74・王子とサラの戦い
私はルカスを探した。まあ、普通にルカスが与えられている部屋にいたけど。
部屋の中はどんよりした空気のまま。わ、嫌だわ、入りたくない。
「ねえ、ルカス」
「なに?」
体育座りで部屋の隅にいるルカスに話しかける。こんなに落ち込んでいるルカスを見るのは初めてだった。
「自己嫌悪で自分を呪うくらいだったのに『実は治っていましたてへぺろ』って言われたら、落ち込むわよね」
「なんだ、てへぺろって」
デレクのつっこみは無視して。
「それならさ、憂さ晴らしが必要だと思うのよ」
「何しろって言うの?」
「サラさんと、戦ってみたら?」
「何?」
ルカスが体育座りの角度を、45度こちらに向けた。
「仮にもルカスの師匠だったんでしょ?もう元気って言うのなら、戦って確認してみたらいいのよ」
「そんなことできるわけ」
「どうして?もう元気だって言ってるじゃない」
「嘘をつくなっ!」
ルカスが勢いよく立ち上がり、そのまま私の襟首を掴んだ。
「私に嘘をつくな。そこまで愚かではない!」
「エミ、我々もわかっている。彼女の姿を見れば一目瞭然だ」
そうか、気が付いていたのね。
「ねえ、彼女が元気になって、それでめでたしめでたしには、ならないってことよね」
「そうだ、私がすべて悪い」
「それって、彼女のためになるの?」
「それは」
「あんたがいつまでもグチグチ俺のせい俺のせいって言っていたらさ、サラさんも困るんじゃないの?」
「そ、それは」
「本人は忘れて第二の人生歩んでいるのに、そんな呪いが発生してるって知ったら、ドン引くんじゃないの?」
「なんだそのドン引くは?」
デレクのつっこみは無視して。
「わかっているわよ。もうどうしようもないんでしょ。だから、戦ってみたら?」
「だから」
「サラさんをなめるんじゃないわよ」
ぴしゃりと告げると、ルカスは私を掴んでいる手を緩めた。
「あんたにサラさんの気持ちがわかるの?もうあんたも大人になったんだから、話し合うことも必要でしょ?」
「う」
ルカスが手を放して再び座り込んだ。私も彼の目線に合わせてかがむ。
「ということで、これから戦うわよ」
「サラと?」
「そうよ。もう準備は出来ている。いっしょに行こう」
*****
「辺境伯様、おまたせしました。準備は?」
「おう、問題ない」
やってきたのは、食堂だった。ギャラリーが山ほどいる。
「さて、メインデルト。お前にはこれから勝負に挑んでもらう」
「ここでですか?」
「そうだ。食堂の戦いと言えば、わかるだろ?」
「た、食べくらべ?」
「そっちじゃねえだろ」
そう言って、辺境伯様はジョッキをテーブルの上に置いた。
「飲みくらべよ!」
ギャラリーの大声援が響いた。
「メインデルト様」
「サラ……」
サラさんが、辺境伯様の横に並んだ。
「私は大丈夫。もう前に進んでいるんです」
「うん」
「私はあなたの師匠です。その私が言うんです」
サラさんがテーブルの上のジョッキを手にする。
「まだまだひよっこのお前に、私が負けるわけがないだろっ!」
歓声が一段と轟いた。
「さあ、これに勝てるの?ひよっこちゃん」
後ろからフランソワ様がルカスに抱き着く。
「兄上、もう飲んでおられるので?」
「まだまだあ~うふふふぐふ」
フランソワ様って、けっこう弱いのね。でも即自分で自分を治癒しているから、ずるいわ。
「さあ、ルカス」
ルカスにジョッキを渡す。私も、デレクもジョッキを持った。
「はああ、仕方ないなあ」
ルカスがジョッキを掲げた。困った時の彼の表情だ。でも、何かすっきりしている。
「負けませんよ、師匠」
「おう、望むところだ」
「それじゃあ、飲みくらべ大会、開始ー!」
戦いが始まった。食堂にいる全員が飲み始めた。
「え、全員参加?」
「誰だ、便乗して飲みまくろうという奴は?」
と言う辺境伯様も参加していませんか?




