73・真実の罪
私は知っている。
サラさんは洗濯室で、洗濯物を洗う係だ。彼女は繕い物作業は担当しない。洗濯室のリーダーのリンドに理由を聞いたことがある。
「あの子は手が少しね。細かい作業が出来ないんだよ」
洗濯室の仕事は思ったよりもハードだ。特に冬の寒さは堪える。だが、彼女は決して弱音を吐かない、強い人だと聞いた。
彼女は、今も戦士なのだ。
フランソワ様が、サラさんの髪をなでた。
「サラ、もう大丈夫よ。あなたはまた戦うことができる」
「私、また剣が持てるんですか?」
サラさんが自分の両手を見ている。
「まだ少し震えが残っているわね。でも、毒は完全に排除したわ。それに体が追いついていないだけ。少ししたら、震えは止まる」
「本当に」
「あなたは、自由よ」
まだわずかに震える両手で顔を覆う。そのまま嗚咽を漏らした。
「フランシス殿、うちの領民を癒してくれて、感謝する」
辺境伯様が頭を下げた。
「私の固有スキルは秘密でお願いね」
「そのスキルって『すごーくよく癒せる』ってことです?」
「そんな感じね」
いろんな固有スキルがあるとは言うけど、正直羨ましいわね。私のスキルも悪くはないけど。
さて、現状の確認ね。
「今後のために、一度確認させてちょうだい。ルカス、じゃなかったメインデルト王子は自分ではなく、あなたが毒を盛られたと言ってたわ。自分が父親に褒められて、その腹いせにって」
サラさんが頷く。
「ここからは推測だけど、その毒って、ルカスから貰ったんじゃない?」
全員が息を呑んだ。やはりそうか。
「そうです。あの時、メインデルト様はお茶会で頂いたお菓子を私にくださいました。それを食べた途端に」
「自分が与えたものに。だからルカスは余計に自分の責任だと思い込むようになった。それであなたはこちらに来たんですね」
「ええ。私がいては、彼の心がもたないと。メインデルト様はお優しいお方です。ですが、これでは王子として生きてはいけません。側室様は、王子を厳しくお育てしておりますが、今回のことはどうしても無理でした」
「私が側にいてやりたかったわ」
フランソワ様が、悔しそうに呟く。
「フランソワ様は、ご存知でしたか」
「私の情報網を舐めないでね。で、辺境伯様。あの子に聞かれたら『サラは完治している、安心しろ』って言う手筈になっていたのね」
「面目ない。妹からそう言えと。だが、私に芝居など出来るわけないだろ?」
「辺境伯様……」
確かに、無理矢理に納得させようとしていたわね。
そうだ、一つ大事なことを思い出したわ。
「実は、私の固有スキルで、彼が呪われていることがわかりまして」
「呪いですか?」
皆、驚く。
「何の呪いなの?誰がそんなことを」
「呪ったのは彼自身でした。彼は自分が目立つ存在になってはいけないと思っている。王に忠誠を誓う。決して王位を望むような姿を見せない。そうすることで、サラさんのような人を出さないためにと」
「そんな……」
「ルカスの心の負担を軽くする為に、あなたが完治したと嘘をついた気持ちは理解できます。でもそれは、あなたの体が元に戻らない場合の話で、もう完治したわけだから」
「話をこじらせてしまったわね。それなら早めに打合せしておいてよ」
「だから、私は演技が出来ぬと」
フランソワ様が辺境伯様に怒っている。辺境伯様は、自分の演技にこだわるわね。面白いからいいけど。
「ルカスは自分を呪うほど、苦しんだ。でも、サラさんが完治したわけだから、もう苦しむ必要はない。だけどただそれを口で言っても、彼は納得しないのではないかと思うんです」
「そうね、あの子の呪いは『自分のせいで誰かを傷つけるかもしれない』ということでしょ」
「はい。ですからそれを吹っ切るには、何をすればいいのか」
「辺境の男共なら、拳で語れば済む話だが」
「あの子は私と違ってデリケートなのよ。それにまだ完全回復していないサラではだめよ」
フランソワ様のドクターストップが入る。
それなら、ルカスが勝てそうな勝負は。そうだ、ひとつあったわ。
「サラさん」
彼女は涙を拭い、私に向き合う。
「ルカスと戦ってみません?」




