65・ルカスとフランシスのお茶会(1)
(ルカス視点)
「急に申し訳ありません」
「そんなことないわ。私もずっとあなたと話したかったのよ」
そう言ってお茶を用意してくれるのは、兄のフランシスだ。
異母兄だが、幼い頃は仲良くしていた。兄の母は元メイドで、私の母は側室だが元は辺境伯領の者。身分などあまり気にしない世界で生きてきた。
私達の母親が親友となるのに時間もかからなかった。そのおかげで私もフランシス兄上とは仲が良い。
だが、兄は所詮メイドの子だ。それを排そうとする者もいた。
そんな兄を守るために神殿に入れたのだが、元々兄は優れた聖魔法使いだった。
「この力を存分に発揮するには、やはり神殿で学ばないとね」
笑顔で兄は旅立っていった。その笑顔の裏に、辛い想いもあっただろう。それを一つも見せずに。
だが今思うと、もう少し話しておくべきだった。それならこんなことにはならずに済んだのではと、後悔ばかりしている。
「なあに、どうしたの?」
ティーセットをテーブルにセットして、私の顔を覗きこんでくる。
金色の長い髪がサラッと揺れて、私の頬に触れた。白く透き通った肌。唇は赤く、笑みを浮かべている。
「これで、男だと?」
「やだ、うれし。綺麗でしょ」
「そうですよ、綺麗ですよ、兄上」
「んもー、ちゃんとフランシスって呼・ん・で」
「呼べるかーっ!」
危なくテーブルをひっくり返すところだった。勢いで立ち上がってしまったので、腰を下ろした。
それを見てクスリと笑うと、兄も私の前の席に座る。
「それで、何を話したかったの?」
「それは……顔をみたら、何が言いたかったのか、忘れてしまいましたよ」
「そういうことにしておきましょ」
兄は笑っていた。その笑顔が無理に作っているようには見えなくて。それで私も笑った。
「兄上は今、お幸せですか」
「普通ね」
「え、そこは幸せよとか、弟を心配させないために言うのでは?」
「何それ、めんどくさい」
もともと兄は正直だ。その兄が言うのだから、嘘ではないと思うのだが。
「それでは先に仕事の話をしましょう。今日の件、どう思いますか?」
「そうね。あれは呪いではないの?」
「スキルだと聞いています」
「教えてくれたのは、エミさんね」
「はい……」
兄が口元だけで笑みを浮かべる。
「兄上、エミは」
「あなたのお友達、そうよね」
「そうです。事情を聞いてください」
私は兄にエミの事情を説明した。勇者の兄であったことを。
彼は黙って聞いて、お茶をひと口飲んだ。
「勇者様のためなら、仕方ないわね」
「頼みます」
「それにしても、不思議なスキルね。あれは彼の仕業ではないの?」




