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72/80

72・メインデルト王子の怒り

 

 辺境伯様と共にやってきたサラさんは、洗濯室の女性達が着ているような所謂使用人服ではなく、騎士の装いだった。だがそんな彼女を見て、ルカスは驚いた様子を見せた。

 

「なぜ、あなたが騎士の姿で?痺れが残っていて戦えないと、そう言っていましたよね」

「もしかして、治ったのですか?それならよかったですが……」

 

 デレクも驚いているみたい。それなら早く知らせてくれればと思っているんだろうな。口にはしなかったけど。

 

「はい、私はこちらで療養し、騎士に戻っております。ご心配おかけしました」

「そういうことだ。こいつは、ピンピンしている」

 

 辺境伯様が、彼女の背を押して、我々の前に出す。

 

「お久しぶりです、サラ」

「ええ、お久しぶりです、メインデルト様」

 

 そこから話が進まない。

 

「お久しぶり、サラ。覚えているか。元第三王子のフランシスだ。あなたにはよく母と共に会っていたな」

「あ、はい。お久しぶりでございます」

 

 ぎこちない態度で、お辞儀をする。

 

「もう彼女は大丈夫だ。だから、メインデルト、もう心配しなくていい」

「それはそうですが」

 

 辺境伯様がずいとルカスの前に出る。

 

「連絡をしなかったのは、別に隠していたわけじゃない。妹から聞いている。お前は王子だというのに、過去に起こったことに気を囚われすぎていると心配していたから、知らせなかっただけだ」

「そんな……。皆には過去の話なのかもしれませんが、私はどうしても自分が許せなくて」

「それだ。いつまでも自分を許さない、そんなお前が心配だからこそのこと。わかってくれ」

 

 ルカス、なんだか納得出来ていないわね。仕方ない。自分を呪うほど、自己嫌悪に陥っていたルカスだもの。それが『もう治っているよ、過去は忘れよう』って言われてもね。

 

 それに、私は知っているから余計につらい。

 

 ルカスが溜息をつく。

 

「そうか、そうでしたか。私はそんなに頼りなく思えましたか」

「違う、そうじゃない」

「それなら、なんだと言うのです?私が頼りないから、隠していたのでしょう?」

 

 勢いそのまま、ルカスが部屋を出ていった。デレクも後に続く。

 大きな音を立てて、扉が閉まる。でも、私は動かなかった。

 

「本当は違うのでしょう?」

 

 私の声が、人の減った部屋に響いた。

 

「本当は後遺症は残っている。だけど」

「それ以上言うな!」

「真実は語りません。誓います。それを言いたかっただけ」

「エミの言ったことは真実です。私が保証します。そして、私も語りません」

「……感謝する」

 辺境伯様と、サラさんが頭を下げた。

 

「でも、だからこそ、治療はすべきよ」

 

 フランソワ様が聖魔法を手に籠める。

 

「だが、この毒は」

「そうね、普通の聖魔法では無理。でも、私の固有スキルなら」

 

 聖魔法の光が、小さな玉に変化した。ピンポン球くらいかしら。それをサラさんの額に当てると、そのまま体に入っていく。手を額に当てたまま、フランソワ様が目を閉じた。

 

「……だいぶ奧にあるわね。でも、大丈夫。すぐに治るわ」

「ううっ」

 

 やがて薄汚れた色の煙のようなものが、彼女の口から抜けていった。サラさんは、そのまま座り込んで肩で息をしている。

 

「回復まではもう数日かかるわ。ずっと毒もあなたの一部分だった。それをなくしたんだもの。少し休んでね」

「ありがとうございます」

 

 先程まで、彼女の顔色はあまり良いとは言えなかった。今は僅かだが、赤みを帯びている。

 

「ひどい毒だったのね。こんなに苦しそうで」

 

 見ればわかる。だが、ルカスは服の方に目がいってしまった。

 

「騎士服、あんなにサイズがあっていなかったのに、気が付かないなんてね」

「服なんて、関心がなければ気が付かないわよ」

「服か。それで気がついたと?」

「それもありますが、彼女は洗濯室仲間ですからね。気が付きますよ」

「エミさん……」

 

 そう、彼女は洗濯室の仲間だった。

 

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