55・我は、たぬきち
内容の都合でかなり短いです。すみません。
(たぬきち視点)
我は、名前がない。
いつも、どの時代に生まれても。
ただ、奴らは我を『魔王』と呼んだ。
我は通常、眠っている。
だが、何かが我を揺り起こす。
我はそれに従い、目覚めるだけ。
そして、我のするべきことを、なしとげるだけ。
此度もふと、目覚めた我は、辺りを見回した。
森の中。
目線が低い。
氷魔法で鏡を作り出して、自分の姿を映し出す。
そこにいたのは、見たことのない動物だった。四つん這いで、全体に茶色の毛に覆われた生き物。目の周りが黒い。
「ふむ、悪くはない」
うむ。
「なかなか良いな」
こっくり、頷く。
そのまま森で過ごしていたら、これまた見知らぬ生き物に保護された。
木が歩いていた。
我も長年生きているが、初めて見る生き物だった。
魔物のトレントはもちろん知っている。だが、木が歩いて歌って、踊っているのだ。
魔王もびっくりである。
そいつが自らの材木で、箱を作って我を収めた。
その箱を自分の枝と葉の中に隠したのだ。人間で言えば、頭の中か。
全く意味がわからなかった。
だが、奴の主人という者が我を保護した時、木が行った意味に気がついた。
奴は我を保護したのではない。主人を守ろうとしたのだと。
木の主人は、我が可愛いと言った。
可愛いに弱いのだと。
そうか、『可愛い』は、技なのか。
我は可愛いと思われるポーズをきめてみた。
奴が倒れた。
ほほう。これは使える。
今まで何度も勇者や他の人間と戦ってきた。
だが、今までの苦労がなんだったのかと思うほど、あっさり倒すことができた。
素晴らしい。
我はこの可愛い技で、戦っていこう。
大丈夫、我は強い。




