59・バルトルトと戦います
バルトルトは右手を上にあげると、指を鳴らした。
その途端、左手に杖が出現し、それを振るうと、部屋の隅にあった布が捲れた。そこには、檻があった。光魔法で作られた檻。
その中に、子供バージョンのリナリアが倒れていた。
「リナリア!」
駆け寄ろうとしたが、足元に攻撃を受ける。激痛で思わず倒れこむ。
「リナに、何をした!」
「通常死人なぞ、光魔法で消すことが可能だ。だが、こいつは逃げた。そんな生き物は珍しいからな。私の檻に収納しただけだ」
「早く解放しなさいよっ!」
「やかましいと言っただろう」
杖が動くのが見えた。
その前に「メルヘン!」と叫ぶ。メルヘンサークルが私を包み込んだ。
「ほう、それがお前の固有スキルか。確かになんと言ったか、聞き取れぬな」
こんな状況で歌えるかしら。でも、私とリナリアの危機よ。落ち着いて、私。
「誰か〜、助けて私とリナを〜♪」
「なんだ、歌で命乞いか?笑止」
「助けて〜、自慢じゃないけど、我々か弱い〜♬」
やっほいやっほい……。
「なんだ、この音楽は?」
ワンコが辺りを見回すのが見えた。その途端、部屋が真っ暗になった。
「何?明かりを」
誰かが叫んで、光魔法で辺りを照らす。
なぜか檻の横に、小さなステージが完成していた。
「あんなの、なかったはずだが?」
ステージに、スポットライトが当たる。
「レディースエンドジェントルマン〜♪お待ちかね、ショーの始まりだよーん♬」
そこにいたのは。
「お皿?」
手のひらくらいの皿が立っていた。
「違う、俺はソーサーだ」
「ソーサーって、カップの下に敷く」
ソーサーは普通横に置くけど、そのソーサーは立っていた。なんなら手足が生えていて、おまけにその足で立っていた。そして、喋っていた。
「見たことあるわね、その柄」
ソーサーには細かい花の絵があしらわれていた。可愛い柄。あら、さっき見た気がするわ。
私は恐る恐る自分の足元を見た。そこには同じ柄の、割れたカップが。
「まさか、このカップは」
「そう、それは、俺の相棒、そして、我が妻」
ソーサーがなんか光った。
「最愛の妻を、お前ら割りやがったな!許さねえ!」
「なんだこれは。そのような人形芝居のようなものが、お前の固有スキルなのか?」
はははと、バルトルトが笑い出す。
「笑うんじゃねえよ」
それを止めたのは、ソーサーだった。
「エミさんはな、そのスキルで俺を動かしてくれているんだ。俺の恩人のエミさんを愚弄するな!」
私、ソーサーに庇われている。
「ほう、そんな食器ごときが私を倒せると思うのか?」
「倒せるわけないだろっ!」
あれ、言い切ってる。しかもなんか、ドヤって顔してる。
「え、そうなの?」
あまりにも偉そうに、私こう見えて弱いです宣言しているソーサーに、みんな、えって顔してる。そんな我々を置いてけぼりにして、ソーサーが斜め30度くらいの角度でのけぞる。
「こんなこともあろうかと、助っ人を呼んであるのだ!」
「いつの間に」
ずんちゃずんちゃ。
音楽が流れだした。
そして、スポットライトがクルクルと周りだす。じゃーんという音と共に、スポットライトがステージ横に集中し、黒いものを照らし出した。
「黒い、手帳?」
光魔法部隊の面々も、舞台に見入っている。
「なんすかね、あれ」
「見たことあるような……あ、思い出したわ」
隊員の一人が手をポンと叩く。
「あれ、副長の手帳じゃないですか?」
全員でバルトルトを見る。彼は硬直して顔から大量の汗をかいていた。両手で服のポケットあたりを、上からボンボン叩きまくっている。
「ま、まさか」
「そう、そのまさかだ!」
ソーサーはドヤると、
「先生、お願いします」
と、手帳にお辞儀した。
「ただいまご紹介いただきました、先生でござる」
手帳もお辞儀する。
「これはご丁寧に。エミです」
「エミ殿。拙者も動かしていただき、感謝でござる」
手帳は本体を起こすと、バルトルトの方を向いた。
「バルトルト、先生は怒っているのでござる」
「なんだと、手帳のくせに」
「思い上がるなっ!」
いきなり手帳が怒鳴った。全員ビクッとなる。何かしら。正座しないといけないような空気になってきたわ。
「拙者、怒っているのでござる」
「黙れ!つべこべ言わずにこっちに戻って……」
「日記、読むぞ……」
手帳が怖いこと言ってきた。
「ねえ、もしかしてあなたって……」
信じたくない。だけど、もしかしたらあなたは。
「そう、拙者こう見えて、バルトルトの日記帳でござる」
「やめろおおおおおおーっ!」




