60・最強の味方、あらわる
「まじか」
「なんて恐ろしい」
「最強の敵だ」
光魔法部隊さんも、もちろん私も慄いている。
怖い、怖いわ。自分の日記帳が歩いてしゃべっているだけでも恐怖なのに、それが脅してきたわけよ。『日記、読むぞ』って。
「やめろ!読むな!」
バルトルトは杖を振るより、走ることを選択した。全速力で日記帳に向かって進んだけど、何かに弾き飛ばされ、転んだ。
そこには、赤く光るラインが引いてあった。その横に文字が。
『踊り子に触れないでください』
「……スタッフか」
ボソッとツッコミ入れたけど、反応はない。まあいいけど。
「まだわからぬようでござるな。先生の恐怖、しかと胸に刻むのでござる」
「待て、なぜ私に攻撃するのだ。私の日記帳なら、私の一番の理解者じゃないのか」
あ、こいつ、情に訴える作戦に移ったわね。
「副長、泣き落としは似合わないです」
ワンコ隊員、あんたらの人間関係なんか見えてきたわ。
だけど日記帳は、ピクリとも同情しなかった。
「そう、拙者、長年バルトルトに寄り添って生きてきた。だがな、お主とは絶対相容れぬことがわかったのだ!」
「私のやり方が気に入らないとでも言うのかっ!」
「いや、そこはどうでもいい」
「あれ、いいんか?」
こいつの傍若無人な態度に怒っているんじゃないの?
すると、日記帳が自分でページをめくった。文字がこちらにも見える。
「めくるなーっ!」
「『花の月8日、今日もいいお天気。お布団干せそう』」
「……は?」
「お布団?」
「読むなああああああっ!」
「『今日は聖女たんとお仕事。マジうれぴ。感激』」
「頼むから読むなああああああっ!」
「『聖女ココルたんは、かわゆすぎ。マジサイコー』」
「お願いやめてええええ!」
「拙者が許せぬのは、ここでござる」
「「「はて?どこに許せぬ箇所が?」」」
光魔法部隊さんと私が首を傾げた。バルトルトは、肩で息をしている。
「な、何がおかしいんだ。ココルたん推しで何が悪い!」
「あ、開き直った」
「ココルたん推しということは……お主、胸派だな?」
おおう。
「そーなの?」
「そーなんす。聖女の中でもトップクラスの……」
「だ、だからどうだと……」
「バッカモーン!!」
日記帳が飛んできて、自分の体でバルトルトの頬に往復ビンタをかました。バルトルトがひっくり返る。
そんで日記帳は、ささっと舞台に戻る。
「拙者は、腰派だーっ!」
「「「それかーい」」」
バルトルトが起き上がった。
「胸派で悪いかーっ!」
「嘆かわしい。お前の祖父は、そんな男じゃなかった」
「え、そんなに付き合い長いの?」
思わず話に割り込んだ。
「そうなのだ、エミ殿。拙者のこの日記帳のカバー部分は、こいつの祖父の代から使っておっての。拙者はその頃からずっと、こやつらの心の内を見続けてきたのだ」
「そう、そんなに長い付き合いで」
「こやつの祖父とその息子も、腰派よ。ふっ」
「「「はあ」」」
「だというのに、何を血迷ったのかこいつは」
「胸派の何が悪い!ココルたんの良さがわからない、お前が悪いんだろっ!」
「何い〜?お前こそ、サンノラたんの良さを知らんのかっ!」
……とりあえず、カップを回収しましょうか。ハンカチを出して、カップのカケラを集めた。
「ソーサーさん、ソーサーさん」
こそっと舞台端にいるソーサーさんに声をかけた。
「何ですか、エミさん」
「カップ奥さん、預かるわね。修理できる人がいるか聞いてくるわ」
「おお、感謝いたします!」
ソーサーが30度の角度でお辞儀した。
今度はワンコに確認する。
「ねえ、リナリアの檻は壊せないの?」
「あれは、副長でないと無理っす」
「そう。ちょっと出てくるわね。カップの修理を先にしないと」
「頼みます。ソーサーからとりなしてもらわないと、副長このままだとヤバいっす」
「あんたらも部屋から出たら?その、プライバシーとか……」
「「「いや、ガッツリ聞きます」」」
「弱み握る気マンマンなのね~」




