66・ルカスとフランシスのお茶会(2)
「彼の仕業と言うのは?」
「言葉の通りよ。彼がバルトルトを操っていたのではなくて」
「何を馬鹿なことを。彼は、そんなことをする人ではありません」
兄は何を言っている。だが彼の目は、笑っていなかった。
「そう思う人間がいないわけではないと思うのよ。あなたも警戒しなさい」
「それは……確かにそうです」
確かに兄の言う通りだとは思う。ここの人たちは皆優しくて疑うことを知らない。だからこそ、私も警戒しなくてはいけないのだ。
「とは言っても、バルトルトはここに来たことすら覚えていなかった。それなら、エミがスキルで操るのは不可能では?」
「あ、バレちゃった?」
兄が舌をぺろっと出した。
「兄上」
「よかった。いろいろ考えているのね」
「当たり前です」
「でもね、珍しいスキルは本当に危険なの。使い方云々ではなく、誰かが自分の為に他人のスキルを、いかに美味しく利用するか。そう考える人間が山程いるのだということを、よく考えなさい」
「はい」
頷くしかなかった。
「それにしても厄介な話ね。光魔法使いの副長が操られるほどの力が、潜んでいたのよ。しかもそれは王都にいる」
「ええ、しかもそいつは、魔王を殺そうと仕向けていた。魔王は、眠らせるもの」
「そうよ。恐らく私達の目的を阻止しようと、何かの力が動いているわ」
「どうすればいいのか」
せめて疑心暗鬼にならぬよう、皆で連携していくしかない。
「皆をまとめあげねばなりません」
「あなたがやる?」
「いえ、辺境伯にお願いすべきかと」
「あなたがやっても、カッスールがそれを手柄にするだけだものね」
「それはまあ、今更ですね。その通りだと思います」
「そもそも、わかっているかしら」
「何がです」
「ここ辺境に、魔王対策で王子三人が集まっているってこと。ここで何かあったら、得するのは一人よね」
そうか、今、王子が三人も。長兄の顔が脳裏に浮かんだ。
「そんなに、王の地位って欲しいもんですかね」
「ホントよね。それより香水が欲しいわ」
「私はいい剣が欲しい」
互いに軽く笑ってお茶を飲んだ。少し冷めていて、でも、喉を優しく潤してくれた。
二人の茶会を終える頃、もう一つ言わなくてはいけないことを告げる。
「兄上にお願いがあるのです」
「何、お兄ちゃんがなんでもきくわ」
凄い速さで、私の両手を握りしめられた。
「以前、私の剣の師匠が、毒を盛られた話はご存知でしょうか」
「知ってるわ」
「倒れた時に神殿で聖魔法での治療は受けています。ですが、痺れが残っていると。お願いです、兄上のお力で、もう一度診ていただけないでしょうか」
「わかったわ」
兄上は、拳で自分の胸をポンと叩いた。
「私に任せなさい」
そう言う兄上は、なぜか男らしく見えた。子供の頃の、兄そのままだった。




