75・さようなら、呪いという名の
(ルカス視点)
翌日、二日酔いになった。エミとデレクもだ。
兄上が「特別よ」って治癒してくれたけど、考えたら贅沢な話だ。最高位の治癒魔法使いが、たかが二日酔いを治してくれるのだから。本当に兄上には感謝しかない。
恐らく、兄上がサラを治してくれたのだろう。あの時のサラは、かなり顔色が良くなっていた。
ありがとう、兄上。
飲みくらべの勝者は、叔父上だった。
兄上は途中で自分を治癒していたことがばれて、失格になっていた。エミは早々に倒れていたな。デレクは12位だった。中途半端だな。
サラは、2位。ものすごく強かった。でも負けて、ものすごく悔しがっていた。
「俺より強いやつはいる……」
叔父上、それはまさか私の母じゃありませんよね……。怖くて聞けないけど。
私はというと。
「まさかの一杯も飲めないなんて」
「ビールは苦手なんだよ」
「いや、それ以前に酔うの早すぎ」
「みんなで冒険者やっていたとき、ワインは飲んでいたわよね」
「実はあれ、葡萄ジュース」
「まじか」
冒険者時代、ワインを飲むふりをして、ジュースでごまかしていた。飲めないなんて、恥ずかしくて言えなかった。
だからエミから、
「ちゃんとルカスが勝てそうな競技にしておいたわよ」
って笑顔で言われて。お前を信じているって、デレクや兄上に、目で語られて。
言い逃れに「た、食べくらべ?」って言ったけど、わかっていた。ジョッキ見えてた。それでも、現実逃避したかった。
どうして数多ある競技の中で、ぶっちぎり敗北確定のものを選んだ?エミールよ。
まあ、自業自得ってこういうことなんだな。
「だっていつもワインガバガバ飲んでいたから、勝負できると思っていたんだけど。これ、ルカスが偽装していたせいよね。私悪くないわよね」
「そうだな、エミは悪くない」
「デレク!」
治療のおかげで、笑っても頭痛は起きなかった。
「もう、呪いは消えたわね」
「きれいさっぱりですわ~♪」
妖精たちも、笑っていた。
*****
そのまま私はサラの元へ行った。彼女は私の話を聞いてくれた。
「師匠、もうあなたを負い目にしません」
「うん」
「あなたを負い目にすることで、私は自分を正当化していたんだ。王子としての使命を捨て、隠れてもいいと」
そう、今ならわかる。私は逃げていたのだ。サラが傷ついたことを理由にして。他人を傷つけたくないから、私は逃げても仕方がないのだと。私がかけた本当の呪いは、逃げるための口実だったのだ。
「でもね、メインデルト。私は今回のことで思ったことがある」
「なんですか、師匠」
「確かにお前は王子だ。その責務がある。だがな」
サラが私の耳元で囁く。
「守る価値のある存在なのか?親や兄は」
「なっ」
「いいんだ、自由に生きて。お前が求めるものがそれらを守ることなら、そうすればいい。違うのなら、ここで生きることもありではないのか」
「サラ……」
「お前の母親なら、そう言うぞ。私もな」
そう言った彼女の顔は、すっきりしていた。あまりにも穏やかな顔をしていたので、思わず尋ねる。
「師匠は、二日酔いにならないのですか?」
「そっちかい」
後日サラは、洗濯係から異動になった。リハビリに時間はかかるが、剣士として帰ってくると。
辺境伯様の妹君と一緒に恐れられていた騎士の復活である。
辺境伯領一同「怖い」
え、そっち?




