を呼ぶ。王子も食べていたものだ。だからこそ先に王子を助けてと叫んだつもりだったが、果たして声に出せたのか。
その辺りから記憶はない。
ようやく目を覚ましたときには、話は終わっていた。
不幸にも毒に当たったものは、私を含めて3人。後の二人は第二王子の侍女と護衛。茶会の後で、余ったお菓子を貰った者達だった。
私はすぐに吐き出していたおかげで、なんとか助かった。マージェリー様が、早急に神殿の聖女様を手配してくださったおかげもある。
後の二人は、帰らぬ人となった。
犯人はわからぬまま、話は終わった。
だが、私は、終わらせることが出来なかった。
私は剣を握れなくなった。手が痺れるのだ。足も。冬はことさら辛かった。私は耐えた。
だが、耐えられなかったのは、王子だ。自分のせいで私が傷を負ったと。見ていられぬほどの、落ち込み様だった。マージェリー様がいくら言ってもダメだった。
それで、私は辺境に帰ることになった。別の護衛と入れ替えということで。
「サラ、すまない」
「今、私は王子のそばにいないほうがいい。だから」
マージェリー様とハグをする。
ずっと側にいたかった。だが、今の私がいては、彼を傷つけてしまう。まだまだ教えたいことがたくさんある。いつかまた、会えることがあったら。
ようやく会えた時、彼は泣きそうな顔で私を見ていた。どう見ても完治していない、洗濯係だ。なのに、治ったから安心してと嘘をつく。そうでもしないと、彼はいつまでも自分を傷つけてしまう。
だが、私は聖女様のおかげで助かった。
私はもう一度、剣を取る。今度こそ、マージェリー様とメインデルト王子を助けるのだ。
だが、私を長年苦しめた毒は。あれは一体何だったのだろう。
聖女様がおっしゃっていた。
「これは、毒であって毒ではない」
恐らく独り言。私に聞かせるものではなかったのだろう。他の人達には、聞こえていなかった。




