56・聖女が辺境にやってきました
たぬきちと出会ってから、すでに3日ほどたっていた。
毎朝キムラサンにご飯を預けて、たぬきちを可愛がってもらっている。夕方小屋に行き、私もたぬきちを可愛がってから、1日が終わるというサイクルで楽しく過ごしている。
ある時、デレクが部屋にやってきた。
「明日、王都から、第二聖女様がやってくることになった」
「治療担当部門の到着ってこと?」
「ああそうだ。恐らく大丈夫だとは思うが」
「そうね。世の中に変化スキル持ちはいるから、何も言われないとは思うけど」
教会に所属する聖女はたくさんいる。その中でも番号で呼ばれる方は、高魔力・優秀なスキル持ちだ。今回その中でもナンバー2にあたるお方とそのお仲間が、多数こちらにお越しになるという。その中に鑑定スキルなどの、持ち主がいてもおかしくない。
その力で私の正体がばれて、あかりに知られるようなことがあったら。
「私のことは、そっとしておいてくれるといいけど」
「もし何か言われたら、俺やルカスに声をかけてくれ」
「よろしく頼むわ」
デレクに礼を言った。
*****
(ルカス視点)
辺境伯領の城の地下に、王城につながる転移魔法陣がある。今日はそこから聖女達がやってくる。
「今日来ることになっているのは、聖女と治癒魔法使いだよな」
「ああ、あと光魔法系の使い手も何人か来るらしい」
何も問題がなければいいが。
私の前に、第二王子のカッスールが立っている。こういう目立つ時のみ仕事に現れるのは、いかがなものかと思うが。
「また、余計なことをしなければいいけど」
私のぼやきはデレクに聞こえたようで、苦笑いを浮かべていた。
転移魔法陣のゲートが光だした。
「ようやくお目見えか」
叔父の辺境伯がぼやいた。確かに予定の時間から、だいぶ遅れていた。
ゲートからローブ姿の者が現れた。先頭の者が礼の姿勢になる。
「遅くなり申し訳ございません。本日からこちらでお世話になります、光魔法部隊、治癒部隊、到着いたしました」
口上を述べた者に見覚えがあった。彼は確か。
「ご苦労。魔王討伐に向けて、全力を注ぐがよい」
勘違いな激励をとばす第二王子に苦笑いを浮かべているのは、私と叔父上か。魔王は殺す相手ではないのというのに。
「もちろんでございます。よろしくお願いいたします」
だが男は否定せず、カッスールに礼をすると、横に移動して後続の者達に場を譲った。
「あれは誰だ?」
叔父上が私の側で声を落として尋ねた。
「はい、魔道師団の光部隊の副長です。名前は確か」
「バルトルト・ヤーン。ヤーン伯爵家の次男でしたか」
デレクが補足する。
「光魔法の一族か」
叔父上が、ああと思い出したように頷く。そう、光魔法士であることを鼻にかけた、性格の悪い奴だ。
「ダメだな。ここに来てから、口が悪くなった気がする」
「安心しろ。元からだ」
「酷いなデレク。君も同じだよ」
「エミに会って、学生の頃に戻ったんじゃないか?」
「そうだね」
否定はしない。私も少しは力が抜けてきたのだろうか。
光魔法士達の後に、教会の者達が入ってきた。修道女・修道士服に身を包んだ者たちが、次々やってくる。
聖女、聖人。皆礼儀正しく我々王子達は勿論、辺境伯家の者にもお辞儀をしていく。
最後に入ってきたのが、恐らく第二聖女か。部下に片手を預けて、一歩一歩ゆっくり歩いてくる。少し背の高い、スラリとした肢体を修道女服に包んではいるが、その風角には違うものがあった。
「あ、あれ?」
近付いてくるにつれて、その顔に、目が釘付けになる。まさか、そんな、え、どういう。
「落ち着け」
「お前もな」
デレクがこそっと言うが、そういうお前も、顔が引きつっているぞ。
その人物が、カッスールの前に立った。その時になって、ようやくカッスールも気がついたようだ。
「ま、まさか、お前は……」
「はあーい、お久しぶりね。私の可愛い兄弟達」
そう言うと、彼はフードを外して微笑んだ。
長い金色の髪は腰近くまで伸びていた。顔には化粧が施され、唇は赤く染まっている。
「あなたが、聖女か?」
叔父上はまだ冷静に対応している。多分わかっていないのだろう。
「ええ、わたくしが此度のお役目を拝命しました、第二聖女のフランソワと申します」
「「いや、フランシスだろっ!」」
珍しく、カッスールと息があった。思わず二人で目を合わせる。
そこにはカッスールの弟で私の兄である、第三王子のフランシスが、女性用の、そう修道女服を着て、立っていたのだ。
「せ、聖女?」
叔父上の声が、ひっくり返っていた。




