62・呪いがもう一つ
このまま放置しておきたいところだけど、リナリアを檻から出さないとね。
「お取込み中すみませーん。ソーサーさん、いらっしゃるかしら」
「おお、エミさん、妻は?」
「あなたーん、私はここよーん」
「おお、カップ!」
私の手からカップが飛び出し、そのまま宙を舞って、ソーサーの上に華麗に着地した。
「やっと尻にしかれる!」
「やっと尻にしく!」
……まあ仲のいい夫婦でよかった。上下関係がわかる会話だったけど。
「ということで、バルトルトさん、リナリアの檻を外してくれる?」
バルトルトが私を見る。
なんか、目が死んでる。というか、顔になんか書いてある。
「あれ、何?」
「エミさんが出ていった後に、日記帳が書いたんですよ」
ワンコが教えてくれた。
早く顔洗えるといいわね。きれいに消えるといいわね。
『私は胸派』って文字が。
バルトルトが軽く杖をふるうと、檻が消えた。
「リナリア!」
「お父様!」
辺境伯がリナリアを抱きしめる。よかった。無事みたいね。あとで大人バージョンに戻してあげないと。
にしても、どうして子供バージョンに戻ったのかしら。後で聞いてみますか。
とりあえず、メルヘン魔法を終わらせて……。
「ちょっと待って、時給制〜♬」
「あら、伝言妖精さん。どうしたの?今日は呼んでないけど」
「そうなんですけど、なんか匂いましてな」
いつの間にか、伝言妖精さんが、私の頭の上に座っていた。
「これ、ルカスはんと同じ匂いですわ」
「それってまさか」
「呪いですな。嫌、違うな……」
伝言妖精さんの目が、バルトルトを見ている。私は伝言妖精さんを頭に乗せたまま、彼に近づいた。
「ねえ、バルトルトさん、ちょっとこっちを向いて……」
その瞬間、全身が酷く震えた。何これ、怖い。思わず飛んで下がった。
「エミ、どうかしたのか?」
近くにいたデレクが私の行動に気がついて、寄ってくる。
「わからないけど、何かとても恐ろしいものがいた気がして」
「エミはん、当たりですわ。こいつの耳元見て!」
伝言妖精の声で、バルトルトの耳を見た。中に、何かがいる。
「うわ、キモっ!」
「キモキモですわ」
「あれ、取り除ける?」
「無理ですー」
「そうよね〜」
耳から出てきてくれたら引っ張るけど、あれは完全に入り込んでいる。何か黒いものが、耳の穴を完全に覆っていた。




