64・聖女様が癒してくれました
「あ、副長のこと忘れてた」
隊員の一人がようやくバルトルトに気がついて、彼を抱き起こした。
「気を失っていますが、呼吸はしています」
「私が診ましょう」
背後からハスキーな女性の声が聞こえてきた。振り返るとフランソワ聖女様がおられた。
背が高い。フードを被らず、金色の長い髪をそのまま垂らしている。
ふと、私と目があった。口元だけ微笑んでから、すいと目を逸らされた。
そのままバルトルトの方に向かい、跪く。彼に手を当て聖魔法を送った。
しばらくすると、バルトルトが目を覚ました。
「う、ここは……」
「副長、わかりますか?」
「もう大丈夫ね」
「聖女様、ありがとうございます」
光魔法部隊の皆さんが口々に礼を言う。聖女様は微笑んで、立ち上がった。
「副長、耳の中大丈夫っす?」
ワンコが恐々聞いてくる。
「耳?なんの話だ?」
「え、覚えてないっすか?」
「そもそも、ここはどこだ?」
「「「はあ?」」」
何も覚えていないってこと?
「エミ殿。奴は何も覚えていないようでござる」
いつの間にか、日記帳さんが、私の前に浮いていた。
「お疲れ様。せっかく互いの意見交換したのにね」
「なあに、今度は夢枕に立ってやるでござる」
「……今日くらいはゆっくり寝かせてあげたら?」
「変わったスキルね」
ふいに、聖女様が話しかけてこられた。
「ええまあ」
やばいわ。聖女様に関わらないようにしようと思っていたのに。ガッツリ目の前で日記帳と会話してたわ。
「兄上、ありがとうございます。ご協力感謝いたします」
そこにルカスが間に入ってくれた。私も一歩後退して、一緒にいたデレクの後ろに隠れた。
「今度ゆっくりお話ししたいわ。エミさん」
笑顔だったけど、なんだか蛇に睨まれているような気持ちになった。
「なんだか目をつけられたような気がするんだけど」
「キチンと事情を説明したほうがいいかもな。兄とは話したいことが沢山あるから」
ルカスとデレクとボソボソ話していたら、部屋を出ようとしていた聖女様が凄い速さでこっちを向いた。角度が鋭角すぎて、怖い。首大丈夫かな。
そしてその勢いのまま、こっちへ突進してきた。
「今、今、なんて言ったの?」
聖女様が全力でルカスを揺さぶる。
「あ、あ、あ兄上と、おおっ、お話しがしたいとおおおっ」
「聖女様、落ち着いてください。こいつが壊れます」
デレクが聖女様を止めようとするけど、その間もルカスはぶるんぶるん揺れている。
「はっ、ごめんね。大丈夫?可愛い弟ちゃん」
一転して頭を撫でている。本人は目が回っているようだが。
「あ、兄上、お話ししたいことがあります。お時間を……」
「今話しましょう。すぐ話しましょう!」
「は、はあ。それでは」
聖女様はルカスと腕を組んで部屋を出て行った。早足で、しかもルカスの腕をぐいぐい引っ張って。
「そうよね、聖女様も体力仕事だもんね。馬力あるわよね」
「いや、そういうことじゃない」
ツッコミ仕事をしてからゆるゆると、デレクが後を追った。




