6・前世の家族を思い出しました
前世、うちは賑やかだった。
両親、姉3人、私と双子の妹の、合計7人家族だ。
元気な女王の母、そっくりな姉と妹。そして空気の父。
母は、岡田あかね。某商社のお局、もとい経験豊富な事務のリーダー。普段は手芸大好き主婦だけどね。職場でも家でも、女王ではある。
1番目の姉、岡田みずほは、我々姉妹のリーダー。母と一緒で手芸大好き。特に服のデザインを考えるのが好き。だけど、直感タイプというか。
「だーっとなって、だーっと描いて」
という程度しかデザイン画とかには表現できないんだけど、実際作ってみると「おおお!」と驚く発想の持ち主。
2番目の姉は、岡田いぶき。元々絵を描くことが好きだったけど、みずほ姉の誰もわからない表現を感じ取ることが出来る唯一の人で、それを描いていたら更に絵が上手くなったという苦労人。
3番目の姉は、岡田まい。まい姉は、一見無口。だけど、その表現力は凄い。なんか作ってるなーと思っていたら、凄く細かいドールハウスを作っていたり。それも何かを参考にしたというより独創性があって。そう、クリエイターって感じかな。
私の双子の妹・岡田あかりは、手芸には興味を示さなかったけど、私達が作っているのを見るのは好きだったわね。
父は、岡田 新。整体師。母との出会いは、仕事と趣味の手芸のせいで肩も腰もボロボロの母が、通りすがりの整体院に行き、そこでゴッドハンドの父と出会って一目ぼれしたってわけ(主に腕前が)。我が家の空気。以上。
そんな環境で育った私は、家族が大好きだった。
母や姉達は、手芸が大好きで、私も一緒になってやった。編み物、パッチワーク、ビーズもハマったし、服も作った。様々な手芸を姉妹みんなで楽しんだ。
あまりにも姉達と遊んでいたせいか、言葉遣いが似てしまい、クラスで馬鹿にされたけど、あんまり気にならなかった。
「うちの姉ちゃん達にそのこと言ってみたら?」
姉達の怖さを知っている連中は、速攻黙った。うん。
だが、妹のあかりは手芸には興味を示さなかった。あかりがハマったのは、野球だった。父がテレビで野球観戦していた時、何気なく見たあかりがハマった。
「パパ、私も野球やってみたーい。ねえ、キャッチボールしようよ」
父が涙を流した。
「やっと、やっと僕の出番が…」
無表情のまま、涙が止まらなかったので、家族みんなでドン引きした。
うん、パパ、なんかごめん。私は野球より手芸だったし。突き指したくないじゃん。
キャッチボールと父のせんの…う、じゃない、学習の甲斐あって、すっかり野球にハマったあかりは、リトルリーグに入った。
週末は父と妹が野球に行く。私達は手芸屋に行く。それで帰りに落ち合って、ファミレスでランチを堪能するのが、その頃の楽しみだった。
あかりは中学に上がったときに野球からソフトボールに転向した。たまたま入った近所の公立中学が、ソフトボールの強豪校だったからね。毎日楽しそうだった。
高校は私とは別の学校に行った。もちろんソフトボール部の強豪校。
私は被服科のある学校を目指した。やっぱり服飾とかそういう仕事に就きたいと思っていたし。姉達もそういう道を歩んでいたから余計にね。
だけど、高校2年のとき、本当に突然だった。
あかりが、いなくなった。
部活までは所在は明らかだった。その後帰宅するときに、消えてしまった。途中まで一緒だった友達は泣きながら、家の近くまで一緒だった。家出する素振りなんてなんにもないですって言ってた。
みんなで探した。毎日毎日。
本当に、悲しかった。
大好きな手芸を、誰もやらなかった。
父は野球観戦をしなかった。
半年後、ひょっこりあかりが帰ってきた。
私が学校から帰ってきたら、玄関に見慣れたシルエットが立っていた。
「あ、あかり?」
「お、ひかりちゃんも今帰り?」
にっこり笑って振り返ったあかりは、いつもとまったく変わらなかった。
「あ、あかりいいいいーー!」
全力で抱きついて号泣する私に、あかりは悲鳴をあげた。
「何よおおおお、ひかりちゃん、怖いんだけどおおお」
その声を聞いて、家族が飛び出してきた。
「あかりだああああー!」
「ひいいいいいいー!」
玄関先で家族全員が号泣する姿が。ご近所さんも、泣いていた。
最後には拍手がおきて、それで全員我に返って、周りにお辞儀してそっと家に入った。
あかりは、何にも覚えてなかった。
本人としては普通に学校から帰ってきたら、半年後だった、という感じだ。
「タイムリープね」
と、それらしいことを言ってうんうん納得していたのは、三女のまい姉ちゃん。私たちも、そんなもんか(知らんけどー)と納得したが、世間様はそうはいかん。警察が来たり、いろいろ苦労もあった。
学校は行きにくいということで、別のところになった。
というか、結局真相が闇の中だったから嫌な噂がたったのよね。家出とか、誘拐とか。人ってなんでも面白おかしく話すから。なので、結局通信制の高校になった。
不思議とあれほど好きだったソフトボールをやりたいとは言わなくなっていた。
あかりは、毎日ぼーっとしていた。我々家族は本人の自由にまかせようと、見守った。
ある時、一緒にアニメを観た。女の子が変身して戦うやつ。珍しくあかりが、真剣に観ていた。
「面白かった?」
「うん、すっごく。今までそんなにアニメに興味なかったんだけどな」
「いいんじゃない」
「そうだね」
あかりは笑っていた。
「主人公の衣装可愛かったね。着てみたいかも」
その言葉に、家族がぐるんと振り向く。
「あ、あかりが可愛い衣装を着たいだとう?」
「あの、あかりが?」
「ジャージと制服しか着ないあかりが?」
「これは…」
やらねばならぬ!家族の心が一つになった!父は空気のままだった!
それからしばらくたって。
「あかり、ちょっときて」
「なあにー?」
リビングのソファにいたあかりを呼ぶ。そこには家族全員が立っていた。
「あかり、じゃーん」
長女のみずほ姉が、後手に隠していた服を見せる。
「ああっ、魔法少女グリーンスノウの衣装だーっ。どうしたのこれ」
「姉ちゃん達が作ったのよ、もちろん私も」
「さあ、あかり、着てみて頂戴」
「うん、ありがとうお姉ちゃんたち」
これが、あかりがコスプレにハマった瞬間だった。
どうせコスプレするなら、とことん極めようとするのが、我が岡田家だ。衣装から小物、写真撮影するならカメラから背景などなど。
岡田家全勢力が導入され、もんのすごおい写真が完成した。
それをネットにアップしたり、コスプレイベントにも参加したり。あかりは、そっちの世界で人気者になった。
ようやく、あかりが心から笑顔になってくれた。
高校を卒業して、あかりはアニメ系の専門学校に、私はやっぱり服飾関連の専門学校に進学した。
「ひかりちゃんの将来の夢って何?」
家族で進学祝いにご飯を食べに行ってたときに、あかりが聞いてきた。
「そういえば言ってなかったっけ。私の夢は、繊維問屋に勤めることよ!」
「はあ?」
家族全員の頭にハテナマークが浮かんでいた。
「繊維問屋で働いて、社員割引で、布を安く買うのよ!」
「それいいな!姉ちゃんにもまわしてまわしてー」
「任せなさーい。そんで、いろいろ学んでコネ作って、将来は自分の手芸店を作るのー!」
「いいなあ、お店かあ」
「そう、手芸教室とかも開いて、みんなで毎日手芸するの」
「それ、うちにいるのと変わりないじゃん」
「それもそうねー」
家族みんなで笑った。そう、みんなで楽しく作るのが大好きだったから。それを仕事にしたいなって思っていたんだ。
だけど、それは叶わなかった。
レストランからの帰り道、私達のところに、車が突っ込んできた。
みんな逃げた。でも、逃げ遅れたのは、あかり。
だけど。
もう二度と、あかりを家族から離したくなかった。
私は、走った。全力で、走った。あかりを思い切り突き飛ばした。
ああ、これで大丈夫。振り向いて、ライトの眩しさに目を細めた。
あとは覚えていない。
魔法少女グリーンスノウは、別の作品で出る予定です。
まだ構想中ですが、いつか発表したいです。




